Jun Kobayashi

Kazuo Otake

Kunihiro Sonoda

Yuka Kono

大竹 一男

小林 順

河野 有華

薗田 邦博

Sonoda, Kunihiro

1191

9000018480038

Otake, Kazuo

2006

Kono, Yuka

2067

Kobayashi, Jun

2008

薗田, 邦博

ソノダ, クニヒロ

大竹, 一男

2003

河野, 有華

2066

小林, 順

2005

Kinjo Gakuin University Repository / 金城学院大学リポジトリ

― 3 ―【はじめに】わが国の低体重出生児（出生時の体重2.5 kg未満）の割合は，昭和50年には4.6％であったのに対して平成21年には8.3％と約 2倍に増加している 1 ）。低体重出生児は，成人期において糖尿病，高血圧，心血管疾患などの生活習慣病になるリスクが高くなることが報告されている 2 ，3 ）。これらのことから低体重出生児での出産を予防することは重要である。低体重出生児となる要因は，妊娠期（妊娠前を含む）の栄養不足，胎盤形成や胎盤機能不全，母体の疾患など複雑であり要因を特定することは難しいとされている。しかし，低体重出生児の要因の 1つとして妊娠高血圧障害（Hypertensive disorders of pregnancy：HDP）が挙げられており，その病態形成に血管内皮細胞障害によるNO産生低下が関ることが知られている。一酸化窒素（NO）は，血管拡張作用，抗炎症作用，抗酸化作用，血小板凝集抑制作用を有するガス状の物質である。生理的な条件下における生体内でのNO合成は，L-arginineを基質として血管内皮細胞や神経細胞に存在するNO合成酵素（NOS）によって行われ，恒常性の維持に重要な役割を果たしている。一方で，血管内皮細胞の障害によるNO産生低下は糖尿病，高血圧，脂質代謝異常，心血管疾患など様々な疾患の発症や病態の進展に関係していることが報告されている。HDPの妊婦においてはNO産生低下 4 ）やNOS阻害作用を示す非対称性ジメチルアルギニン （Asymmetric dimethylarginine：ADMA）が増加していることが報告されている 5 ）。これらのことから，妊娠期で起こる血管内皮障害やNO不足を改善することで，HDPや胎児発育不全（Fetal growth restriction：FGR）の出現リスクを低下させることができると考えられる。食品成分では，これまでNOを直接産生する物質は見つかっていなかったが，1990年代以降に野菜や果物に含まれる硝酸塩や亜硝酸塩から直接NOが化学・酵素的に産生されることが分かり，外因性のNO供与体としての役割が期待されている。また，硝酸塩は腸 -唾液循環系により生体内を循環しているため1金城学院大学　生活環境学部　食環境栄養学科2城西大学　薬学部　薬学科3城西大学　薬学部　医療栄養学科NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響Effect of dietary nitrite supplementation in fetal growth restrictionby NO deficient pregnancy hypertension rats.薗　田　邦　博 1　　　大　竹　一　男 2Kunihiro SONODA           　　　Kazuo OHTAKE河　野　有　華 1　　　小　林　　　順 3Yuka KONO　　　               Jun KOBAYASHI金城学院大学論集　自然科学編　第17巻第 2号― 4 ―2021年 3 月恒常的にNOを産生することが可能である。この腸 -唾液循環では，野菜や果実から摂取した硝酸塩が口腔内に存在するバクテリアの亜硝酸還元酵素により亜硝酸イオンに変換され，胃内酸性条件下や生体内に吸収された後，酵素（アルデヒド脱水素酵素やキサンチン酸化還元酵素など），デオキシヘモグロビン，デオキシミオグロビン，チオール類などによってNOに還元される。また，硝酸塩や亜硝酸塩の補給により血管拡張作用，抗炎症作用，抗酸化作用を示すことが動物実験においても報告 6 - 8 ）されていることからNOが不足したHDPにおいてもNOの補給を介して病態の進展を抑制すると仮説を立てた。そこで，本研究ではNO合成阻害剤であるN-omega-n i t ro -L-a rg in ine  methy l  e s t e r（L-NAME）を用いたNO不足妊娠高血圧モデル動物を作成し，FGRと胎盤構造に対する食事性亜硝酸塩の補給による影響について調査したので報告する。なお，本実験では硝酸塩ではなく亜硝酸塩を用いている。ヒトは唾液腺に硝酸塩を蓄積して唾液として口腔内に分泌できるため腸 -唾液循環系により硝酸塩を亜硝酸塩に還元できる。しかし，ラットなどのげっ歯類は硝酸塩を唾液腺に蓄積しないため硝酸塩を亜硝酸塩に還元できない。そこで，亜硝酸塩を用いヒトの腸 -唾液循環系を再現できるように設計した。【方法】1 ．