産後1か月～12ヶ月までの母親61名に、血中および唾液中オキシトシン（OT）濃度の測定を行った。測定は①授乳前、②授乳中、③授乳終了後30分、④授乳終了後60分の合計4回実施した。その結果、授乳中にOTの有意な上昇を認めた。また、産後1ヶ月の母親のOTレベルは、その他の時期と比較し、有意に高い事が明らかとなった。授乳前と比較した授乳中のOTの上昇率とEPDS、STAIの得点との間に有意な負の相関を認めた。SRS-18、MIBS-Jとは有意な相関は認められなかった。本研究の主目的であった母子分離の母親との比較検証については、倫理的配慮より実施しなかった。Oxytocin levels in the serum and saliva of 61 mothers who are one month to twelve months after birth were evaluated. The measurement was carried out in a total of four times: before feeding, during feeding, after feeding for 30 minutes, and after for one hour. As a result, an increase in oxytocin level was observed during lactation. A significant correlation was obserbed between one month and another periods.It was found that there is significant negative colleration between the rate of rise oxytocin and Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPSD)and State-Trait Anxiety Inventory(STAI) scoers. But ther was no significant colleration between the rate of rise oxytocin and Stress Response Scale 18(SRS-18) and Maternal Attachment Inventory Japanese Version (MIBS-J) score.研究課題/領域番号:19K21448, 研究期間(年度):2018-08-24 – 2020-03-31出典：「母子分離の母親のオキシトシンレベルと子どもへの愛着形成に関する研究」研究成果報告書　課題番号19K21448（KAKEN：科学研究費助成事業データベース（国立情報学研究所））（https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-19K21448/19K21448seika/)を加工して作

