令和2年1月5日，於　広島大学大学院教育学研究科（広島大学東広島キャンパス）L棟205号

Asakura, Atsushi

Kawaguchi, Chisako

Tani, Eiji

Watanabe, Takumi

Yonezawa, Takashi

上之園, 公子

井上, 博貴

熊井, 将太

Japanese

Hiroshima University Institutional Repository

広島大学学術情報リポジトリHiroshima University Institutional RepositoryTitle異年齢集団における協働とカリキュラム・マネジメントAuthor(s)井上, 博貴; 川口, 知佐子; 熊井, 将太; 谷, 栄次; 朝倉, 淳;上之園, 公子; 米沢, 崇; 渡邉, 巧Citation初等教育カリキュラム研究 , 9 : 55 - 59Issue Date2021-03-31DOISelf DOI10.15027/50846URLhttps://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00050846RightCopyright (c) 2021 初等教育カリキュラム学会Relation1．シンポジウムの趣旨学校は，子どもたちや地域の実情に応じて，多様な課題を抱えている。2017 年改訂の小学校学習指導要領では，現実の社会を視野に入れ，学校全体で「社会に開かれた教育課程」を推進し，子どもにとって本当に意義のある学びを実現していくことが求められている。こうした状況において，カリキュラム・マネジメントを行う上で，「教科等横断的」な視点に加えて，学習者の集団をどのように組織するか，という点も重要な視点と考えられる。そこで本シンポジウムでは，異年齢集団における協働に焦点を当て，教育の目的や目標の実現を図るカリキュラム・マネジメントをテーマとして設定することとした。話題提供者は，井上博貴氏（福山市教育委員会），川口知佐子氏（広島市立湯来西小学校），熊井将太氏（山口大学），谷栄次氏（広島大学附属東雲小学校）であった。熊井氏は異年齢集団の学習について歴史的な経緯や動向を説明し，井上氏は福山市のイシンポジウム異年齢集団における協働とカリキュラム・マネジメント【シンポジウム】　話題提供者	 井上　博貴	（福山市教育委員会）	 川口知佐子	（広島市立湯来西小学校）	 熊井　将太	（山口大学）	 谷　　栄次	（広島大学附属東雲小学校）　指定討論者	 朝倉　　淳	（安田女子大学）	 上之園公子	（比治山大学）　企画・司会	 米沢　　崇	（広島大学大学院）	 渡邉　　巧	（広島大学大学院）実施日：令和 2 年 1 月 5 日（日）　14：10 〜 16：50場所：広島大学大学院教育学研究科（広島大学東広島キャンパス）L 棟 205 号室写真 1：シンポジウムの様子− 55 −エナプランを始めとした政策および実践を報告した。また，谷氏と川口氏は広島大学附属東雲小学校および広島市立湯来西小学校の複式学級での実践研究をそれぞれ報告した。指定討論者は，朝倉淳氏（安田女子大学）と上之園公子氏（比治山大学）であった。最新の流行と伝統的な蓄積をフロアーの参加者とも共有し，今後の小学校教育，学校教育のあり方を考えていくきっかけをねらった。以下，話題提供者の要旨および指定討論・質疑応答のまとめを示す。（文責：渡邉巧・米沢崇）2．シンポジウムの要旨2.1．異年齢学級での学びその動向と諸課題2.1.1．異年齢学級の歴史と現在今日，子ども集団を異年齢で編制しようとする試みは国際的に見ても好況にあると言ってよい。しかし，一口に異年齢学級（集団）と言ってみても，その内実は多様である。学校教育の歴史的な発展過程をふり返ってみれば，大きくは二つの系譜を見て取ることができるだろう。一つには，学校を存続させるストラテジーとして異年齢の子どもを一つの学級に編制する試みである。19 世紀後半に年齢別学年制学級が確立される以前の学校教育がほとんどそうであり，今日でも途上国やへき地において複式学級が採用されていることが示すように，教員や子どもの数が十分でない状況下でも学校教育を成立させるための措置として異年齢学級が採用されてきた経緯がある。他方，もう一つの系譜は，「伝統的な」学校の打破をめざす新教育運動的な改革構想としての異年齢学級の編制である（例えば，イエナプランやドルトンプラン，モンテッソーリ教育など）。後者の系譜では，同年齢で編制される学級よりも異年齢で編制される学級の方がより教育的に望ましいものだと考えられ，既存の学校のオルタナティブとして異年齢学級に期待がかけられることになる。異年齢学級への期待は同年齢学級への批判と表裏一体である。その基本的な論点は次のようになるだろう。すなわち，同年齢学級への批判として①「平均的な子ども」という前提，②個々の興味と能力の差異の軽視，③同年齢の子どもによる過度な競争，④多様性の欠如があり，それに対する異年齢学級への期待として，①「多様な子ども」という前提，②異質な他者　と／から　の学び合い，③子ども相互の自然な助け合い，④個別化・協同化・自立化された学びの誘発が挙げられる。