田中 宏二

谷口 弘一

教育実践総合センター紀要, 10, pp.27-31; 2011departmental bulletin pape

谷口, 弘一

田中, 宏二

Nagasaki University's Academic Output SITE: NAOSITE

「研究論文jサポートの互恵性と精神的健康に関する縦断的研究(3)一小学生の友人関係初期に着目してー谷口弘 (教育学部人開発達講座)田中宏二(岡山大学)問題と目的Taniguchi & Ura (2005)は，小・中・高校生を対象にして，友人関係におけるサポートの互恵性と精神的健康との関連が発達に伴ってどのように変化するか検討した。その結果，高校生においてのみ，サポートの互恵性と精神的健康の聞に U字型の 2次関係が認められた。すなわち，高校生の友人関係では，相手とのサポートが互恵的であるほど，抑うつが低いということが明らかとなった。また，谷口 ・浦 (2003)は，小学生と高校生を対象にして，関係の進展段階によって，友人関係におけるサポートの互恵性と心身の健康との関連がどのような影響を受けるかについて縦断的研究を行った。分析の結果，小学生では， 1学期および 3学期のいずれの時点においても，互恵性はストレス反応と有意な関連を持っていなかった。一方，高校生においては， 1学期の時点では，互恵性とストレス反応との聞に有意な関連は認められなかったが， 3学期の時点では，有意な 2次の傾向を示 Lた。これらの結果から，友人関係におけるサポートの互恵性が精神的健康と関連を持つためには，第一に個人内の発達段階が高いこと，次いで，友人関係自体が進展していることが必要であることが明らかとなった。谷口・田中 (2007)は，関係の進展段階の影響についてさらに詳しく検討するために』関係形成の初期段階に焦点を当てた研究を行った。彼らは，大学新入生を対象にして!知り合ってから l週間後， 2週間後， 4週間後， 3ヶ月後の合計 4回にわたる縦断的調査を実施した。その結果，出会ってから 4週間後までは z サポートの互恵性と精神的健康との関係は，互恵状態を頂点とする U字型の 2次関係となることが確認された。また，親密性地位~Ijに比較検討を行ったところ，親密な関係に至った群では，全体サンプノレと同様の結果が示されたが，表面的な関係にとどまった群では，出会ってから 2週間が経過すると，サポートの互恵性と精神的健康には有意な関連が見られなくなっていた。これらの結果は ，(1)関係の極めて初期段階では互恵的な関係が重視されること， (2)出会ってから 2週間前後でその後の関係の進展方向が決定されることを示唆している。本研究では，発達段階の異なる小学生を対象にして，出会ってから 2週間後， 4 週間後， 3ヶ月後におけるサポートの互恵性と精神的健康との関連について縦断-27ー的検討を行った。方法調査対象者と 飼査手続き新設の小学校に入学した 3年生 60名が調査に参加した。調査時期は，第 l回目(Time 1)が入学後約 2週間，第 2回目 (Time2)が間約 4週間，第 3回目 (Time3) が同約 3ヶ月であった。各学級担任の先生が競査を実施した。掴査内容ソーシャルサポー ト 嶋田・岡安・坂野 (1993)が作成した小学生用ソーシヤノレサポート短縮版 (5項目)の中から，実行されたサポートにも適用可能な 4項目を選択して用いた。鯛査参加者は，小学校入学後に仲良くなった向性の友だちを l名挙げ，最近 l週間で，その人からどの程度のサポートを受け取ったか，また，その人に対してどの程度のサポートを提供したかについて， “まったくなかった(1点)"-“よくあった (4点)"の 4件法で回答した。各項目の合計点を求め，それをサポート得点とした。ストレス反応 岡安・白地 ・高山(]998)が作成した児童用ストレス症状尺度 (12項目)を用いた。調査参加者は，各項目によって示されている気持ちゃ体の調子が，最近の自分にどの程度当てはまるかに基づいて， “ぜんぜんあてはまらない(]点)" -“よくあてはまる (4点)"の 4件法で回答した。各項目の合計点を求め，ストレス反応得点を算出した。得点が高いほどストレス反応の程度が高いことを示す。関係親密性 中村 (1990)の尺度を参考にして，小学生にも理解できるように，教示文と選択肢を変更したものを用いた。本尺度は， Time 3の時点において l回のみ実施された。調査参加者は，当核時点における相手との親密性を， “ぜんぜんなかよくない (1点)"-“かなりなかがよい (4点)"の 4件法で回答した。結果と考察各尺度評定値の時間的推移Figure 1-3に各尺度評定値の平均値を示す。1要因の分散分析を行った結果，時間の主効果は，サポート提供において有意傾向を示し (F(2.66)~2.5 1 . p<.1 0). ストレス反応において有意 (F(2.44)~5.97. p<.OI)であった。 下位検定の結果，サポート提供は， Time 1の時点よりも Time3の時点が多かった。ストレス反応は，-28ーTime 3の時点よりも TimeIの時点が高かった。