Minami Kana

南 香奈

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金沢大学・保健学系・助教科学研究費助成事業　　研究成果報告書様　式　Ｃ－１９、Ｆ－１９－１、Ｚ－１９ （共通）機関番号：研究種目：課題番号：研究課題名（和文）研究代表者研究課題名（英文）交付決定額（研究期間全体）：（直接経費）１３３０１研究活動スタート支援2019～2018母子分離の母親のオキシトシンレベルと子どもへの愛着形成に関する研究Oxytocin levels and bonding in a mother of maternal separation３０８１９３８９研究者番号：南　香奈（Minami, Kana）研究期間：１８Ｈ０６３６７・１９Ｋ２１４４８年 月 日現在  ２   ５ ２３円     2,300,000研究成果の概要（和文）：産後1か月～12ヶ月までの母親61名に、血中および唾液中オキシトシン（OT）濃度の測定を行った。測定は①授乳前、②授乳中、③授乳終了後30分、④授乳終了後60分の合計4回実施した。その結果、授乳中にOTの有意な上昇を認めた。また、産後1ヶ月の母親のOTレベルは、その他の時期と比較し、有意に高い事が明らかとなった。授乳前と比較した授乳中のOTの上昇率とEPDS、STAIの得点との間に有意な負の相関を認めた。SRS-18、MIBS-Jとは有意な相関は認められなかった。本研究の主目的であった母子分離の母親との比較検証については、倫理的配慮より実施しなかった。研究成果の概要（英文）：Oxytocin levels in the serum and saliva of 61 mothers who are one month to twelve months after birth were evaluated. The measurement was carried out in a total of four times: before feeding, during feeding, after feeding for 30 minutes, and after for one hour. As a result, an increase in oxytocin level was observed during lactation. A significant correlation was obserbed between one month and another periods. It was found that there is significant negative colleration between the rate of rise oxytocin and Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPSD)and State-Trait Anxiety Inventory(STAI) scoers. But ther was no significant colleration  between the rate of rise oxytocin and Stress Response Scale 18(SRS-18) and Maternal Attachment Inventory Japanese Version (MIBS-J) score. 研究分野： 助産学キーワード： 母親　オキシトシン　愛着  ３版令和研究成果の学術的意義や社会的意義本研究は、産後1ヶ月～12ヶ月の母親の血中および唾液中OTレベルの動態を明らかにした研究であり、得られた結果は、いまだ数少ない基礎データとして、エビデンスの一助となる事が期待される。また、より侵襲性の低い唾液サンプルを用いて、授乳時の生理活性に伴うOTの変動を捉える事が出来たことにより、今後、医療行為を必要としないバイオマーカーとしての応用の発展に寄与できる可能性がある。また、今回、授乳時のOTレベルの上昇と、母親の産後うつ症状や不安との関連が示唆されたことから、これまで主流であった主観的評価に加え、客観的な生理指標として、母親のメンタルヘルスのスクリーニングへの応用が期待される。※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等については、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。様 式 Ｃ－１９、Ｆ－１９－１、Ｚ－１９（共通） １．研究開始当初の背景 オキシトシンは、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであり、主に脳視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から末梢へと分泌される 1-2）。中枢神経系で神経伝達物質として機能するほか、末梢では子宮収縮作用による分娩促進や、授乳時の射乳反射を惹起する機能がある 3-4）。加えて近年では、向社会性作用が広く知られ始め、不安行動や、社会性行動、母子間や夫婦の絆形成など、周産期の母子にとって非常に重要なホルモンであると言われている 5-10）。 周産期の母親のオキシトシン濃度は、妊娠の進行とともに上昇し、分娩時（分娩第 2期）に最高値を示すと言われている 11-14）。また、児の娩出後は子宮の回復とともに低値となるが、授乳の吸啜によりパルス状に上昇し、射乳反射を引き起こす 15-17）。 このように、周産期はオキシトシン濃度の変動が顕著であり、今後も詳細な生理学的データの積み重ねは重要である。しかし、オキシトシンは非常に微量なホルモンである事から、検出方法が未だ確立されていない現状がある。さらに、従来の末梢血中での濃度測定は、穿刺が必要な事から侵襲度が高く、分娩や授乳など、この時期の母親の複雑な行動下での検体採取が困難な現状がある。 このような背景より、近年では、非侵襲的かつ簡便な唾液中オキシトシンのバイオマーカーとしての有用性の評価が行われ始めている 18-19）。しかし、周産期特有の顕著な変動を唾液でも捉える事が出来るかについては研究の余地があるものと考える。そこで、産後 1 ヶ月～12 ヶ月の母親の唾液中オキシトシン濃度の測定を行い、バイオマーカーとしての可能性を検証する。 また、我が国では高齢出産の増加などにより、ハイリスク児が増加している。NICU（Neonatal Intensive Care Unit）に入院する子どもを持つ母親は、子どもの治療の優先性より、産後早期より母子分離を強いられることとなる。オキシトシンは抱っこなどの触覚刺激や、視覚刺激、匂いや泣き声といった体性感覚刺激によって増加すると言われているが、長期に渡り体性感覚の相互刺激が得られにくい環境は、母親のオキシトシンの分泌にも影響するではないかと考える。 