細胞治療として用いられる間葉系幹/間質細胞は，細胞老化を起こすことで貪食細胞を損傷部分へ動員し，組織のリモデリングを促進する

FUJIMIYA Mineko

KONARI Naoto

MIZUE Yuka

NAKANO Masako

OTANI Miho

S.CHIKENJI Takako

SAITO Yuki

細胞治療として用いられる間葉系幹/間質細胞は，細胞老化を起こすことで貪食細胞を損傷部分へ動員し，組織のリモデリングを促進する．othe

S.CHIKENJI, Takako

SAITO, Yuki

KONARI, Naoto

NAKANO, Masako

MIZUE, Yuka

OTANI, Miho

FUJIMIYA, Mineko

SIKOR - Sapporo Medical University Information and Knowledge Repository / 札幌医科大学学術機関リポジトリ

82研究論文紹介1. はじめに　間葉系幹 / 間質細胞（Mesenchymal Stem/Stromal Cell; MSC）は，世界的に最も臨床試験が行われている細胞治療のプラットホームである．MSC は，造血幹細胞などの組織特異的な組織幹細胞や内皮前駆細胞などとは異なり，骨髄や脂肪など様々な生体組織から採取され，プラスチック製カルチャーデッシュへの接着培養を経て，インビトロで自己複製能と多分化能を有する細胞である．組織特異的な幹細胞とは区別されるものの，MSC が持つ高い抗炎症機能と免疫制御機能などから，GvHD（移植片対宿主病）や心血管疾患など，幅広い疾患への臨床応用が期待され，数多くの研究開発が行われてきた．しかし先行する MSC 治療の臨床応用に対して，治療メカニズムが十分明らかにされていないことが課題とされ 1），特に MSC は投与後わずか 2 ～ 3 週間で消失するにもかかわらず治療効果が継続することから，消失しても機能するMSC にどのような機構が関わっているのか，MSCの治療メカニズムの解明に注目が集まっている．　細胞老化－クリアランス－修復 / 再生連鎖とは，細胞がダメージを受けた後で p16 INK4A や p53 などの細胞老化因子を発現し，Senescence associated secretory phenotype（SASP）と呼ばれる様々なサイトカインやケモカインの発現を亢進させて貪食細胞の動員を促し，その後，動員した貪食細胞が老化細胞をすみやかに除去することで，傷ついた組織を再生へと促す，生体修復機構の一つである．本研究では，MSC の治療メカニズムに細胞老化システムの連鎖があることを解明した．2. 生体内の間葉系前駆細胞は，組織修復時に細胞老化を起こす　我々は，MSC と機能が類似するとされる生体内の間葉系前駆細胞（Mesenchymal Progenitor Cell; MPC）の役割の理解が，MSC 治療機構を解明する鍵であると考え，組織再生モデルとして急性筋炎モデルマウスを作製し，組織修復過程における MPC を解析した．すると，組織再生モデルマウスの MPC は，炎症の初期に強く細胞老化因子 p16 INK4A を発現すると同時に，M1 マクロファージや NK 細胞などの貪食細胞を動員すると同時に，p16 INK4A 陽性 MPC はすみやかに除去されることを見出した．次に我々は，慢性的に炎症を生じる実験的自己免疫性筋炎（慢性筋炎）モデルマウスを作製し，MPC を解析した．すると，MPC は p16 INK4A の発現が組織再生モデルマウスより低下したまま蓄積し，集積する貪食細胞が減ることがわかった．3. Placenta extraction による機能的細胞老化 MSC （p16 INK4A 陽性 MSC）の誘導　次に我々は，組織再生時の MPC のように，治療用MSC に細胞老化を誘導することで，組織修復機構に基づく MSC を作製できるものと考えた．そこで，成熟過程で細胞老化を活発に起こす胎盤組織に着目し，Placenta extraction（PE）をヒト骨髄由来 MSC に添加培養した（MSC+PE）．すると，MSC+PEはp16 INK4Aを強く発現すると同時に，OCT4 などの発現を高めた（図 A-C）．4. p16 INK4A+ MSC は，貪食細胞を動員して慢性筋炎の修復を促す　In vivo で MSC+PE の機能を明らかにするため，慢性筋炎モデルマウスに p16 INK4A+ MSC+PE を筋内に投与した．すると，p16 INK4A+ MSC+PE は投与後 1, 2日後に貪食細胞を動員し（図 D, E），その後，筋組織の幹細胞を増加させ，筋組織を修復へ導いた．さらに，p16INK4A-expressing mesenchymal stromal cells restore the senescence– clearance– regeneration sequence that is impaired in chronic muscle inflammationEBioMedicine. 