試薬・試料N-omega-nitro-L-arginine methyl ester（BACHEM AG, Bubendorf, Switzerland），亜硝酸ナトリウムを和光純薬工業株式会社（大阪），ヘパリンNaを持田製薬株式会社（東京），InactinⓇをSigma-Aldrich（St. Louis, MO, USA）より購入した。2．実験動物Sprague-Dawley系ラットの妊娠 9日目を購入（中部資材科学，愛知）し， 2日間予備飼育した。飼育環境は，12時間 /12時間の明暗サイクルで行った。本実験は，金城学院大学の動物実験委員会によって承認（承認番号：92）されており，NIHによる実験動物のケアおよび使用のガイドラインに従って実施した。3  ．妊娠高血圧モデルラットの作成と血圧測定動物は，無作為に体重で 4匹ずつControl（蒸留水）群，L-NAME（ 1 g/L）群，L-NAME（ 1  g/L）と亜硝酸ナトリウム（100 mg/L）を混合した亜硝酸塩群の 3群に分けた。L-NAME（ 1 g/L）と亜硝酸ナトリウム（100 mg/L）は，飲み水中に溶解して 7日間自由飲水投与した。本ラットに Inactin 麻酔（80 mg/kg i.p.）を処置した後，血圧を測定するため後肢大腿動脈にヘパリン生理食塩液で満たしたPE50のチューブを留置し，PowerLab 4/30 system（ADInstruments, Dunedin, New Zealand）に接続して連続的に測定し，解析ソフトLabChart v5.2（ADInstruments, Dunedin, New Zealand）を用いて10分間の血圧の平均値を算出した。4．胎盤組織の病理組織標本作製解剖時に摘出した胎盤は10%ホルマリン溶液で保存し，その後パラフィン包埋した。包埋した組織は 4 µmの厚さに薄切し，ヘマトキシリンエオジン染色を行った。その後，胎盤のラビリンスゾーンを光学顕微鏡（OLYMPUS CX41）で撮影した。5．尿中8-OHdGの測定飼育時に24時間畜尿して採取した尿サンプルを用いDNA Damage （8-OHdG） ELISA Kit（Funakoshi Co., Ltd., 東京）により測定した。― 5 ―NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響（薗田ほか）6 ．統計解析すべての値は，平均値±標準誤差で示した。統計処理は，Tukey検定により行いp＜0.05を有意差有とした。解析は，統計解析ソフトのStat Mate V（株式会社アトムス，東京）を用いた。【結果】⑴ 　亜硝酸塩投与による摂食量，摂水量，尿量への影響表 1にL-NAMEと亜硝酸塩の投与開始前と投与後の24時間の摂食量，摂水量，尿量を示した。投与前と処置 7日目の摂食量，摂水量，尿量は，各群に有意な差なかった。しかし，処置 7日目の摂食量，摂水量においては，Control群に比べL-NAME群および亜硝酸塩群で低下傾向が見られた。⑵ 　亜硝酸塩補給における母体重量，胎児数，胎盤重量への影響表 2に解剖時に測定した母体重量，胎仔数，胎盤重量を示した。これらについては各群に有意な差はなかった。しかしながら，L-NAME群では胎盤重量がControl群や亜硝酸塩群に比べ低い傾向にあった。⑶　亜硝酸塩補給における母体血圧への影響図 1に解剖時に測定した母体の動脈血圧（収縮期血圧，平均血圧，拡張期血圧）を示した。Control群に比べ，L-NAME群と亜硝酸塩群で有意な血圧増加を認めた。一方で，亜硝酸塩群はL-NAME群に比べ血圧の上昇を有意に抑制した。⑷　亜硝酸塩補給による胎児重量への影響図 2に解剖時に摘出した胎仔の重量を示した。Control群に比べL-NAME群では胎仔重量が有意に低下していた。一方で，亜硝酸塩平均値±標準誤差（n＝4）表１　実験前・後の摂食量，摂水量，尿量の変化平均値±標準誤差（n＝4）表 2 　母体重量，胎仔数，胎盤重量の比較金城学院大学論集　自然科学編　第17巻第 2号― 6 ―2021年 3 月群においてはControl群と間に有意差は認められなかった。⑸　亜硝酸塩補給による胎盤組織への影響図 3に解剖時に摘出した胎盤のラビリンスゾーン領域の画像を示した。ラビリンスゾーンは母体と胎児の血液交換場所である。Control群では，ラビリンスゾーンが密集していたがL-NAME群では空洞が見られた。一方，亜硝酸塩を補給することでL-NAME群に比べ空洞が少なくなった。⑹ 　亜硝酸塩摂取による酸化ストレス（8-OHdG）への影響図 4に酸化ストレスマーカーである8-OHdGの尿中濃度を示した。Control群やL-NAME群に比べ亜硝酸塩群で有意に増加した。図１　妊娠18日目の母体血圧　　　平均値 ± 標準誤差．* p<0.05 v.s control，  p<0.05 v.s L-NAME.（n＝4）図２　胎児の写真および胎仔重量　　　平均値 ± 標準偏差．* p<0.05 v.s control.（n＝4）― 7 ―NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響（薗田ほか）【考察】HDPやFGRの発症機序の 1つとして生体内でのNO合成低下が関与していることが知られている。野菜や果物に豊富に含まれる硝酸塩や亜硝酸塩は腸－唾液循環により生体内を循環しNOを産生して様々な生理作用を示す。