三田, 桂子

上田, 裕也

山﨑, 基嗣

平子, 侑里絵

橋本, 由布子

清重, 英矩

藤本, 航平

西岡, 小春

西岡, 真由美

豊原, 響子

野田, 実希

鎌田, 依里

Japanese

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:<特集>糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究 (特集II: 平成31年度京都大学教育研究振興財団研究活動推進助成報告書)豊原, 響子; 清重, 英矩; 野田, 実希; 鎌田, 依里; 西岡,真由美; 平子, 侑里絵; 藤本, 航平; ... 西岡, 小春; 橋本,由布子; 山﨑, 基嗣豊原, 響子 ...[et al]. <特集>糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究 (特集II: 平成31年度京都大学教育研究振興財団研究活動推進助成報告書). 京都大学大学院教育学研究科附属臨床教育実践研究センター紀要 2021, 24: 50-542021-03-29http://hdl.handle.net/2433/26268550 臨床教育実践研究センター紀要  第 24 号  特  集   糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究  京都大学大学院教育学研究科 糖尿病心理臨床研究会 豊原 響子、清重 英矩 1、野田 実希、鎌田 依里、西岡 真由美、平子 侑里絵、 藤本 航平、三田 桂子、上田 裕也、西岡 小春、橋本 由布子、山﨑 基嗣  1. 鹿児島大学大学院臨床心理学研究科   問題・目的 糖尿病は、慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群であり、また腎症や網膜症などの合併症のリスクが高く、その治療生活においては自主的な取り組みや制限を余儀なくされる。一方で、糖尿病は自覚症状が乏しいことからアドヒアランスが低く、治療を進めるうえでも困難が伴うことが少なくない。このような現状から、昨今では、糖尿病治療における人間的側面により深く焦点を当てた糖尿病医療学の概念が提唱され、糖尿病者iの生涯にわたる糖尿病との関わりを視野に置いた支援の重要性が指摘されている。 本研究会では、糖尿病者が糖尿病を抱えて生きるとはどのような体験であるのかについて検討するために、その主観的側面に関する探索的研究を 2018 年度に実施した。そこでは、糖尿病との距離感や受けとめ方を含めた体験の軸と治療に対する取り組みの軸という 2 つの観点から、糖尿病の「生きる」体験をめぐる様々な在り様が見出された。しかし、糖尿病が慢性疾患であることに鑑みると、病いの受けとめは一時的になされるものでも、また固定された静的なものでもないと考えられる。その意味で、病いとは、その人が生涯にわたって関わっていくプロセスであると言えるだろう。また、糖尿病との付き合い方や治療に対する取り組みも、人生のそれぞれの時期やライフイベントによって異なりうることが推測される。 そのため 2019 年度は、糖尿病という病いの体験が変わりうるのかどうか、その場合はどのように変化するのかに着目し、2018 年度の追跡調査を実施した。これにより、経時的な視点からも糖尿病者の「生きる」体験への理解を深め、糖尿病者への心理的支援に際して必要な配慮や念頭に置いておくべき視点などについて検討することが可能になるものと考えられる。 また、調査研究と併せて文献講読会も行うことにより、医療人類学や文化精神医学に関する知見を深め、より複合的な視点から糖尿病者の「生きる」体験を捉えることも試みた。以下では 2019 年度の調査の概要およびその分析結果と第 63 回日本糖尿病学会年次学術集会での発表要旨について報告するとともに、文献講読会でのディスカッションを踏まえ、今後の展望について述べる。  糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究 51  調査の概要 2019 年 8 月に P 病院糖尿病内科にて個別面接調査を実施した。研究計画ならびに調査の概要については、P 病院倫理審査委員会および京都大学臨床心理学研究倫理審査会による審査を受け承認を得た。調査協力者は2018年度の調査協力者19名のうち、追跡調査への協力の同意が得られた12名であった。なお、12 名のうち 1 名は家族同席のもと面接調査を行ったため分析対象外とした。調査対象者の性別・年齢等の内訳については表 1 に記す。 調査面接は院内の個室にて個別で実施した。調査に先だって研究内容の説明を行い、面接中に録音を行うこと、秘密保持には十分な注意を払い情報の管理を徹底すること、後日同意の撤回を行うことも可能であることなどを伝え、同意を得た。