Daisuke Samoto

藤田医科大学博士(医学)doctoral thesi

Samoto, Daisuke

3538

Fujita Health University Academic Information Repository / 藤田保健衛生大学学術情報リポジトリ

− 2 − − 3 −論文内容の要旨【緒言】　網膜電図（electroretinogram: ERG）は網膜機能を評価する上で重要な検査である。その記録電極の一つに皮膚電極がある。角膜電極等とは異なり、角結膜に非接触のため、小児や眼外傷などの症例でも記録できるという利点がある。しかし角膜電極等に比べて振幅が小さく、雑音（ノイズ）の混入が大きいためsignal to noise（S/N）比が悪くなり、精密な網膜機能評価をすることは困難であった。Pulse reference power line noise reduction system（PURE法）は近年開発されたノイズ除去方法で、交流電源を参照しながら、フーリエ変換を用いてハムノイズを合成し、元波形から除去する。本法を適応してS/N比を改善させれば、皮膚電極でも精密なERGが得られ、その適応は小児や眼外傷例だけでなく、網膜変性疾患や、種々の網膜疾患の手術前後の網膜機能評価にまで拡大することが期待される。ERGの評価の際には参照とすべき正常値と、年齢による変化の有無を知っておく必要がある。正常者のERGの加齢変化については、振幅は減少し潜時は延長することが報告されている。しかし皮膚電極によるERGの正常値や、加齢変化についてはこれまで報告されていない。【目的】　本研究の目的は皮膚電極からERGを記録する際のPURE法によるノイズ軽減効果を確認し、PURE法によるERGの振幅や潜時の正常値と、年齢との相関の有無を検討することである。【対象】　対象は正常者77名77眼（男性37眼、女性40眼）で年齢は９から86（平均55.6±19.0）歳であった。矯正視力は全例1.0以上で以下の症例は除外した（-5D以上の近視、Emery-Little分類３度以上の白内障、網脈絡膜疾患、ぶどう膜炎、緑内障、白内障を除く内眼手術の既往、５mm以下の散瞳不良例）。眼内レンズ挿入眼は21眼あった。【方法】　皮膚電極は銀皿電極を用い、関電極を下眼瞼、不関電極を外眼角、接地電極を耳朶に設置した。国際臨床視覚電気生理学会のガイドラインの６種類のERGプロトコルのうち、暗順応0.01（cd・s/m2）、暗順応３、明順応３、明順応フリッカERGの４種類について検討した。0.5%フェニレフリンと0.5%トロピカミド点眼薬による散瞳後20分間の暗順応を行い、暗順応下ERGを記録した。その後10分間の明順応後に明順応下ERGを記録した。全視野刺激でPURE法が搭載されたERG記録装置（PuREC、メイヨー社、稲沢）を用いた。反応の平均加算は暗順応下ERGでは10回、明順応下ERGでは32回から64回行った。ERG成分と年齢との相関は線形単回帰分析を用いた。【結果】　得られた反応をPURE法の有無で比較したところ、無しの場合にはノイズの混入が大きく、a波やb波を特定することが困難な場合が多かった。特に加算回数の少ない暗順応下ERGでそれは顕著に現れた。PURE法を用いたERGの各成分について検討したところ、振幅は年齢と有意に負の相関を示し、潜時は有意に正の相関を示した。【考察】　PURE法によるノイズ除去は皮膚電極を使ったERGでは非常に有用であった。特に加算回数の少ない場合にその効果は大きかった。これまでの報告と同様に加齢に伴いERGの振幅は負の相関を示し、潜時は正の相関を示した。軽度の白内障によっても振幅の低下や潜時の延長が助長された可能性も否定しきれないため、今後は白内障の影響を除外した眼内レンズ眼での検討も必要と思われた。【結語】　皮膚電極から全視野ERGを記録する際にPURE法を用いることで、ノイズの混入の少ない良好な波形を記録することができた。正常者の各ERG成分と年齢との相関は、振幅とは負の相関を、潜時とは正の相関を示した。PURE法を用いることで、皮膚電極でも他の電極と同様に精密なERGによる網膜機能評価の可能性が示唆された。論文審査結果の要旨　網膜電図（ERG）の測定では、一般に角膜電極を用いる。角膜電極を用いた測定は、小児や眼外傷症例測定における実施が困難であるほか、微細な角膜損傷の原因となる可能性も指摘されている。これらを回避する方法として、皮膚電極が考案されているが、ノイズの影響を受けやすく、感度の問題が指摘されてきた。申請者は、皮膚電極を用いたERG測定においてPulse Reference power line noise reduction system（PURE法）によるノイズ除去を行い、振幅、潜時の値と年齢との相関について検討を行った。正常77眼を対象として、暗順応0.01（cd・s/m2）、暗順応３、明順応３、明順応フリッカについて検討を行った。皮膚電極＋PURE法によるERG波形は、ノイズ除去を行わない結果と比べ明確に感度が向上することを確認し、また振幅、潜時の年齢との相関は、角膜電極を用いて測定した既報と同様の傾向であることを確認した。質疑応答では、PURE法の原理、皮膚電極の利点、電極設置部位や体動による影響などについて活発に議論され、申請者より適切な解説がなされた。また、皮膚電極では振幅測定において未だ角膜電極に比べ感度が劣る可能性が指摘され、一部の症例において測定が困難である可能性が示唆され、この点は今後の検討課題であることが確認された。本内容は、学位取得にふさわしい内容であることが確認された。氏　　　　　名 佐　本　大　輔学 位 の 種 類 博士（医学）学 位 記 番 号 甲 第 1266 号学位授与の日付 2021年3月14日学 位 論 文 題 名 The effect of age on full-field electroretinograms recorded with skin electrodes 「 皮膚電極から記録した全視野網膜電図の年齢による影響」 Fujita Medical Journal. in press指 導 教 授  　　　堀　口　正　之論 文 審 査 委 員 主査 教授　冨　田　章　裕 副査 教授　高　木　　　靖  教授　杉　浦　一　充

The effect of age on full-field electroretinograms recorded with skin electrodes

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皮膚電極から記録した全視野網膜電図の年齢による影響

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