このことから，NOが不足したHDPに対して亜硝酸塩を補給することによって生体内でNOを供給することで病態の進展を抑制すると仮説を立てた。そこで本研究ではNO合成阻害剤であるL-NAMEを用いてNO不足妊娠高血圧モデル動物のFGRと胎盤構造に対する食事性亜硝酸塩の補給による影響について調査した。L-NAMEや亜硝酸塩摂取による母体の体重，摂食量，摂水量，尿量について測定したが実験開始前と開始後で，各グループ間に有意な差はなかった（表 1）。また，解剖時に図３　光学顕微鏡による胎盤（ラビリンスゾーン）の組織画像図４　妊娠17-18日目の24時間尿中8-OHdG濃度　　　平均値 ± 標準誤差．* p<0.05 v.s control.（n＝4）金城学院大学論集　自然科学編　第17巻第 2号― 8 ―2021年 3 月母体重量，胎仔数，胎盤重量を測定したところ各グループで有意な差は認められなかった（表 2）。血 圧 に お い て は，Control群 に 比 べL-NAME群と亜硝酸塩群で有意に上昇したが，亜硝酸塩群はL-NAME群に比べ血圧の上昇を抑制した（図 1）。Victor Hugoらは，本実験と同様にL-NAMEによるHDPモデル動物を作成し，亜硝酸塩投与による研究を行い十分な血圧降下作用を示すことを報告 9 ，10）しており，本結果と一致していた。また，妊娠高血圧者を対象に硝酸塩を豊富に含んだビートルートジュースを用いた臨床試験においても拡張期血圧を低下させることが報告されている11）。これらのことから硝酸塩や亜硝酸塩の補給が妊娠期の血圧の上昇を抑制する効果があることを示している。さらに図 2に示したように各群における胎仔重量を比較したところControl群に比べL-NAME群で有意な胎児体重の減少が認められた。一方で，亜硝酸塩を補給したグループではcontrol群と有意な差は認められなかった。したがって，亜硝酸塩の摂取は生体内のNO減少によって起こる胎仔の体重減少を一部改善することが示唆された。これらの結果は，Gonçalves-Rizziらの結果と一致していた 9 ，10）。さらに本研究では，組織標本による胎盤の組織構造の変化を確認した。マウスやラットの胎盤の構造はヒトと異なり，栄養交換の場である絨毛部分（ヒト）が複雑になっている12，13）ことからラビリンスゾーンと呼ばれている。このラビリンスゾーンの構造に異常が生じると胎仔に十分な栄養が供給できず胎仔発育遅延を引き起こす。今回の結果では，L-NAME群において母体と胎仔の栄養交換の場であるラビリンスゾーンの構造に空洞が多く確認されたことから，NOの不足により胎盤形成が正常に行われないことが示唆された。一方で，亜硝酸塩群では構造の壊れている部分（空洞）が認められたもののL-NAME群に比べ少なかったことから，亜硝酸塩補給によりNOが供給され胎盤形成の異常を抑制したと考えられた。これまで硝酸塩や亜硝酸塩は， 2級アミンと反応することで発がん性のあるニトロソアミンを生成することから問題視されてきたが，WHO/FAO合同食品添加物専門家会議（JECFA）の報告では水や食品から摂取する硝酸塩に発がん性を高めるという根拠はないとしている。結腸癌における硝酸塩摂取リスクについては低ビタミンC食や肉類の過剰摂取に限定される14，15）。またKobayashiらは，ポリフェノールやビタミンCなど還元性物質（抗酸化物質）を多く含む野菜や果物から摂取する硝酸塩に関してはNOの輸送体となるニトロソチオール（RS-NO）を増加させることから，むしろ有益性があるとしている16）。本実験で用いた亜硝酸塩量は，摂水量から換算して15 mg /kg /dayであった。本実験では胎仔の催奇形性や胎仔障害について評価を行っていないが，塩原らは妊娠マウスに対して，本実験で用いた 5倍の80 mg/kg/dayの投与量では外表奇形や胎仔障害，催奇形性作用を認めないことを報告している17）。そのため，今回の研究で見られた亜硝酸塩補給による8-OHdGの増加は胎仔障害や催奇形性に影響はないと推察される。しかし，8-OHdGの増加は好ましいことではなく母体と胎仔に影響を与えている可能性もあることから増加を抑制する必要がある。我々が食事から摂取している硝酸塩は野菜からの摂取が約80％とされている18）。野菜には，ビタミンCやポリフェノールなどの抗酸化成分が豊富に含まれていることから野菜から硝酸塩や亜硝酸塩を摂取することで8-OHdGの増加を抑制しながらFGRを改善できる可能があり，今後の研究― 9 ―NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響（薗田ほか）に期待したい。本研究結果は，野菜や果物に豊富に含まれる硝酸塩や亜硝酸塩を経口補給することでNOの不足を伴うHDPによる血圧上昇と胎盤形成不全を抑制し，FGRを改善する可能性を示した。【謝辞】本研究を遂行するにあたり，実験をサポートしてくれた金城学院大学生活環境学部食環境栄養学科卒業生の金筒圭香，杉井麻希子，永井遥に深く感謝する。