Ohki Yusuke

大木 悠佑

Yusuke Ohki

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［報告｜report］3 オーストラリア・アーキビスト協会2017年大会に参加してA participation report about the 2017 conference of the Australian Society of Archivist大木悠佑｜Yusuke Ohki1─はじめにオーストラリア・アーキビスト協会（Australian Society of Archivist、以下ASA）の2017年大会が、ヴィクトリア州（Victoria）の州都メルボルン（Melbourne）において、メルボルン大学（University of Melbourne）を会場として開催され、大会テーマ「多様な世界」（Diverse World）に関連した3つの講演と13のセッションが設けられた。大会テーマは、アーカイブズのコレクション、専門性、そしてアーカイブズに関わる人 の々多様性と、社会の多様性を代表する一つである先住民コミュニティに情報技術がもたらした衝撃とその可能性を探求することを意図している［1］。こうした情報技術を活用した先住民コミュニティの問題を扱う団体 Information Technologies Indigenous Communities（以下 ITIC）と共同でシンポジウムを開催していることも今大会の一つの特色であろう。大会はASAのセッションを9月26・27日に、ITICのセッションを27・28日に開催している。本稿では筆者が参加したASAのプログラムのみを報告している。プログラムは表のとおりであり、筆者は表中★のセッションに参加している。紙幅の関係もあり、ここでは3つの講演とアーキビスト教育と実務の課題を扱った2つの報告を紹介したい。なお筆者は昨年に引き続き参加している。昨年報告は『GCAS Report 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報』Vol.6を参照願いたい［2］。100GCAS Report  Vol.7 2018 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻表─大会プログラム開会基調講演│Opening Keynote  ★Verne Harris: Passion for Archivesセッション 1A – パフォーマンスするアーカイブズKirsten Wright：Exposition, counterpoint and recapitulationLouise Curham：When the record performsStephanie Ferrara and Kelly McDonald：Exploring archives through contemporary performanceCatherine Schieve：Australian explorations in wholistic music educationセッション 2A – 隠された歴史を解放するGraham Willett & Kathy Sport：Town and gown: LGBTIQ histories in the University of Melbourne archivesNikki Henningham and Helen Morgan：Putting the HER back in historyJean Taylor：Victorian women’s liberation and feminist archivesセッション 3A – パネル：聴覚障碍／障碍者にとってのアーカイブズIn Our Own Voice: Deaf/Disability Archives, Communication and Communityセッション 1B – コレクションと収集Judith Paterson, Rachel Cullen and Paivi Lin：Linking the obscureSuzanne Fairbanks：The collective archive at the University of Melbourne ArchivesJane Dyer：Old collegians, students sta and beyondセッション 2B – ポスターセッション● Dead & Buried Podcast● University of Melbourne Archives’ digitisation workflow● Presenting archival material with Omeka● 3D modelling of archived architectural plans● A tool for appraisal.... and more● The Art of Archiving Seeing the wood as well as the trees● Opening up the Archival business system● A Picture is worth a Thousand Discussionsセッション 3B – 人、場所、空間  ★Jessie Lymn：Advocates and ambassadors: Collecting LGBTIQ history in a regional contextSusan Long & Matthew Davis：The Archival ReflexWenhong Zhou and Tianjiao Qi: Family archiving in China: A case study of collaborative archival program for social diversityセッション 1C – パネル：GLAM［※1］の先へ  ★Panel Speakers：Frank UpwardKate CummingKylie PercivalBarbara Reedセッション 2C – パネル：アーキビストの怒り  ★Panel Speakers：Lydia LorienteSusannah TindallJudith EllisCath NichollsModerator：Joanne Evansセッション 3C – パネル：ジャーメイン・グリアのアーカイブズPanel Speakers：Rachel BuchananKate HodgettsSarah BrownLachlan Glanville1日目  9月26日ロリス・ウィリアムス記念講演│LORIS WILLIAMS Memorial Lecture  ★Evaluating the Impact of Indigenous Collections: Going Way Beyond Metrics：Panel speakers：Mark Crookston, Dr Shannon Faulkhead, Associate Professor Gillian Oliver, Dr Ricardo