調査面接においては、まず後述の質問項目に基づく半構造化面接を実施した後、任意で風景構成法も実施した。半構造化面接における質問項目は、治療への取り組みに関する 2 項目、医療者・家族・家族以外の周囲の人との関係に関する 3 項目、糖尿病に対する付き合い方や距離感に関する 2 項目、今後の生き方に関する 1 項目の計 8 項目であった。  分析手続き 面接の逐語録をもとに資料を作成し、追跡調査時の対象者の状態や 2018 年度の調査時からの変化等について個別的に事例検討を行った。この際、事例ごとに 2018 年度の調査研究において見出した 2 つの評価軸、すなわち糖尿病者であることの体験の軸と、治療に対する取り組み（行動・態度・姿勢）の軸について、項目間の微妙な揺らぎや動きも考慮しながら改めて検討し評定を行った。糖尿病者であることの体験の軸は、糖尿病を患って生きることを受け入れている（「受け入れ」）か、受け入れには至っていないもののひとまず受けとめてはいる（「受けとめ」）か、あるいは受けとめが困難（「受けとめ困難」）かを評定した。治療に対する取り組みの軸に関しては、「取り組めている」か「取り組めていない」かについて評定を行った。また、2019 年度の分析にあたってはこれらの項目間での揺らぎや動きがあるかどうかを含めて検討しながら評定にあたった。その後、2 回の調査面接の結果を踏まえ、治療に関わる行動やその背景、その人らしさに焦点を当てながら個々の特徴的な行動や語りについて再分析し、各事例の個別性と共通性について改めて合議した。    52 臨床教育実践研究センター紀要  第 24 号                   結果と考察 治療行動の経年変化――糖尿病を生きるとは 調査対象者 11 名中 5 名は初回調査時と追跡調査時で治療に対する取り組みに関して変化が見られなかった一方で、残る 6 名に関しては何らかの変化・変動が見られた（図 1）。各群に見られた共通性について述べると、まず 2 年とも「治療に取り組めている」と評定された対象者は糖尿病を抱えて生きる自分を受け入れており、治療行動に対する抵抗感が薄い傾向が認められた。一方、2 年とも「治療に取り組めていない」と評定された対象者は、介護や肉体労働に従事しているなど、日常生活において心身への負荷が大きい状況にあることが窺えた。また、評定内容に変化・変動があった対象者は、自分の人生をいかに生きるかという問題と糖尿病治療との間で様々な葛藤を抱えており、糖尿病を患いながら生きるうえでの割り切れなさや揺らぎを日々体験していることが示唆された。糖尿病とともに生きるうえでは、パーソナリティや糖尿病に対するイメージ等の個人的因子や、家族・職場・病院等との関係性や周囲からの理解・援助の有無等の環境的因子、血糖値や HbA1c 等の生体指標の変動や他の疾病の有無等の治療的因子、その他様々な因子が密接に関連し合っており、それらの影響を受けることなく独立して糖尿病や糖尿病者が存在することはほとんど不可能であろう。個々の状況・状態の変化は多くの場合それだけで完結することなく、連鎖的・連動的に他の要因にも影響を及ぼしながら個々の糖尿病者の「生きる」体験を形作っているものと考えられる。したがって糖尿病者の支援に際しては、一見糖尿病治療とは無関係に思えるような語りや出来事であっても即座に捨象せず、それがその人にとってどのような意味を持っているのかをまず丁寧に検討することが重要になると言えるであろう。この際に心理臨床における力動的理解の視点をもって語りに耳を傾けることは、糖尿病者の生きる在り様を理解するうえでより多くの発見をもたらすのではないかと思われる。  図 1. 評定項目の変化の様相 表 1. 調査対象者の内訳 年齢（病歴）30代（15年）40代（1年）50代（16年）60代（24年）60代（11年）60代（9年）70代（23年）70代（13年）70代（5年）70代（21年）70代（29年）調査対象者 性別 病型A 女 ⅠB 男 ⅡC 男 ⅡD 女 ⅡE 男 ⅡF 男 ⅠG 男 ⅡH 男 ⅡI 男 ⅠJ 女 ⅡK 女 Ⅱ 糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究 53 学会発表要旨――事例を中心に 上記調査研究に関しては、新型コロナウィルス感染症の影響によりオンラインでの開催となった第 63回日本糖尿病学会年次学術集会にてポスター発表を行った。発表に際しては、上記内容に加えて、職業柄生活リズムが不規則になってしまうにもかかわらず治療に取り組めている B さんの事例も提示し、事例の内容を踏まえつつ総合的な考察を行った。 一般的に、糖尿病治療を行ううえで不規則な生活リズムは望ましくないと考えられる。しかし当該事例においては、主治医や家族に治療に関する相談を持ち掛けたり発症時からその事実を職場に公表したりすることなどにより病いの体験が他者と共有されていることが窺われ、その「病いの体験の共有」が糖尿病治療に対する前向きな取り組みを支えていることが示唆された。