【参考文献】1 ）厚生労働省 平成22年度「出生に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告2）Barker DJ et al., Fetal nutrition and cardiovascular disease in adult life. Lancet 1993 341: 938-41. 3 ）Harder T et al., Birth weight and subsequent risk of type 2 diabetes: a meta-analysis. Am J Epidemiol 2007 165: 849-57.4 ）Eleuterio NM et al., Relationship between adiponectin and nitrite in healthy and preeclampsia pregnancies. Clinica Chimica Acta 2013 423:112-1155 ）Garg P e t  a l . ,  Es t imat ion of  asymmetr ic dimethylarginine （ADMA）, placental growth factor （PLGF） and pentraxin 3 （PTX 3） in women with preeclampsia. Pregnancy Hypertens 2018 14: 245-251.6 ）Sonoda K et al., Dietary nitrite supplementation attenuates cardiac remodeling in l-NAME-induced hypertensive rats. Nitric Oxide 2017 1; 67: 1-9. 7 ）Ohtake K et al., Oral nitrite ameliorates dextran sulfate sodium-induced acute experimental colitis in mice. Nitric Oxide 2010 1; 23（1）: 65-738 ）Sonoda K et al., Dietary nitrite attenuates elastase-induced pulmonary emphysema in a mouse model. Biol Pharm Bull 2018 41（12）: 1818-1823.9 ）Gonçalves-Rizzi VH et al., Sodium nitrite attenuates hypertension-in-pregnancy and blunts increases in soluble fms-like tyrosine kinase-1 and in vascular endothelial growth factor. Nitric Oxide. 2016. 1; 57: 71-78. 10）Gonçalves-Rizzi VH et al., Maternal hypertension and feto-placental growth restriction is reversed by sildenafil: Evidence of independent effects of circulating nitric oxide levels. Eur J Pharmacol. 2018 5; 822: 119-127.11）Ormesher L et al., Effects of dietary nitrate supplementation, from beetroot juice, on blood pressure in hypertensive pregnant women: A randomised, double-blind, placebo-controlled feasibility trial. Nitric Oxide. 2018 1; 80: 37-44. 12）Furukawa S et al., Toxicological pathology in the rat placenta. J Toxicol Pathol. 2011 24（2）: 95-111.13）Georgiades P et al., Comparative developmental anatomy of the murine and human definitive placenta. 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Effect of dietary nitrite supplementation in fetal growth restriction by NO deficient pregnancy hypertension rats

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NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響

NO不足妊娠高血圧ラットの胎仔発育不全に対する亜硝酸塩補給の影響

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