Punzalan, Kirsten Thorpeセッション 4A – アーカイブズ教育とアーキビスト教育  ★Gionni Di Gravio, Ann Hardy, David Tredinnick, and Katie Wood： Engaging tertiary students with University archival collectionsLeisa Gibbons：Engaging expert knowledge outside academia: Service-learning for archival educationセッション 5A – アーカイブズの力とエージェンシー  ★Mike Jones：Metadata and power: Toward relational agency in archival descriptionElizabeth Shaer：The Indian Residential School History and Dialogue Centre. Problematizing Colonial Knowledge SystemsMatthew Gordon-Clark：The Archivist's role in a climate-changed or post-displacement futureセッション 4B – 分離、喪失、トラウマへの対応Jacqueline Wilson：Redress, Records and RecriminationMichaela Hart & Nicola Laurent： Emotional Labour and Archival Practiceセッション 5B – WEBとモバイルの評価Panel Evaluators：Sarah PanJamie KellyFran EdmondsPresenters：Kirsten Wright & Nicola Laurent：Find and Connect web resourceBeata Dawson and Pauline Joseph：Storytelling from archival records using interactive digital media technologiesDr Ruth Singer：Mawng Ngaralk WebsiteCathy Bow：The Living Archive of Aboriginal Languages2日目  9月27日閉会基調講演│Closing KeynoteJarrett Drake：In Search of an Archive of the Oppressed※　ITIC セッションは省略した。※1  GLAM＝ギャラリーGallary、図書館Library、アーカイブズArchives、博物館Museum報告｜オーストラリア・アーキビスト協会2017年大会に参加して｜大木悠佑※翻訳は執筆者による1012─講演について開会講演では、「Passion for Archives」をテーマとして南アフリカ共和国（以下、南ア）のアーキビストであるVerne Harrisが講演を行った［写真1］。Harrisは、南アでの人種差別政策アパルトヘイトの記録の整理の経験を踏まえて、大会テーマである多様性のためには、証拠（evidence）であるアーカイブズ資料（Archives）をもとにした対話（dialogue）が重要であり、同時に他者（others）に対する寛容（hospitality）、スペース（space）といった対話を行う許容性を認めることが必要であると述べる。また、アパルトヘイトに関する記録の残り方の問題（行政側が作成した記録が残り、差別を受けた人 の々記録が残されていないこと）から、欧米のアーカイブズ学理論が適用できないことを認識し、南アのアーカイブズの脱植民地化（decolonize archives）の必要性を述べる。Harrisはアーカイブズが関わる現代の問題にも言及する。アパルトヘイト時代の土地の収奪に関する問題は現在にも影響を与えている。土地の返還要求にアーカイブズ資料が活用されていることに言及し、アーカイブズ資料に立脚しながら（rely on archives）、社会的正義のために戦う（fighting for social justice）と述べる。その中でアーカイブズ（アーキビスト）の役割として、社会的正義を支援する（Archival work support social justice）ことを挙げる。　2日目午前中の「Evaluating the Impact of Indigenous Collections: Going Way Beyond Metrics」では、先住民に関するコレクションの公開、特にデジタル技術を活用した公開がもたらしたインパクトについて複数のパネリストから報告があった。先住民の記録をデジタル技術によって公開することは、これまで注目されていなかった記録に焦点が当たることとなり、社会の多様性を考える資料が提供されることを意味するといった好意的な意見がだされる一方で、デジタル技術によって公開することは、センシティブな情報やプライバシーを、コミュニティが醸成してきた文化や社会慣習を無視して公開されかねない危険性があることも指摘されていた。報告では、コレクションを形成してきたコミュニティと対話を重ね、そのバランスをとることが大事であることが強調されていた。　閉会講演として、Jarrett Drakeによる「In Search of an Archive of the Oppressed」が催された。Drakeは現在ハーバード大学の社会人類学の博士課程に在籍し、同時にクリーブランド（アメリカ合衆国オハイオ州）で警察による暴力を受けた人 の々アーカイブズ［3］の顧問アーキビストである。アメリカには黒人に対する差別の意識も根強く、黒人であるだけで警察から不当に暴力を受けた人々がいるという現状の中、Drake自身も黒人であるからこそ、その現状を認識し、アーキビストになったという話から講演が始まった。Drakeの講演は、警察権力が時に秘密的で恣意的な運用につながることを危惧し、警察による暴力の記録をアーカイブズとして保存し、公開することが、警察権力の暴走を監視し、黒人たちへの言われなき差別を食い止める役割につながると指摘する。3─報告セッションについて新米アーキビストが業務の中で感じた違和感を模した小劇から始まったセッション2C「パネル：アーキビストの怒り」は、大学院課程を経て実務の場に出ていった新米アーキビストの悩みやサポート体制に関するシンポジウムである。セッションでは現場で話される（求められる）実務と理論的な言葉とのギャップに苦悩するアーキビストの悩みを題材として、会場も交えた形でディスカッションが進められた。ディスカッションでは、レコードキーパーやアーキビストの業務とは何なのか、言い換えれば何をするのがアーキビストなのかといった問いがだされる。また現在の情報環境の中では一人専門職として働くアーキビストには、自身の専門にこだ写真1─Verne Harris氏の講演の様子102GCAS Report  Vol.7 2018 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻わるのではなく、複数の専門にまたがって業務をすることが求められるといった意見も出された。