2019 Jun;44:86-97. doi: 10.1016/j.ebiom.2019.05.012. Epub 2019 May 23.Takako S. Chikenji, Yuki Saito, Naoto Konari, Masako Nakano, Yuka Mizue, Miho Otani, Mineko Fujimiya要旨　細胞治療として用いられる間葉系幹 / 間質細胞は，細胞老化を起こすことで貪食細胞を損傷部分へ動員し，組織のリモデリングを促進する．札幌医学雑誌　88（1 － 6）82 ～ 83（2019）brought to you by COREView metadata, citation and similar papers at core.ac.uk83p16 INK4A+ MSC+PE は，生体内の MPC の p16 INK4A の発現を高めることが明らかになり，免疫細胞だけでなく，生体内のMPCにも働きかけることが明らかになった．　次に，MSC における p16 INK4A の役割を明らかにするため，CRISPR/Cas9を用いてMSCのp16 INK4Aをノックアウトし，PEの添加培養を行なった（p16 INK4AKO-MSC+PE）．p16 INK4A KO-MSC+PE を慢性筋炎モデルの筋内に投与しても，貪食細胞の集積や筋サテライト細胞の増加は認められず，筋組織は修復されなかった．これらの結果から，生体内の MPC は細胞老化―クリアランスー修復 / 再生連鎖により組織修復を促すこと，また治療用 MSC もその連鎖を引き起こすことで組織修復能力を高めることが明らかになった（図F）．5. 文献1． Bianco P, Cao X, Frenette PS, Mao JJ, Robey PG, Simmons PJ, et al. The meaning, the sense and the significance: translating the science of mesenchymal stem cells into medicine. Nat Med 2013; 19: 35-42.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　千見寺貴子　略歴　　2002 年　川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション科作業療法学専攻卒業　2011 年　札幌医科大学大学院博士課程修了　2010 年～2012 年　Mayo Clinic, USA リサーチフェロー　2012 年　札幌医科大学保健医療学部作業療法学第 1 講座助手　　2014 年　札幌医科大学医学部解剖学第 2 講座助教　2018 年～2019 年　Mayo Clinic, USA リサーチフェロー　2019 年　札幌医科大学医学部解剖学第二講座客員講師・北海道大学保健科学研究院准教授A-C.  Placenta extraction（PE）を添加培養した時の MSC（MSC+PE）の OCT4 と p16 INK4A タンパク質発現（A），PE を添加していないMSC と MSC+PE を比較した時の遺伝子発現（B, C）．MSC+PE では幹細胞性を示す OCT4 などの発現が増加すると同時に，細胞老化因子の P16 INK4A の発現が増加した．D, E.  慢性筋炎モデルマウスの骨格筋に対して，PBS（Vehicle），MSC，MSC+PE を局所投与した時のマクロファージ（D）および NK細胞（E）の Flow cytometry 解析．MSC+PE の投与により CD11+F4/80+Ly6C+ マクロファージ（M マクロファージ）が増加し，CD11b+CD49b+NK 細胞の増加を認めた．F.  MPC/MSC による細胞老化－クリアランス－修復 / 再生連鎖の概略．生体内の間葉系前駆細胞（MPC）はダメージに応答して，p16 INK4A の発現を亢進する（①）．生体内 p16 INK4A+ MPC は，周辺の免疫細胞に働きかけて組織修復を促す（②）．その後，p16 INK4A+ MPC は免疫細胞によって速やかにクリアランスされ（③），組織幹細胞の増殖を促進し（④），正常な組織再生が完了する．一方，慢性的なダメージを受けると（⑤），生体内 MPC の p16 INK4A の発現が弱まり，集積する免疫細胞が減少して，MPC が蓄積し，結果として組織繊維化を引き起こす（⑤）．⑤に対して治療用 p16 INK4A+ MSC を投与することで（⑥），急性炎症に類似した組織再生が促進される．

p16INK4A-expressing mesenchymal stromal cells restore the senescence– clearance– regeneration sequence that is impaired in chronic muscle inflammation

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p16INK4A-expressing mesenchymal stromal cells restore the senescence– clearance– regeneration sequence that is impaired in chronic muscle inflammation

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