11.5 11.0 10.5 10.0 9.5 9.0 8.5 8.0 Time 1 Time 2 Time 3 Figure 1 サポート受領の錐移20.0 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 12.5 12.0 11.5 11.0 10.5 10.0 9.5 Time 1 Time 2 Time 3 Figure 2 サポート提供の推移TIme 1 Time 2 Time 3 Figure 3 ストレス反応の推移谷口・田中(2007，2009)では，最終翻査時点の親密性得点を基準にして，調査参加者を表面的な関係にとどまった群(親密性得点が 1点または 2点)と親密な関係に至った群(同 3点または 4点)の 2群に分類して ，親密性地位別の検討も行われた。本研究では， Time 3の時点、において，表面的な関係にとどまった群が 2名しかいなかったため，以降の分析も含めて，そうした検討は行わなかった。サポートの互恵性と精神的健康との関連まず，サポート受領得点からサポート提供得点、を引いて，互恵性得点 (x)を算出した。この得点が Oに近づくほど友人との関係が互恵的な状態にあることを示す。また，得点がプラスで値が大きくなるほど利得過剰な状態を，得点、が 7 イナスで値が小さくなるほど利得不足な状態をそれぞれ示す。この互恵性得点 (x)に-29-基づいて，調査対象者を，利得不足 (x豆 1)，互恵状態 (x=O)，利得過剰 (1壬 x)の 3群に分類した。次に，互恵性を独立変数，ストレス反応を従属変数としたー要因分散分析を行った (Figure4)。その結果， Time 1および Time3の時点では，互恵性の主効果は有意でなかった。また， Time 2の時点、では，互恵性の主効果が有意傾向 (F(2，31)=2.49，p=.10)を示したが，ストレス反応との関係は 2次傾向ではなく l次傾向が有意 (F(1，31) =4.95， p<.05)となった。25 20 スト 15レス反 10応。主¢三3利得不足 互恵 利得過剃Figure 4 サポ トの互恵性とストレス反応これまでの縦断的・横断的研究(丁目iguchi& Ura， 2002;谷口・浦， 2003;Taniguchi & Ura， 2005;谷口・田中， 2009)によって，小・中学生では，サポートの互恵性が精神的健康と有意な 2次関係を示さないことが確認されている。本研究の結果は，そうした先行研究の結果と一致するものであり，一般に交換原理がよく当てはまるとされる関係進展の初期段階 (Rubin，1973)においても，小学生では友人とのサポートの互恵性があまり重要視されていない可能性が示唆される o引用文献中村雅彦 (1990) 大学生の友人関係の発展過程に関する研究 関係関与性を予測する社会的交換モデノレの比較検討 社会心理学研究， 5，29-41 岡安孝弘 ・白地多恵子・高山巌(1998) 児童用メンタノレヘノレス・チェックリスト(簡易版)の作成とその実践的利用 宮崎大学教育学部教育実践研究指導センヲ一研究紀要， 5， 27-41 Rubin， Z. (1973). Liking & /oving: An invitation to social psychology. New York: Holt， Rinehart and Winston. (市川孝一・樋野芳雄(訳) 1981 好きになること愛する-30ーこと一社会心理学への招待ー 思索社)嶋悶洋徳 ・岡安孝弘・坂野雄二 (1993) 小学生用ソーシヤノレサポート短縮版作成の試み ストレス科学研究， 8，1-12 谷口弘一 ・田中宏ニ (2007) サポートの互恵性と精神的健康に関する縦断的研究大学生の友人関係初期に着目して 日本心理学会第 71回大会発表論文集，97 谷口弘一 ・田中宏ニ (2009) サポートのE恵性と精神的健康に関する縦断的研究(2)ー中学生の友人関係初期に着目して一 日本心理学会第 73回大会発表論文集，128 Taniguchi， H_. & Ura， M. (2002). Support reciprocity and depression among elernentary school and high school students. Japanese Psychological Research， 44， 247-253 谷口弘一 ・滞 光博 (2003) 児童生徒のサポートの互恵性と精神的健康との関連に関する縦断的研究心理学研究， 74，51-56Taniguchi， H.， & Ura， M. (2005). Support reciprocity and depresion among children. InS. P Shohov (Ed.) Ad、~ances in Psychology Research. Vol. 33. New York: Nova Science Publishers， Inc. pp. 203-217 -31ー

サポートの互恵性と精神的健康に関する縦断的研究(3)―小学生の友人関係初期に着目して―

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サポートの互恵性と精神的健康に関する縦断的研究(3)―小学生の友人関係初期に着目して―

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