安達 登

朴 天秀

李 在煥

清家 章

神澤 秀明

篠田 謙一

角田 恒雄

application/pdfdepartmental bulletin pape

篠田, 謙一

シノダ, ケンイチ

神澤, 秀明

カンザワ, ヒデアキ

角田, 恒雄

カクダ, ツネオ

安達, 登

アダチ, ノボル

清家, 章

セイケ, アキラ

李, 在煥

朴, 天秀

Shinoda, Ken-ichi

Kanzawa, Hideaki

Kakuda, Tsuneo

Adachi, Noboru

Seike, Akira

Lee, Jaefan

Park, Cheunsoo

National Museum of Japanese History Repository

465調査研究活動報告韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析Mitochondorial DNA Analysis of Human Bones Excavated from Jeoksan-dong No.44 Tumulus, Jinsan-dong, Goryeong, Korea.Ⅰ はじめにこれまでの形質人類学の分野の研究では，現代日本人の形成を考える際に重要なのは，縄文人と弥生人の関係とされ，多くの研究が行われてきた［中橋 2019］。その結果，現在では基層集団である縄文人の社会に，大陸から水田稲作と金属器の技術を持った渡来系弥生人が進入し，本州を中心とした地域では，両者の混合によって現代日本人が成立したと考えられている［Hanihara 1991］。一方，古人骨を用いたDNA分析が進んだことで，渡来系弥生人の遺伝的な特徴も明らかとなりつつあり［例えば篠田ほか 2019a･b］，両者の混合の情況をより正確に把握することが可能になっている。ただし，渡来系弥生人の故地であると考えられる朝鮮半島の弥生～古墳時代相当期の人骨のDNA分析は行われておらず，肝心な渡来人の遺伝的な性格が不明なために，その実態を知ることはできていない。Ⅱ 遺跡の概要今回，韓国慶北大学校博物館 ･慶北大学校人文大学考古人類学科のご好意によって，朝鮮三国時代の古墳出土人骨として有名な，慶北高霊池山洞 44 号墳という首長墓から出土した人骨のDNA分析を行う機会を得た。池山洞44号墳は，慶尚北道高霊郡に所在する。5世紀後葉に位置づけられる大加耶の王墓である。直径 25 ～ 27mの墳丘を持ち，墳丘中央に長さ 9.4m × 1.75m の大型竪穴式石室（主槨）を持つ。30 以上の殉葬墓が主槨を取り囲むような状態で見つかっており，残念ながら主槨の人骨は失われていたが，殉葬墓からは多くの人骨が発掘されている。これらの人骨から直接渡来系弥生人の遺伝的な特徴を推定することはできないが，この時期の朝鮮半島南部の集団の遺伝的特徴を知ることは，弥生から古墳時代にかけての日本列島集団の成り立ちを知る上で，重要な情報を提供すると考えられる。SHINODA Ken-ichi, KANZAWA Hideaki, KAKUDA Tsuneo, ADACHI Noboru,SEIKE Akira, LEE Jaefan and PARK Cheunsoo篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達 登清家 章・李在煥・朴天秀466国立歴史民俗博物館研究報告第 228集　2021年 3月今回の研究では，提供された人骨に解析できるDNAが残っているかを調べるために，予備的なミトコンドリアDNA分析を行い，更に次世代シークエンサ（Next Generation Sequencer ;NGS）を用いたミトコンドリアDNAの全塩基配列の解析を試みたので，報告する。Ⅲ 材料及び方法今回の解析に用いたのは表 1に示す 4個体である。これまでのNGS を用いた研究では，側頭骨に最もDNAが残存することが確認されているので［Sirak et al. 2017］，この部位を解析用のサンプルとした。ただし，側頭骨のサンプリングが出来なかった 2個体については，従来の研究では歯が最も DNA が残っているとされてきた［Woodward et al. 1994］ことから臼歯を用いた。今回の分析では，後の形態学的な研究への影響をなるべく軽減するために，臼歯と側頭骨ともに左右が揃っている個体の片方を使った。また，側頭骨のサンプルを採取する際には，事前にμCT（島津製作所 InspeXio SMX-225CT）を使って側頭骨錐体の内部をX線撮影し，データとして保管した（図 1および図 2）。また，骨粉のサンプリングは，側頭骨の形状をなるべく壊すことなく行う為に，錐体部の上面にドリルで小さな穴を空けて，そこから内耳にアプローチすることで試料粉末（約 200mg）を採取した。臼歯に関しては，精巧なレプリカを作成した。DNAの抽出は［Adachi et al. 2013］に従って行った。抽出DNA溶液に解析に充分な量のDNAが残っているかを確認するために行った APLP 法（Amplified Product-Length Polymorphism method）は，［安達ほか 2014］と［Kakuda et al. 2016］のプロトコールに従った。