内容の要約広島大学(Hiroshima University)博士(心理学)Doctor of Philosophy in Psychologydoctora

Abe, Natsuki

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内容の要約博士(心理学)Doctor of Philosophy in Psychology広島大

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論文審査の要旨 博士の専攻分野の名称 博 士 （心理学） 氏名 阿部 夏希 学位授与の要件 学位規則第４条第１・２項該当論 文 題 目 過剰適応の生起メカニズムの解明 ―評価懸念とストレス認知に着目して― 論文審査担当者 主  査    教 授    石 田 弓 審査委員    教 授    森 永 康 子 審査委員    教 授    杉 村 和 美    審査委員    准教授    中 島 健一郎 〔論文審査の要旨〕 本論文の目的は，過剰適応の生起メカニズムを明らかにした上で，その予防や介入のための心理臨床的アプローチを考案するための方向性を提案することである。以下の 6 つの章から構成される。 第 1 章「本研究の背景と目的」は，第 1 節「過剰適応とは」，第 2 節「過剰適応に至るプロセス」，第 3 節「本研究の目的」から構成される。概要は次の通りである。 過剰適応とは，環境からの要求や期待に個人が完全に近い形で従おうとすることであり，内的な欲求を無理に抑圧してでも，外的な期待や要求に応える努力を行うことである。過剰適応の傾向が高い者（過剰適応者）は，良好な対人関係を築き社会的に適応しているように見えても，心理的に適応しているわけではない。周囲から気づかれないまま不適応に陥っている人々と言える。実際，先行研究では過剰適応が抑うつやストレスなどの心身上の問題だけでなく，自殺や不登校などの教育・社会上の問題につながることが指摘されており，心理臨床的アプローチの開発が求められている。しかし，過剰適応がどのようなメカニズムで生じるのかが十分に検討なされておらず，アプローチの方向性が不明瞭なままになっているという問題点が残されている。この解決のために，著者は 4 つの研究を実施した。その内容が第 2 章以降で述べられている。 第 2 章「アレキシサイミアが評価懸念とストレス認知を介して過剰適応に至るプロセスの検討」では，思春期と青年期の人々を対象にした調査的検討（研究 1）の内容を詳述している。アレキシサイミアとは自他の感情を認識し，類推することが不得手な性格特徴を指す。主たる結果として，アレキシサイミア傾向と過剰適応の内的・外的側面との関連を，他者からの否定的な評価に対する不安（FNE）が媒介していることが示された。 第 3 章「DIF と DDF に着目した検討」では，アレキシサイミアの下位側面である感情認識困難（DIF）と感情言語化困難（DDF）に着目した上で，思春期から成人期までを対象とした調査的検討（研究 2）の内容を詳述している。感情認識困難と感情言語化困難はアレキシサイミア以外の心身上の問題を有する個人にも認められる。このことから，過剰適応の両側面との関連を整理することにより，第 2 章で示した知見の応用可能性を論じることが可能になる。分析の結果，研究 1 と同様に FNE の媒介効果が認められた。  第 4 章「プロセスの一般化可能性に関する検討」では，この媒介効果が日本とは社会文化的特徴が異なる国で生活している人々において認められるかどうかを検討するために，イギリス在住の青年期から成人期の人々を対象にした調査的検討（研究 3）の結果を詳述している。その結果，FNE の媒介効果が認められ，その一般化可能性が示唆された。  第 5 章「過剰適応の規定因に関する検討」では，過剰適応の規定因について，ランダムフォレスト法による検討結果が詳述されている（研究 4）。研究 3 までの結果はあくまでFNE の媒介効果を示すにとどまり，過剰適応の生起メカニズムを示したとは言えない。これを示すためには，過剰適応者とそれ以外の人々を弁別する要因を同定することが必要である。検討の結果，FNE が過剰適応の規定因であり，周囲の他者が気づきにくい過剰適応者を早期に発見し，介入を行う上で FNE の水準に着目することの有用性が示された。  第 6 章「総合考察」では，第 1 節で各研究の成果を整理した上で，第 2 節では研究の学術的意義について，第 3 節ではその実践的意義についてまとめている。これを受け，第 4節では研究全体に係る限界点と今後の課題を整理することを通して，研究の展開可能性についてまとめている。   本論文は，上記の第 4 節で述べたように方法論上の課題はあるものの，過剰適応に関する臨床社会心理学的研究として，次の 2 点において高く評価することができる。 (1) 他者からの否定的な評価に対する不安（FNE）が過剰適応の規定因であることを示した点 異なる年代の人々を対象に，そして日本とイギリスのデータを用いた調査的検討を通して，FNE の媒介効果を明らかにした。その上で，FNE が過剰適応者とそれ以外の人々を弁別する要因であることを示したからこそ，過剰適応者の早期発見・介入のためのアプローチの方向性を提案することが可能になった。アプローチの具体化は将来の研究に委ねる必要があるものの，過剰適応の規定因を同定し，生起メカニズムを示した点は評価に値する。(2) 過剰適応の早期発見・介入のためのアプローチの方向性を示した点 研究 3 までの成果は，先行研究で不明瞭なまま残されていた，過剰適応と他の関連概念との関係性を整理した点にあり，研究 4 の成果は過剰適応の規定因を同定し，過剰適応者の早期発見・介入のためのアプローチの方向性を示した点にある。これらの成果は主に臨床的介入におけるアセスメントや介入計画の策定のための基礎的資料として活用することが期待できる。介入研究へと実際に展開するためには，検討すべき課題が残されているものの，その道筋を拓いた点は評価に値する。  以上，審査の結果，本論文の著者は博士（心理学）の学位を授与される十分な資格があるものと認められる。  令和 2 年 9 月 1 日    

過剰適応の生起メカニズムの解明 : 評価懸念とストレス認知に着目して

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