そこで、本研究では、出生直後から子どもとともに生活している母親と、母子分離を強いられている母親のオキシトシン濃度について比較検証を行う。さらに、ハイリスク児を抱える母親は、子どもの育てにくさや愛着形成の障害から、乳幼児虐待のリスクが高いと言われている事から、母親のメンタルヘルスにおけるオキシトシンの役割についても解明を行う。  ２．研究の目的 １）産後 1ヶ月～12ヶ月までの母親の血液および唾液オキシトシンの変動を明らかにする。 ２）唾液オキシトシン濃度と血液オキシトシン濃度の相関の有無を明らかにする。 ３）１）と母親のメンタルヘルスとの関連を検証する。 ４）１）、３）について、出生直後から子どもとともに生活を行っている母親と、母子分離を強いられている母親のオキシトシンレベルの変動について比較検証を行う。 ※今回、対象者への倫理的配慮から 4）は中止とした。  ３．研究の方法 １）研究対象者  産後 1ヶ月、3-4 ヶ月、6-7 ヶ月、12ヶ月の母親 61名。 18 歳以下、未婚、母親自身や子どもに重篤な合併症や精神疾患がある、内分泌系に影響する疾患や内服をしている、歯周病や歯肉炎がある者は除外した。 ２）検体採取方法 ①授乳前、②授乳中（授乳開始から 5分後）、③授乳終了後 30分、④授乳終了後 60 分の合計 4 回採取した。唾液と血液は同時に採取した（血液は同意が得られた対象者のみ）。 【唾液の採取方法】 検体採取量：1.5～2ml ①検体採取の 10分前に水で含嗽を行ってもらった。 ②食後 1時間以上経過した午前中に実施した。 ③15ml の遠心チューブの中に自然流涎を採取してもらった。 ④採取した検体は測定まで-80℃の冷凍庫で保存を行った。 ⑤測定時は流水下で自然解凍を行い、4℃、1500G にて 10 分間遠心分離を行った。 ⑥可能な限り沈殿物を避け、ELISA（Ensyme-Linked Immuno Sorbent Assay）にて濃度測定を 行った（Oxytocin ELISA Kit ADI-901-153A）。 【血液の採取方法】 検体採取量：9ml（ベノジェクト®真空採血管 VP-AS109K50） ①唾液と同じタイミングで静脈血採血を行った。 ②採取後は 4℃、1500G にて 15 分間遠心分離を行い、-80℃の冷凍庫で保存した。 ③カラム（Sep-Pak®）を使用し、Extraction を行い、ELISA にて濃度測定を行った。  ３）質問紙調査 ・基本属性：年齢、既往歴、分娩歴、分娩様式、子どもの出生体重、家族構成、仕事の有無、 授乳状況（授乳回数・授乳時間）など。 ・エジンバラ産後うつ自己評価表（Edinburgh Postnatal Depression Scale：EPDS） ・赤ちゃんへの気持ち質問票（Mother-to-Infant-Bonding-Scale Japanese version：MIBS-J） ・心理的ストレス反応測定尺度（Stress Response Scale-18：SRS-18） ・状態―特性不安尺度（State-Trait Anxiety Inventory：STAI）  ４）分析方法  統計解析には SPSS version 25.0 を使用し、有意水準は 5%（両側）とした。   ４．研究成果 １）対象者の背景  研究対象者は 61 名、平均年齢（±SD）は 33.1（±4.23）歳であった。出産歴は、初産婦 15名（24.6%）、経産婦 46名（75.4%）であった。産後経過の内訳は、産後 1ヶ月 12名（19.7%）、 3-4 ヶ月 17名（27.9%）、6-7 ヶ月 24 名（39.3%）、12ヶ月 8名（13.1%）であった。子どもの 平均出生体重は 3014.3（±353.8）ℊであった。  ２）唾液オキシトシン濃度の変化  全対象者（n=61）の唾液オキシトシン濃度の平均値（±SEM）は、①授乳前 105.5（±11.8）pg/dl、②授乳中 138.2（±14.2）pg/dl、③授乳終了後 30 分 116.5（±12.7）pg/dl、④授乳 終了後 60分 114.1(±10.9)pg/dl であった。  産後 1 ヶ月（n=12）では、①137.2（±42.5）pg/dl、②190.4（±47.4）pg/dl、③148.2（±40.5）pg/dl、④128.5(±29.0)pg/dl であった。  産後 3-4 ヶ月（n=17）では、①112.8（±18.0）pg/dl、②123.1（±12.5）pg/dl、③107.0（±11.6）pg/dl、④108.4(±12.0)pg/dl であった。  産後 6-7 ヶ月（n=24）では、①83.0（±15.0）pg/dl、②122.2（±25.6）pg/dl、③108.1（±23.5）pg/dl、④109.4(±21.3)pg/dl であった。 産後 12ヶ月（n=8）では、①110.0（±24.8）pg/dl、②132.5（±19.6）pg/dl、③113.7（±15.1）pg/dl、④118.7(±23.6)pg/dl であった。  ３）血清オキシトシン濃度の変化  対象者（n=22）の血清オキシトシン濃度の平均値（±SEM）は、①117.6（±9.4）pg/dl、②157.4（±15.9）pg/dl、③119.7（±13.9）pg/dl、④116.2(±10.9)pg/dlであった。  ４）授乳によるオキシトシン濃度の上昇率  授乳前と比較した授乳中のオキシトシン濃度の上昇率の平均は、唾液は 1.49、血清は 1.40 であった。  ５）エジンバラ産後うつ自己評価表（EPDS）  授乳前と比較した授乳中の唾液オキシトシン濃度の上昇率とEPDS との間に有意な負の相関を認めた（ｒ＝-.510  p＜0.01）。  ６）赤ちゃんへの気持ち質問票（MIBS-J）  授乳前と比較した授乳中の唾液オキシトシン濃度の上昇率とMIBS-J との間に有意な相関は認められなかった（ｒ＝.022   p＝.867）。  ７）心理的ストレス反応測定尺度（SRS-18） 授乳前と比較した授乳中の唾液オキシトシン濃度の上昇率とSRS-18 との間に有意な相関は認められなかった（ｒ＝-.234   p＝.070）。  ８）状態―特性不安尺度（STAI） 授乳前と比較した授乳中の唾液オキシトシン濃度の上昇率とSTAI との間に有意な負の相関を認めた。（ｒ＝-.357  p＜0.01）。   （引用文献） 1)  Luding, M.（1998）. Dendritic Rlease of Vasopressin and Oxytocin. Journal of Neuroendcrinology. 10, 881-895. 2) Neuman, I., Russel, J. A., and Landgraf, R. (1993). Oxytocin and Vasopressin release within the supraoptic and paraventricular nuclei of pregnant,parturient and lactating rats：A microdialysis study. Neuroscience. 