Seunghun Shin

辛 承憲

辛, 承憲

Seunghun, Shin

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釜山市南浦洞における観光地区の景観形成過程

立教大学学術リポジトリ

― 69 ―修士論文要約山市南浦洞における観光地区の景観形成過程Landscape Formation Process of Tourist Zone in Nampodong, Busan辛　承憲SHIN Seunghunキーワード：景観，港町，観光， 山港，南浦洞地区Keywords: Landscape, Port Town, Tourism, Port of Busan, Nampodong District1．研究の背景と目的　港町は人の行き交う場であり，自ずと独特の文化が形成されその町に個性を与えてきた．それはそれぞれの土地の環境条件のもとに港が開かれ，人の活動が重ねられてきた固有の性格である．現代の港には，旅客輸送の役割が弱まり物流に特化することで人の存在の希薄な所もある中で，港町の性格を何らかの形で保ちながら観光者を集める港湾地区の例もみられる．　こうした港湾都市の例と考えられる韓国第二の都市・ 山は， 山港の開港とともにその周辺に立地した南浦洞地区を中心に成長した地域である．現在の南浦洞地区は，2008 年に観光特区として指定された， 山広域市における代表的な観光地でもある．　南浦洞地区の成長史は，遅くとも近世後期に遡り，朝鮮と日本（対馬藩）の外交や通商を担う豆毛浦倭館（のち草梁に移転）が所在しており，日朝修好条規（1876 年）に従って朝鮮の最初の開港地となり，それ以降は外国文化の移植，独立，朝鮮戦争，産業化などの外部要因との関連性が非常に強い場所となった．　南浦洞地区は，このような 山港の発展とともに様々な外部要因による影響を受け，現在は 山を代表する観光地区へと成長した．こうしたことから，南浦洞地区は観光の観点からもその場所の価値の形成史が注目される対象であるといえる．　以上を踏まえ，本研究は， 山港とその周辺地区（主に南浦洞地区）を対象に，時代に対応して形成され変化を重ねた景観に注目しその特徴を明らかにし，南浦洞地区の観光地化と対象地域全体の変容との関係について考察することを目的とする．2．研究の方法　本研究は，南浦洞地区の「景観」の変遷に注目して研究を行う．本研究において「景観」は，地形を主とした自然環境条件と，時代ごとの人為的改変（開発）により生み出された履歴を重ねた空間が，個人ないし社会により，なんらかの意味を伴いながら主に視覚的に経験される関係として定義する．　本研究の対象とする時代は，近代港の基礎となった近世後期から現代までとする．対象とする空間については，二つの景観のスケール，すなわち 山港全体及び南浦洞周辺を設定して行う．第一に， 山港全体のスケールでは，豆尾浦倭館から草梁倭館への移転過程に着目する．主に自然環境の特徴と倭館に求められた役割を分析し，その自然環境の特徴から日本側が提案を受け入れるまでの過程を中心に考察し，南浦洞地区の幕開け期に着目する．第二に，南浦洞周辺のスケールでは，17 世紀後半から現在までの時代ごとの 山港の変容を主とした自然および社会環境条件の双方から土地・空間の特徴をその構造性から整理する．　最後にこれらを通し，観光地化された地区に 山港が与えた影響に関して，港町の成長にともない生成される観光地区の特質として考察する．　これら資料は，時間軸に沿って，外部と，内部の相互の関係を捉える視点からの分析を行った．立教観光学研究紀要　　 第 22 号　　2020 年 3 月St. Paul ’s Annals of Tourism Research No.22 March ’20pp.69-70.― 70 ―St. Paul’s Annals of Tourism Research （SAT） No.223．研究の概要　本研究は 4 章で構成されている．　第 1 章では，研究の背景および目的，研究の対象および構成，既往研究の整理，研究方法を述べた．　第 2 章では， 山港全体を対象として，草梁倭館から豆毛浦倭館への移転過程に注目した．豆毛浦倭館には様々な問題があったが，1678 年に草梁に移転する際の日本側から朝鮮側への要求の内容は，自然や環境の問題としての船溜の狭さ，水深の浅さ，南風の強さ，地盤高の低さ，およびこれらに伴う，船舶利用の不便さ，館宇（建物）の外部からの見えやすさによる秘密保持の困難さなどであった．これを踏まえ，移館の候補地であった絶影島，草梁，多大浦を対象に「船溜」「水深」「館宇」「眺望」4 つの条件を設定して比較検討し，草梁倭館が移転先として選定された理由を明らかとした＜表 1＞．　第 3 章では，南浦洞地区の空間構造の変遷および特性を分析した．南浦洞地区の景観の変容を捉える基本的手法として，街を構成する諸施設を「官/公」的性格である，組織体による港湾都市を支える基本的機能を果たす施設と，これらと対照的な「民/私」的性格である，商業・娯楽・観光など個人の生活・消費の場となる施設に分け，空間的配置からその一帯の空間の性格を読み取る作業を実施した＜図1＞．　その結果，草梁倭館時代の中心であった龍頭山を基準に東エリアと南エリアに分けてみると，倭館時代から現在まで東エリアには「官/公」的施設が，南エリアには倭館時代に川（桜川）や浜（南濱）のあった付近を中心に「民/私」の施設がそれぞれ立地し，その性格が維持されてきたことが明らかとなった．また西エリアは 1900 年代まではその空間的性格が不明確であったが，以降現在までは，民/私的性格が強いエリアとして発展してきた中で，南エリアが飲食店，劇場，ファッション系商店などが多いコト消費－非日常的な観光的側面の強い空間であった反面，西エリアは市場，商店などが多いモノ消費－日常的な空間として対照的性格を帯びてきたことについても明らかとした．　また，南浦洞地区と 山市都市計画との関係も合わせて確認し，本研究が着目した南浦洞地区の中でのエリアによる空間の性格の違いと都市計画は直接には関わってこなかったことを確認した．4．結論　第 4 章では，以上に基づき結論を述べた．①南浦洞の原点としての草梁倭館の立地要因　日本側が移転を求めた豆毛浦倭館の問題点に加え，倭館の日常業務の内容を踏まえ，これらの点を移転先の候補地の評価に適用して分析した結果，草梁が候補地の中で最も適切な土地であったことを確認した．このように草梁倭館が移転先として選定された理由について，従来の知見に加えて環境条件による理由を補完することができた．②南浦洞地区の空間構造　南浦洞地区を草梁倭館時代の東・西館の関係と対応させて捉える従来の理解に対し，倭館内の桜川の周りに出現した民/私的性格の施設群があった領域を南エリアと位置付け，南浦洞地区を東・南・西エリアに区分し，各エリアの空間的性格を分析した．その結果，東・南エリアはそれぞれに官/公的，民/私的性格が形成・維持され，その性格が時代を経るほど強くなる傾向が確認された．西エリアは開発が遅れたが，1900 年代以降は民/私的性格の空間が維持されてきたことが確認された．こうした構造の把握から従来の南浦洞地区の空間に関する理解に新たな視点を加えることができた．■0 500m250図 1　南浦洞地区の空間構造の把握例（1950 年頃）表 1　倭館移転候補地の環境条件比較 候補地環境条件 絶影島 草梁 多大浦船溜 不存在 広さ：草梁≦多大浦風除機能 : 草梁＞多大浦水深 深い 最も深い 浅い館宇 1 万坪以下 約 9.4 万坪 約 1.2 万坪眺望 良い 最も良い 悪い

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