NGS による分析するために，［Rohland et al. 2015］の方法で NGS 分析用ライブラリの作成を行った。その際にライブラリから効率的に古代人のミトコンドリア DNA の分析を行うために，NGS 用ライブラリに含まれるヒトミトコンドリア DNA に由来する DNA 断片を ［Maricic et al. 2010］No. サンプル名 採取部位 備考 M/N 細分ＡＰＬＰ1 No.13-1 右側頭骨 壮年男性 G/M12 G22 No.20 右側頭骨 壮年女性 N9または B B4c3 No.27-1 下顎左M1 小児 D（not D4） D5b4 No.30 上顎右M3 壮年男性 B B5表 1　実験に用いた池山洞44号墳サンプルとＡＰＬＰ分析の結果図1　池山洞13-1号人骨右側頭骨CT 画像 図2　池山洞20号人骨右側頭骨CT 画像467［韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析］……篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達 登・清家 章・李在煥・朴天秀図4　細分ＡＰＬＰ分析の結果（1）図3　APLP分析の結果（M/N分析）468国立歴史民俗博物館研究報告第 228集　2021年 3月の方法を用いて濃縮した。濃縮後の DNA ライブラリは MiSeq（Illumina 社）を用いてシークエンスした。得られた DNA 配列データのマッピングおよびデータフィルタリングは［篠田ほか2017］の方法に［神澤ほか 2019］に示した修正を加えて実施した。Ⅳ 結果及び考察APLP分析の結果を表1および図3，4に示す。いずれの個体でも明瞭なバンドが確認されており，マクロハプログループM,N およびハプログループ B,D,G を細分するプライマーセットでの判定を行う事ができた。その結果 13-1 号がハプログループ Gに，20 号がハプログループ B4c に，27-1号がハプログループD5b に，30 号がハプログループB5に属することが明らかとなった。次に歯からDNAを抽出した 27-1 と 30 についてNGS を用いたミトコンドリアDNA全配列を決定する実験を行った。いずれの個体でもミトコンドリアDNAにマップされたリードが多く得られた。最初に得られたリードが古代人に由来するかを調べるために，リード長および C/T，G/Aの置換率を調べた。その結果，リード長のピークは，いずれのライブラリにおいても 100 bp 以下であり，古代DNAの特徴が観察された。双方で 50 ～ 70 ベース程度の断端が多数を占めており，古人骨に由来する特徴を有していた。図 5に得られたミトコンドリアDNAの断端長を示す。これらの結果から，27-1 号および 30 号から抽出されたDNAは，これらの個体が本来持っていたものであると判断した。27-1 号および 30 号のミトコンドリアDNAの塩基配列データから推定されたハプログループは（1）［Kanzawa-Kiriyama et al. 2017］の手法による。分析個体番号 池山洞44号墳13-1号池山洞44号墳20号池山洞44号墳27-1池山洞44号墳30インデックス 1 D501 D502 D507 D508インデックス 2 D703 D704 D711 D712総ペアリード数（n） 101,177 223,523 322,599 299,591ミトコンドリアDNA由来のリード数（n） 3,058 4,642 98,316 43,326（%） 3.46% 2.35% 32.53% 18.96%重複リードの除去，mapq20 後のリード数（n） 505 904 25,897 15,702ハプログループ推定（Haplogrep2.0） M32'56 D4 D5b1b1 B5a2a1b（Quality） 0.7176 0.7046 0.9970 0.8928ハプログループ推定（1） N.D. N.D. D5b1b1 B5a2a1bSchmutzi による汚染率推定 ［min, max］ － － 0 ［0-0.005］ 0.435 ［0.405-0.465］ハプログループ不一致 （%） ［95%信頼区間］ （1） － － 3.23% ［2.18-4.27］ 1.82% ［0.67-2.97］APLP G2 B4c D5b B5ハプログループ － － D5b1b1 B5a2a1b表２　NGSを用いたミトコンドリアDNA分析の結果469［韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析］……篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達 登・清家 章・李在煥・朴天秀それぞれD5b1b1 と B5a2a1b であり（表 2）， APLP 法を用いた分析を行った結果と矛盾はない。表 3にそれぞれの個体が持つ特異的な変異を示した。