53, 65-75. 3) Grinevich, V., Bollman, H. S. K., Eliva, M., et al. (2016). Assenbling the Puzzle：Pathways of oxytocin Signaling in Brain. Biological Psychiatry. 79, 155-164. 4) Russel, J. A., and Leng, G. (1998). Sex, Parturition and motherhood without oxytocin?. Journal of Endocrinology. 157, 343-359. 5)  Markova, G., and Siposova, B. (2019). The role of oxytocin in early mother-infant interactions：Variations in maternal affect attunement. Infant Behavior and Development. 55, 58-68. 6)  永澤美保，岡部祥太，茂木一孝ほか（2013）. オキシトシン神経系を中心とした母子間の絆形成システム. The Journal of Animal Psychology. 63, 47-63. 7) Gimpl, G., and Fahrenholz, F. (2001). The Oxytocin Receptor Sysytem：Structure, Function, and Regulation. Physiological Reviews, 81, 629-683. 8)  Feldman, R., Gordon, I., and Zagoory-Sharon., O. (2011). Maternal and parental plasma, salivary, and urinary oxytocin and parent-infant synchrony:considering stress and affiliation components of human bonding. Developmental Science. 14, 752-761. 9）Kosfeld , M.  Heinrichs,  M.,  Zak, P.  J., et al.（2005）. Oxytocin increases trust in humans. Nature. 435, 673-676． 10）Francis, D. D., Champagne, F. A., and Meaney, M. J. (2000) . Variations in maternal behavior are associated with differences in oxytocin receptor levels in the rat. Journal of neuroendocrinology. 12, 1145-1148． 11)  井上正三（1968）. Oxytocin と分娩発来. 産婦進歩. 20, 243-248. 12)  Coch, J. A., Brovetto, J,. Cobat, H. M., et al. (1965). Oxytocin-equivalent activity in plasma of women in labor and during thepuerperium. American Journal of obstetrics and Gynechology. 91, 10-17. 13)  小暮哲久（1976）. Radioimmunoassay による妊娠、分娩時の血中 oxytocin 動態とその意義について. 日本産婦人科学会誌. 28, 407-416. 14）  小川さつき，高橋重雄，橘内芳一ほか（1978）. 周産期における血漿 Oxytocin 含量の動態に関する研究. 日本内分泌学会誌. 54，1229-1237． 15) McNeilly, A. S., Robinson, I. C. A., Houston, M. J., et al. (1983). Release of oxytocin and prolactin in response to suckling. British Medical Journal. 286, 257-259. 16）Johnston, J. M., and Amico, J. A.（1986）. A Prospective Longitudinal Study of the Release of Oxytocin and Prolactin in Response to Infant Suckling in Long Term Lactation. The Journal of clinical endoclinology and metabolism. 62, 653-657. 17)  長尾純代，尾島明美，大野千夏ほか（1999）. 早期における乳頭吸啜と母乳分泌 その内分泌学背景. 母性衛生. 40, 460-463. 18） Rose, F. V., Robynne, A. M., and Rlchard, G. S. (1983). Hormonesin Saliva：Mode of Entry and Consequent implications for Clinical Interpretation. Clinical Chemistry. 29, 1752-1756. 19)  Carter, C. S., Pournajafi-Nazarloo, H., Kramer, K. M, et al. (2007). Oxytocin：behavioral associations and potential as a salivary biomarker. Annals of the New York Academy of Sciences, 1098, 313-322. ５．主な発表論文等〔雑誌論文〕　計0件〔学会発表〕　計0件〔図書〕　計0件〔産業財産権〕〔その他〕－６．研究組織研究協力者横山　茂(Yokoyama Shigeru)研究協力者東田　博陽(Higashida Haruhiro)研究協力者由比　光子(Yuhi Teruko)所属研究機関・部局・職（機関番号）氏名（ローマ字氏名）（研究者番号）備考研究協力者辻　知陽(Tuji Chiharu)

母子分離の母親のオキシトシンレベルと子どもへの愛着形成に関する研究

南, 香奈

Minami, Kana

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