Kabuki症候群の分子遺伝学的原因検索 ─ 先天奇形症候群における遺伝学的背景 ─

Abstract

先天奇形症候群は、ヒトの発生過程で形態形成に異常を生じたために起こる疾患である。個々の疾患は稀であっても総計では全出生児の約2 - 3%の頻度でみられ、先進諸国では新生児の死亡原因の第一位を奇形症候群が占めている。生存児においては多様な合併症の管理や社会適応上の問題などの課題があり、治療・養育方針を立てるためには正確な診断が必要となる。また先天奇形症候群の多くは発生初期の遺伝子機能異常によりもたらされるものであるため、その研究はヒトの形態形成の道すじを解明することにつながる。Kabuki症候群(新川-黒木症候群)は1981年に最初に報告され先天奇形症候群の一つとして現在確立しているが、その原因は全く知られていない。今回我々はこの原因を特定すべく3つのアプローチにより研究を行った。 第1に、転座切断点からのアプローチである。Kabuki症候群の1例において、染色体相互転座および転座切断点での欠失があることが同定された。その中国人患者の核型は46,XY,t(8;18)(q23;q21)であり、切断点解析により8q23-24に約6.2 Mb、18q21に約1.7 Mbの欠失があることが示された。この領域の27遺伝子を責任遺伝子の候補とし、日本人 Kabuki症候群患者30人に対して変異検索を行ったが、明らかな変異は検出されなかった。 第2のアプローチは分子核型分析(Molecular karyotyping)である。Kabuki症候群の日本人患者17人に対し、オリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix社 GeneChip 250K)を用い、9箇所の微細欠失(最短35 kb、最長1.27 Mb)および9箇所の微細重複(最短72 kb、最長877 kb)を同定した。4つの候補遺伝子に対し、日本人患者41人に対して変異検索を行った。患者に共通した原因となる部位・遺伝子の同定には至らなかったが、1患者において9q21.11-q21.12 の部位が粘膜下口蓋裂の症状に関与する可能性を指摘することができた。アレイには種々のプラットフォームがあるため、Kabuki症候群患者におけるゲノム構造異常の検出にはさらなる研究が必要である。この結果は Journal of Human Genetics で印刷中である。また、2007年にMaasらがKabuki症候群の責任遺伝子の一つとして報告したC20orf133 (MACROD2) 遺伝子の検証を日本人患者において行ったところ変異は同定されなかった。この結果は Journal of Medical Genetics 45: 479-480, 2008 に発表した。 第3のアプローチは、候補遺伝子である。細胞内シグナル伝達系 RAS-MAPK pathway の遺伝子の胚細胞系列の変異によりNoonan症候群、Costello症候群、Cardio-facio-cutaneous症候群が発症することが知られている。そこでKabuki症候群における同系列の遺伝子群の関与の可能性を考え、RAS-MAPKパスウェイ上の16遺伝子の全コード領域について日本人患者30人に対し変異検索を行ったが、これら遺伝子に変異を認めなかった。この結果は American Journal of Medical Genetics Part A, 146A: 1893-1896, 2008 に発表した。 以上の3つのアプローチからはKabuki症候群の原因を特定することはできなかった。有名な先天奇形症候群のなかで原因・遺伝子座ともに不明の最後の症候群ともいえる Kabuki症候群の原因同定については従来とは異なるアプローチが必要になることが予測され、形態形成の病態解明におけるブレイクスルーが待たれる。長崎大学学位論文 学位記番号:博(医歯薬)甲第283号 学位授与年月日:平成21年9月18日Nagasaki University (長崎大学)課程博

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