これらのハプログループを持つ現代人がどこに分布するかをデータベースで検索すると，B5a2a1b に分類される個体はこれまで 3体報告されているが，いずれも日本人だった。また同様に，D5b1b1 に分類される個体もこれまで 3体報告されているが，こちらも日本人だった。韓国人に一致する個体がなかったのは，DNAデータベースに現代韓国人がほとんど登録されていないことに起因するためであると考えられる。日本人と韓国人が持つミトコンドリアDNAハプログループはよく似ているので，これらが現代の韓国人にあっても不思議ではない。なお，ハプログループレベルでは，B5 は 3.8 %，D5 は 6.5 % 程度韓国人に存在する［Hong et al. 2017］。一方，これまで報告されている縄文人のミトコンドリアDNAでは，これらのハプログループは検出されていない。これに対し，まとまった数のミトコンドリアDNAが分析されている弥生時代後期の青谷上寺地遺跡では，ハプログループ B5 と D5 を持つ個体があり［篠田ほか 2020b］，弥生時代中期の渡来系弥生人である安徳台 5 号人骨もハプログループ B5 を持っていた［篠田ほか個体番号 ハプログループ 個体特異的変異池山洞 44 号墳 27-1 D5b1b1 T16519C池山洞 44 号墳 30 B5a2a1b G16129A，T16189C，T16519C表３　ミトコンドリアDNAのハプロタイプと変異図5　得られたミトコンドリアDNAの断端の長さ470国立歴史民俗博物館研究報告第 228集　2021年 3月2020a］。これらのハプログループが現代日本人に占める割合はさほど大きくはなく，また東アジアでの分布を見ると南の地域に多い傾向がある［Tanaka et al. 2004］。現状では，古代における分布を推定することはできないが，弥生時代の開始期以降に日本列島に進出した人々の中には，これらのハプログループを持った人が含まれていた可能性がある。池山洞 44 号墳のサンプルのうち，まだNGS によるミトコンドリアDNA分析を行っていない13-1 号と 20 号については引き続き実験を行う予定である（2）。また，DNAの残りが良好と判断されたサンプルがあればNGS による核DNA解析を予定している。同一の墓地に殉葬された人々の由来及び血縁関係は，古代の社会構造を考える上で重要な情報を提供すると考えられる。引き続き解析を進めて，これらのデータを提供できるように努力したい。謝辞本研究を進めるにあたり，貴重なサンプルの使用の仲介をいただいた明治大学黒耀石研究センターの谷畑美帆博士に感謝します。なお，本研究は新学術領域研究「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」（代表 国立遺伝学研究所 斎藤成也），計画研究 A02 班「古代人ゲノム配列解析にもとづくヤポネシア人進化の解明」（代表 国立科学博物館 篠田謙一）の成果の一部である。参考文献Adachi N., Sawada J., Yoneda M., et al. 2013: Mitochondrial DNA Analysis of the Human Skeleton of the Initial Jo-mon Phase Excavated at the Yugura Cave Site, Nagano, Japan. Anthropological Science 121 (2): pp.137-143.安達登・猩々英紀・梅津和夫  2014：「東アジア人集団のミトコンドリアDNA多型解析を目的とした新しいAPLPシステム」『DNA多型』 22 （1）： pp.140 ～ 143．Hong SB., Kim KC., Kim W. 2014: Mitochondrial DNA haplogroups and homogeneity in the Korean population. Genes Genom. DOI 10.1007/s13258-014-0194-9.Kakuda, T., Shojo, H., Tanaka, M., et al. 2016: Multiplex APLP System for High-Resolution Haplogrouping of Ex-tremely Degraded East-Asian Mitochondrial DNAs. PLoS ONE  11(6): e0158463. doi:10.1371/journal. pone.0158463.神澤秀明・角田恒雄・安達登・篠田謙一 2019：「鹿児島県宝島大池遺跡 B地点出土貝塚前期人骨のDNA分析」 『国立歴史民俗博物館研究報告』第 219 集，pp.253 ～ 259．Maricic T., Whitten M., and Pääbo S. 2010: Multiplexed DNA sequence capture of mitochondrial genomes using PCR products. PLoS ONE 5(11): e14004.