継続調査時にも B さんと周囲との関係は良好であり、インタビューにおいても糖尿病に対する意識は高まっているかもしれないと語られている。これらのことから、糖尿病治療においては当事者の意識や努力のみならず周囲との関係性もまた大きな影響を与えうることが改めて示唆されたと言えるだろう。 また、「病いの体験の共有」がもたらすものについて改めて他の事例も含めて検討したところ、「病いの体験の共有」は必ずしも治療行動に対してうまく作用するとは限らないことも示唆された。すなわち、周囲の者が共有された病いの体験をきちんと「聴く」ことができていれば、わかってもらえた、受け止めてもらえたという感覚が糖尿病者に生じ、孤立感の低減や人生の肯定感の向上や治療へのモチベーションの増加へとつながる可能性が考えられる一方で、例えば一方的に正論で返したり叱責されたりしてしまうと糖尿病者には責められるような感覚が生じ、批判・非難・排除される不安が惹起されたり援助希求意欲が減退したり治療へのモチベーションの低下につながったりする可能性も考えられる。糖尿病という病いの性質上、糖尿病者は生活上のあらゆる面で病いの自覚を要請あるいは強制されており、その負担は糖尿病治療に限らず人生全体に影響を与えるものであろうと推察される。「糖尿病を生きる」営みとは、糖尿病を患うことと自分らしく生きることとの間で揺れ動き葛藤しながら、生活を工夫し折り合いのつけ方を模索し続けることであり、治療者の役割とはその過程を共有し共に関わっていくことと言えるのではないだろうか。  今後の課題と展望 今回は二度にわたる調査全体から見えてきた傾向を中心に検討・考察を行ったため、様々な要因や治療行動等に関する経時的な変化については十分に考察することができていない。糖尿病者の個々の生活や人生に沿って理解をより深めるためには、二度の調査の間に何が変化し、あるいは変化しなかったか、またその背景にはどの要因が影響していたか等について、より詳細な検討を行う必要があると考えられる。たとえば初回調査と継続調査の担当者が同じケースと異なるケースの間に差異があるか否か、あるいは風景構成法からはどのような特徴が示唆されるのか等についても、今後改めて検討する必要があるだろう。 また、Kleinman, A.（1988/1996）が述べているように、病いという経験を理解するにはそれを患う人をとりまく社会的・文化的背景を理解することも不可欠である。今回調査で訪れた P 病院は、日本のなかでも独自の社会的・文化的背景をもつ地域に所在しており、分析に際してそれらについても考慮し54 臨床教育実践研究センター紀要  第 24 号  ながら検討することは非常に重要であり、今後の課題であると考えられる。“語る-聴く”という関係を基盤に力動的理解に努めることを基本姿勢としながらも、Kleinman, A.（1988/1996）が提唱した微小民族誌 mini ethnography や江口（2019）が考察を深めてきた臨床民族誌 clinical ethnography という枠組みも参照し実践してゆくことは、病いを抱えながら「生きる」体験をより多角的な視点から理解し援助するうえで多くの示唆をもたらすであろう。  引用文献 江口重幸(2019). 病いは物語である――文化精神医学という問い. 金剛出版.  皆藤章(2018). 心理療法におけるナラティヴ――医療人類学との接点. コンタクト・ゾーン(10), 163-185. Kleinman, A.(1989). The Illness Narratives: Suffering, Healing and the Human Condition. NewYork: Basic Books.江口重幸・五木田紳・上野豪志(訳)(1996) 病いの語り――慢性の病いをめぐる臨床人類学. 誠信書房.                                                     i本稿では皆藤(2018)に倣い、糖尿病を抱えて生きるひとを「糖尿病患者 diabetic patient」ではなく「糖尿病者 person with diabetes」と表記する。糖尿病を Kleinman, A.（1988/1996）の述べた、「疾患 disease」すなわち生物医学的疾病分類のなかで解釈される問題としてではなく「病い illness」という症状や患うことの経験として捉えるうえでは、後者の表記を用いることがより適切であろうと考えられるためである。 

<特集>糖尿病者への心理的支援に関する探索的研究 (特集II: 平成31年度京都大学教育研究振興財団研究活動推進助成報告書)

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/262685/1/prccpe24_50.pdf

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