京都大学新制・課程博士博士(法学)甲第22934号法博第254号新制||法||171(附属図書館)京都大学大学院法学研究科法政理論専攻(主査)教授 鈴木 秀光, 教授 伊藤 孝夫, 教授 佐々木 健学位規則第4条第1項該当Doctor of LawsKyoto UniversityDGA

木下, 慎梧

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:清代中国における訴訟係属手続―地方での事例と官僚の認識を中心として―( Abstract_要旨 )木下, 慎梧木下, 慎梧. 清代中国における訴訟係属手続―地方での事例と官僚の認識を中心として―. 京都大学, 2021, 博士(法学)2021-03-23https://doi.org/10.14989/doctor.k22934学位規則第9条第2項により要約公開; 許諾条件により要約は2022-03-20に公開  （ 続紙 １ ）                             京都大学 博士（法学） 氏名 木下 慎梧 論文題目 清代中国における訴訟係属手続――地方での事例と官僚の認識を中心として――  （論文内容の要旨）  本論文は、清代中国における訴訟係属手続について、主に具体的事例と地方官の認識の検討を通じてその実態を解明し、当時の裁判の特質を考察するものである。 清代の裁判は皇帝を頂点とする官僚制によって担われ、最小の行政区画である州や県に派遣された州県官に対して管轄下の人々が書面でもって訴えを提起することで開始することが原則であった。しかし関連する手続法が十分存在しない中、その内実は必ずしも一様では無いことは知られていたものの、その実態は十分に解明されていなかった。本論文は、そうした清代における訴訟係属手続の実態について、地方官の自発的な事案探索を端緒とする「訪案」（第２章）、書面による訴えの提起を州県官がどのように扱ったかという「准」と「不准」を巡る問題（第３章）、そして州県官の上司たる府の長官による直接の訴訟係属を含む初審としての機能（第４章）に注目して検討するとともに、その前提として在地管理者の裁判実務や紛争解決補助について検討を加えている（第１章）。  第１章は、訴訟係属段階を含め、主に官の命令によって官を補助する形で裁判に関与した在地管理者による裁判実務や紛争解決補助のあり方について、先行研究より得られた知見に加えて官僚の認識を交えて検討を加えている。まず清代の在地管理者について、様々な名称で呼ばれ、その組織や編成も様々であったが、その職務としては官による法執行の補佐役という側面と在地における紛争の防止や解決という側面が存在したことを指摘する。次に、こうした在地管理者に関して、彼らを実際に用いる地方官は、地方における裁判を含めた行政運営を支える存在としてその重要性を指摘する一方で、不正行為や越権の可能性に対して厳しい目を向けることも少なくなかったとする。そして地方官のみでは裁判を含めた行政運営に支障をきたすという状況の下、在地管理者を用いざるを得ないものの、その活動には一定の警戒感がもたれていたとする一方、彼らは官公認の紛争解決者と見なされていたことから、在地の知識人等に比して裁判への関与は肯定的に捉えられていたとする。  第２章は、清代における地方官による自発的な事案探索を端緒とした訴訟係属事案たる「訪案」について、その内実と意義を明らかにする。まず「訪案」となる場合、風聞や聞き込みによる事案の探知がなされたが、具体的には地方名望家や部下からの情報、下僚からの報告書の確認など複数の情報源や手法によってなされていたとする。また「訪案」の対象として、先行研究が指摘する犯罪性とは必ずしも結びつくものではなく、地方官の統治の必要性により選別されるもので、既に発生した事案のみならず、今後重大事案に発展する可能性があるものも対象とされたとする。そして「訪案」に対する官僚の認識として、誣告の防止や在地管理者の治安維持活動への懸念からこれに期待を寄せる一方で、実際の捜査活動者による不正の危険性や伝聞情報の信頼性への懸念から安易な実施は憚られるとも見なされていたことを明らかにする。  第３章は、書面による訴えの提起から始まる「訟案」と呼ばれる訴訟係属事案において、州県官がそれをどのように取り扱ったかについて、従来の「准」・「不准」の二分法に対して、それに加えて「未准」という領域も存在したとする近年の研究を念頭に、その内実と意義を考察する。まず「不准」について「未准」との関係から検討し、少なくとも先行研究が対象とした巴県を除いた他の地域では、両者ともに訴状を読んだ地方官が訴えを取り上げないとするその時点での判断に過ぎないとする。次に「准」について検討し、特に在地での紛争解決を命じる内容が「准」から「不准」のどこに属するか  について、地方官や訴訟当事者の意図により様々であったことを指摘する。そして以上の二点より、当時の訴訟係属の判断は「准」から「不准」に至るグラデーションの如き連続体の中でなされるものであったとする。また「未准」に関する地方官の認識について、在地での紛争解決に対する見方自体が一様ではない中、実効性のある紛争解決を目指して在地に解決を委ねようとしたことから曖昧な内容の指示が示され、それが「未准」という判断領域を生み出したとする。