中橋孝博　2019：『日本人の起源 人類誕生から縄文・弥生へ』，講談社学術文庫． Rasmussen M., Li Y., Lindgreen S., Pedersen J.S., Albrechtsen A., et al. 2010: Ancient human genome sequence of an extinct Palaeo-Eskimo. Nature  463: pp.757-762.Rohland N., Harney E., Mallick S., et al. 2015: Partial uracil‒DNA‒glycosylase treatment for screening of ancient 註（1）――図 4で No.30 と No.27-1 のレーンは逆になっている。（2）――本稿提出後，13-1 号と 20 号人骨についてもNGS を用いたミトコンドリアDNAの分析を行った。結果は表2に示したが，いずれも回収されたミトコンドリアDNAの断片が少なく，全塩基配列とハプログループを決定することができなかった。471［韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析］……篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達 登・清家 章・李在煥・朴天秀篠田謙一（国立科学博物館人類研究部）神澤秀明（国立科学博物館人類研究部）角田恒雄（山梨大学医学部法医学講座）安達　登（山梨大学医学部法医学講座）清家　章（岡山大学社会文化科学研究科）李在煥（慶北大学校博物館）朴天秀（慶北大学校人文大学考古人類学科）（2020 年 4 月 9 日受付，2020 年 8 月 20 日審査終了）DNA. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences  370(1660): 20130624.Shinoda, K. and T. Kunisada. 1994: Analysis of ancient Japanese society through mitochondrial DNA sequencing. Int. J. Osteoarchaeology 4: pp.291‒297.篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登 2017:「佐世保市岩下洞窟および下本山岩陰遺跡出土人骨のミトコンドリア DNA 分析」『Anthropological Science (Japanese Series) 』 125：pp.49 ～ 63．篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登　2020a：「鳥取県鳥取市青谷上寺地遺跡出土弥生後期人骨のDNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第 219 集，pp.159 ～ 172．篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登　2020b：「福岡県那珂川市安徳台遺跡出土弥生中期人骨のDNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第 219 集，pp.195 ～ 205．Sirak K.A., Fernandes D.M., Cheronet O, et al. 2017: A minimally-invasive method for sampling human petrous bones from the cranial base for ancient DNA analysis. BioTechniques  62:283-289 (June 2017) doi 10.2144/000114558.Woodward S.R., King M.J., Chiu N.M., Kuchar M.J., and Griggs C.W. 1994: Amplification of ancient nuclear DNA from teeth and soft tissues. PCR methods and Applications  3: pp.244-247.

[Report on Investigation and Research Activity] Mitochondorial DNA Analysis of Human Bones Excavated from Jeoksan-dong No.44 Tumulus, Jinsan-dong, Goryeong, Korea

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[調査研究活動報告] 韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析

[調査研究活動報告] 韓国高霊池山洞44号墳出土人骨のミトコンドリアDNA分析

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