報告の中では、こうした新米アーキビスト達を支える仕組みとして、モナシュ大学のRecords Continuum Research Group(RCRG)が運営するホットライン「RCRG hot line」の紹介と、ASAが専門職の職務能力の基準として「専門的能力マトリックス」（ASA Professional Capabilities Matrix）［4］を作成し、同時に新人アーキビストのスキルアップを実施していることが紹介された。　セッション4A「アーカイブズ教育とアーキビスト教育」のLeisa Gibbonsによる報告「Engaging expert knowledge outside academia: Service-learning for archival education」では、オーストラリアとアメリカの大学院で教育を受けた報告者の経験から、オーストラリアのアーキビスト教育の課題を指摘する。報告では大学院アーキビスト教育プログラムの基準となっている「専門的能力マトリックス」［5］とアメリカ・アーキビスト協会（Society of American Archivist、SAA）の「アーカイブズ学における大学院教育プログラムのガイドライン」（Guidelines for a Graduate Program in Archival Studies（以下GPAS））［6］を比較しつつ、GPASが現在のIT技術の進展に対応した形で整備され、アメリカにおける社会の問題の一つである白人中心主義についても、アーカイブズ教育の中に意識されていると挙げる。報告者はITの活用と現代社会の問題をアーキビスト教育に組み込んでいるアメリカの取組みが参考になると指摘する。質疑応答の時間では、モナシュ大学の教育プログラムを引合いに出しながら、現在のオーストラリアのアーキビスト教育は、オーストラリアの国や社会のコンテクストを背景に成立しているといった意見が出されていた。4─大会運営についてASAプログラムの運営についても言及したい。ASA大会は2日間に、3つの講演と3会場に分かれての13のセッションが設けられるなど充実したプログラムが組まれている。そしてセッションの数だけでなく、プログラム全体にわたって刺激的な報告が行われ、報告毎に設けられた15分程度の質疑応答の時間には様 な々意見が出されていたことが印象的であった。報告後には、各セッション間にあるティータイムで、報告者と質問者が引き続き意見を交わす姿も多く見られるなど、議論が展開され、白熱していた。　プログラムの関係上執筆者は参加できなかったが、セッション3A「聴覚障碍／障碍者にとってのアーカイブズ」では、耳が聞こえない人々のアーカイブズ資料ではなく、耳が聞こえない人々がアーカイブズ機関を利用する際の問題が報告されるなど、アーカイブズ機関が直面する問題を、多種多様な面から捉えようとしたことが感じられるプログラムであった。5─おわりに大会テーマである多様性は、日本でも近年広く聞かれる言葉となってきている。例えば、性の多様性、マイノリティの存在などは現代社会が直面する問題の一つである。こうした現代社会の問題に対して、アーカイブズを通して社会に貢献していくことは、私たちアーキビストにしかできないことである。本大会では様 な々セッションを設け、様 な々視点から、この問題に対してアーカイブズがどう対応していくのか、非常に示唆に富む報告が多かった。本稿で紹介したVerne HarrisやJarrett Drakeの報告には、アーカイブズ資料を通して、社会の多様性を支えるアーカイブズの役割が端的に示されている。同時に現代社会の多様性を反映するように、アーカイブズ資料を収集し、保存していく役割がアーキビストに課せられているだろう。紙幅の関係上、全てを紹介することはできなかったが、動画配信サイトを通じて、報告の様子が配信されているので、こちらを参照していただきたい［7］。　さて、2018年度のASAの大会は西オーストラリア州（West Australia）のパース（Perth）で「Archives in a blade runner age̶Identity & Memory, Evidence & Accountability」を大会テーマとして開催されると発表があった。大会実行委員会からは、SNSやインターネットを通じて大量に情報が発信され、別の事実（alternative fact）が飛び交う現代社会の中で、アーカイブズが重要視してきた記録がもたらす概念（アイデンティティ、メモリー、エビデンス、アカウンタビリティ）を改めて問い直そうという意図が説明された。現代社会の問題に敏感に反応し、アーカイブズを常に問い続けるASAの動向は参考となる、改めてそうした感想を抱いた有意義な大会であった。報告｜オーストラリア・アーキビスト協会2017年大会に参加して｜大木悠佑1031─Australian Society of Archivists, ASA 2017 Information. https://www.archivists.org.au/learning-publications/asa-2017 -conference/asa-information. （20171221accessed、以下同）2─阿久津美紀・大木悠佑.「オーストラリア・アーキビスト協会2016年大会に参加して」 『GCAS Report 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報』Vol.6, 2017, pp. 116 -120.3─ People’s Archive of Police Violence in Cleveland, http://www.archivingpoliceviolence.org/4─Australian Society of Archivists, Professional Capabilities, https:/ /www.archivists .org.au/membership -information/professional-recognition/professional-capabilities5─前掲注4。6─ Society of American Archivist, Guidelines for a Graduate Program in Archival Studies (2016), https://www2.archivists.org/prof-education/graduate/gpas7─ Aus-Archivists-TV YouTube Channel. https://www.youtube.com/c/ArchivistsOrgAustralia104GCAS Report  Vol.7 2018 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻

オーストラリア　アーキビスト　キョウカイ　2017　ネン　タイカイ　ニ　サンカ　シテ

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