そしてこうした「准」から「不准」に至る対応は、現代日本における明確な「受理」・「不受理」とは異なる一方、前近代中国法の特徴である形式主義的要素の希薄さの訴訟係属段階での現れと評価する。  第４章は、州県官の上司たる府の長官による直接の訴訟係属を含む初審としての機能を、特に越訴の取り上げとその審理を通じて検討する。まず律例の越訴の規定を確認し、律自体は越訴を行った当事者を処罰する規定であるも、乾隆期の条例ではそれを受理した上司の側を処罰することが明確に規定されていたことを指摘する。次に府による越訴の取り上げとその審理について検討し、事案の取り上げにせよ審理にせよ州県における初審と大きく変わることは無く、事案の重大性を基準とした選別はなされていなかったとする。そして府の長官が越訴を取り上げる背景として、民衆が越訴を行うことにはそれなりの理由があるはずで、形式的に却下することは避けるべきとの認識があったことを明らかにする。  本論文では最後に、以上の検討を踏まえ、清代中国における訴訟係属手続とは、各地方官が状況に応じた必要性を独自に考慮して裁判を開始する否かを判断する手続であり、地方において柔軟・多様で曖昧な領域を有する実務に支えられていたと結論づける。そして、訴訟係属手続から見られる当時の裁判の特質として、適切な手続・紛争解決の実現をめぐる均衡点の模索、手続の柔軟性・曖昧さ、訴訟係属基準としての将来的動向を指摘する。また訴権や訴訟方式が予め定められている西洋の裁判と比較して、清代中国の場合はそのような仕組みが存在しないことから、地方官が解決に至る過程と解決策とを全て考えなければならず、そのことが将来的動向を踏まえた訴訟係属をもたらしたとする。     （続紙 ２ ） （論文審査の結果の要旨）  本論文は、清代中国における訴訟係属手続について、主に具体的事例と地方官の認識の検討を通じてその実態を解明し、当時の裁判の特質を考察するものである。 本論文の長所としてまず挙げられるのは、当時の裁判の特質を解明するにあたって訴訟係属手続に着目するというその着眼点である。裁判の特質の解明に際しては、多くの場合、実際の審理過程や判決内容等に注目しがちである。しかし本論文では、清代中国の裁判手続において形式性が乏しいことより、いかなる事案を裁判に取り上げるかという訴訟係属自体が裁判全体の性格を相当程度決定付けると見なし、これまで実態が十分判明していなかった訴訟係属手続の解明を主題として設定した。このことは、本研究が、狭く訴訟係属手続の解明のみならず、より広く裁判の特質を解明することに関しても大きな貢献をなすものとして高く評価できる。  また史料の博捜およびそれに基づく実証的解明も長所として挙げられる。そもそも訴訟係属手続の形式性が乏しい中、その解明には各時期・各地域に分散する具体的事例に直接依拠せざるを得ないが、それらを丹念に収集・分析するのみでも相当な労力と力量が求められる。これに加えて本論文では、当時の実務を担った官僚の見解に関する史料も収集・分析することで、訴訟係属手続の実態のみならずその背景にまで踏み込んだ議論を実証的に展開している。史料から論点を引き出すことについても、基本的に謙抑的な態度に終始することで確実な論証を期していることから、全体としては説得力ある論理展開を実現している。こうした作業の実現には研究者として相応の能力が求められるが、本論文はそのことが十分に確認できるものと評価できる。  一方で本論文は、史料から論点を引き出すことに謙抑的であることから、ともすれば史料分析が表面的なものに止まり、結果として論証内容に物足りない点が部分的に存在することは否めない。また史料分析自体が不十分であることも若干見受けられる。しかしこうした点は著者自身も自覚するところであり、今後の研究の進展によって順次解消されていくと考えられる。  このように今後に課題を残す部分があるが、清代中国の訴訟係属手続を丹念に検討することを通じて、狭く訴訟係属手続に止まらず、より広く当時の裁判の特質に関しても実証的成果を挙げた本論文の価値は、そのことにより減じることは無いと言えよう。 以上の理由により、本論文は博士（法学）の学位を授与するに相応しいものであり、かつ、学界の発展に資するところが大きく、特に優れた研究であると認められる。 また、令和3年1月25日に調査委員3名が論文内容とそれに関連した試問を行った結果合格と認めた。 なお、本論文は、京都大学学位規程第14条第2項に該当するものと判断し、公表に際しては、当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める。 要旨公表可能日：   年   月   日以降 

清代中国における訴訟係属手続―地方での事例と官僚の認識を中心として―

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/263395/2/yhogk00254.pdf

清代中国における訴訟係属手続―地方での事例と官僚の認識を中心として―

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