さらに今日では，地域共同体の希薄化といった「子どもをとりまく生活世界の変化」とインクルーシブ教育や個別化を推進してきた「PISA 後の教育改革」の流れの中で，いっそう同年齢学級への厳しい視線と異年齢学級への期待が加速させられている現状がある。2.1.2．異年齢学級の抱える諸課題こうした動向は，既存の学校や学級のあり方を問い直す契機となりうる一方で，異年齢集団への過剰期待を引き起こしうることにも注意を払う必要がある。異年齢学級に対する素朴な期待に反して，その「効果」についてはエビデンス欠如というべき状況がある。例えば，John Hattie のメタ分析でも示されたように，異年齢に編制すれば子どもの社会性の発達が促されたり，自力学習の機会が増えたりするわけではない。異年齢学級が編制されたとしても，そこで展開される指導実践や教師の子ども観・指導観が変わらなければ，異年齢の持つ教育力は発揮されえない。また，異年齢を一つの変数と見て（例えば学力といった）「アウトカム」を期待する思考自体が適切なものなのかも慎重に問われなければならないだろう。さらに，異年齢集団において子ども相互の助け合いが生じるという期待についても，必ずしも肯定的な面ばかりが発揮されるとは限らない。実際には，年上の子どもが教師から「年長で責任ある生徒」として扱われることで教師の権威を再生産する存在となっているという指摘，あるいは年長／年少の子どもに期待される姿や能力が過剰になるという指摘もある。学級は，教授の目的，内容，方法が絡み合って構成される複合的な組織（システム）である。異年齢学級の教育的機能を有効に働かせるような教− 56 − − 57 −育課程や教育方法のあり方はいかなるものか，多角的な観点からの検討の積み重ねが求められていくことになるだろう。（文責：熊井将太）2.2．附属東雲小学校の複式学級の実践研究2.2.1．附属東雲小学校複式学級について本校の複式学級は，昭和 47 年に開設された。一学年 8 名（男子 4 名女子 4 名）で低・中・高学年の 3 学級（一学級 16 名）である。本校の場合，入学前の抽選により決定し，入学後 6 年間継続して複式学級に在籍することになる。（1）附属学校の複式学級の特色公立小学校における複式学級とは違い，学年の人数や男女の人数等，バランスの整った複式であることから「作られた複式」と呼ばれることもある。へき地校や小規模校が多く存在する都道府県の附属校に複式学級が設置されている。附属学校に複式学級を設置する理由は，複式教育についての継続的な研究と教育実習での経験の場の確保にある。単式学級と違い，全員発表の場を確保することができたり，話し合いの場での意見交流やまとまりも生み出しやすかったりするのも特色と言える。また本校は，単式学級・複式学級・特別支援学級の 3 つの異なる学級形態を有しているため，複式学級の児童どうしのかかわりだけでなく，学年（同年齢集団）の中でのかかわりも多く見られる点が公立小学校の複式学級との大きな違いである。（2）複式学級で育てたい力本校の複式学級で育てたい力は 3 つある。○自ら学ぶ力−学習リーダーを中心に自分たちの力で学習を進めることができる力−○豊かな表現力−自分の考えを自分の言葉で表現することができる力−○かかわる力−互いに支え合い，高まり合うことができる力−授業づくりにおいては，従来の直接・間接指導，「ずらし」「わたり」による授業から両学年を同時に見守りながら必要に応じて柔軟に教師が指導・支援する「見守り型支援」の充実を図る授業の実現をめざしている。2.2.2．具体的な取組例ここでは，複式学級全体での「いもパーティー」の取組を紹介する。この取組は，複式中学年が中心になって企画・運営し，複式学級児童どうしの絆を深めることがねらいである。【活動計画】（全 10 時間）①いもうえ（9 月− 1 時間）②グループ顔合わせ（11 月− 1 時間）・めあてとメニュー決め③買い物メモの作成（1 時間）④料理計画（1 時間）・料理の手順と時間的な見通し⑤いもほり（12 月− 1 時間）⑥買い物（1 時間）⑦いもパーティーの実施（4 時間）メニューは主食 1 と副食 2（例：ピザパンとじゃがいものベーコン巻き・ポテトサラダ）とし，収穫した芋と材料費 1,000 円で計画する写真 2：調理活動の様子2.2.3．複式学級から学ぶこと○かかわり合いの中で共に成長し合う大切さ○一人の個性を際立たせ，認め合う集団づくり○学年差を意識して上学年への指導の重視○「任せきる」教師の姿勢の重視少人数・異学年のかかわりという複式学級の特性を「よさ」としてとらえ，最大限生かしながら，子どもたちの主体性を醸成していくことが肝要である。（文責：谷栄次）− 56 − − 57 −2.3．公立学校における複式学級の取組2.3.1．はじめに複式学級の担任をしてから，授業観が変わった。以前は，授業づくりにおいては，子どもの意欲を引き出すために，いかにうまく伝えるか，いかに面白い教材を扱うか，そういうテクニックや教材が大事だと考えていたがそうではないと子どもたちから教えられた。単式学級の授業は，子どもとともに 1 時間，やりとりをしながら進めていく。しかしながら，複式学級の授業は，教師とのやりとりが不可能な間接指導の時間が生まれる。最初は，子どもたちが授業を進めていうことに抵抗すら感じていたが，授業をしているうちに，「複式学級は，特別な教具や教師の言葉がなくても，学習内容そのものを楽しむことができる。」と感じるようになった。2.3.2．複式学級の良さ（1）授業は自分たちのものだという意識が高い自分たちで学習を進行していくことが当たり前になり，学習方法も決定できるようになる。そのため，自分たちが何をどのように学習したいかを考えるので，「先生に教えてもらう」から「自分たちが学習する」姿になる。（2）異学年交流ができる同教科において同領域異単元異内容の学習であると，学習内容は異なっていても，そこで学ぶ考え方が同じことが多々ある。それを交流することで，つながりのある学習を行うことができる。また，下学年は上学年を見て育ち，上学年は下学年の見本となるよう努める姿が見られる。学習内容だけでなく，学習に向かう姿勢（学びに向かう人間性）も学年が違うからこそ適度な緊張感があり，お互い伸びることができる。また，上学年と下学年を1 年おきに経験できるのも良さである。（3）生活面で自立する学習も自分たちで見通しを持って進めていくため，生活面でも見通しを持って活動できるようになる。時刻をしっかり守る。チャイムが無くても，授業を始めることができることはもちろん，直接指導ではない学年も自分たちで学習をはじめることができる。2.3.3．複式学級の授業づくり（1）同単元同内容の教科本校では，算数・国語以外の教科は基本的に同単元同内容（AB 年度）で行う。ただし，どの教科も子どもたちで進めるという視点を大切にしている。例えば，社会科の学習は，教師主導の一斉形態の授業も可能であるが，日直をリーダーとしてできるだけ自分たちで学習を進めることができる授業展開にしている。（2）異単元異内容の教科算数・国語の学習は直接・間接指導に加えて，「見守り型支援」を取り入れている。一週間ごとに変わる学習リーダーを中心に，ガイドをもとに進めている。良さとしては次の 5 点である。①　教師は必要な時に，直接指導をすることができる。②　自分たちのペースで進めることができる。③　見通しを持って，学習に取り組むことができる。④　全員が参加し，自分たちの授業を創ることができる。⑤　分からないことも積極的に伝え，解決する中で，理解を深めることができる。子どもたちが主体的に学習に取り組むことは言うまでもなく，学習の方法・内容理解ともに育てることができる。2.3.4．まとめ「複式教育は教育の原点である」と言われるが，まさにその通りである。子どもたちが日々育っていく姿が手に取るように分かるのは，醍醐味である。また，子どもたちが授業を進めていくので，時折，教師が想像していない展開になったり，発言をしたりすることがある。子どもに越えられる瞬間である。その瞬間に出会えるのが楽しみである。（文責：川口知佐子）− 58 − − 59 −3．まとめ指定討論では，次の論点が示された。上之園氏は，複式学級が置かれた現状と経緯を補足した上で，「異年齢の集団における協働が成立するためには，ハードとソフトの両面が必要である」と指摘した。その上で，「教員の役割についての意識改革，指導力」の向上に向けての「教員の研修や支援」の現状と課題について質問をした。「異年齢との関わり」という視点で，複式学級の実践的な蓄積が，単式学級や今後の新しい取組へ，どのように生かせるかと問いかけた。朝倉氏は，従来のカリキュラムの考え方が限界に来ているとし，その背景を説明した。論点は，カリキュラム内の段階（年齢によるか年齢によらないか）と学級編制の年齢（同年齢か異年齢か）にあると述べ，1）カリキュラムの段階を設定する上では，年齢を前提にするのが良いのか，年齢とは関係なく考えていくのが良いのか。2）学級編成は，同年齢が適当か，異年齢が適当か。3）同年齢集団による協働か，異年齢集団による協働か。等が示された。各話題提供者には，カリキュラムをどのようにマネジメントやまたその支援をしているか。等と問いかけた。質疑応答では，共通して「実態が様々な難しさ」の中だからこそ，個々の子どもと集団の学びを見て，捉え，子どもと共に教師が，学び（カリキュラムや授業）を作っていく必要性が述べられた。例えば，福山市のイエナプラン教育も異年齢集団の教育も，あくまで手段であると強調された。フロアーからは，小学校に関わる教員が幼児期の教育あるいは中学校以降に期待すること，小学校で異年齢集団における協働を行ってきた子どもたちは，中学校以降，どのように成長していくのか，といった質問も示された。本シンポジウムでは，カリキュラム・マネジメントと異年齢集団を一体として議論を行った。カリキュラム（学び）を作っていく主体は，子どもや教師であることが，あらためて共有された。（文責：渡邉巧・米沢崇・上之園公子・朝倉淳）参考文献広島大学附属東雲小学校（2010）『複式教育ハンドブック』東洋館出版社。文部科学省（2018）『小学校学習指導要領（平成29年告示）』東洋館出版社。Hattie, J.(2009) Visible Learning. A synthesis of over 800 meta analyses Relating to achievement. Routledge, London and NewYork.− 58 − − 59 −

異年齢集団における協働とカリキュラム・マネジメント

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