A study on the mechanism of ZEITLUPE regulated hypocotyl elongation in Arabidopsis thaliana

Abstract

<序論>植物の光形態形成反応は、光情報が光受容体によって受け取られ、その情報が化学情報に変換されて細胞内に伝えられることで誘起される。植物の光受容体には、主に赤色光、遠赤色光の受容に関与するフィトクロム、青色光の受容に関与するクリプトクロムやフォトトロピン、ZTL (ZEITLUPE) / LKP2 (LOV KELCH PROTEIN 2) / FKF1 (FLAVIN-BINDING, KELCH REPEAT, F-BOX 1) ファミリータンパク質などがある。 シロイヌナズナのZTL、LKP2、FKF1は、LOVドメイン、Kelchリピート、F-box モチーフの3つの機能領域を有する青色光受容体 (図1) で、SCF複合体 (Skp1, Cullin1, F-box containing complex) の構成要素としてはたらき、標的タンパク質の青色光に依存したユビキチン化に関与するとされている。<図1> ZTL/LKP2/FKF1 ファミリータンパク質の構造ZTLは胚軸伸長制御に関与することが報告されており、ZTL過剰発現体は連続明条件下で長胚軸となり(Nelson et al. 2000)、T-DNA挿入により機能が欠損した変異体 (ztl変異体) は短胚軸となる(Miyazaki et al. 2015)。しかし、ZTLがどのようにして胚軸長を制御しているのかはまだ明らかにされていない部分も多い。本研究では、ZTLによる胚軸伸長制御機構を明らかにすることを目的に実験を行った。<結果・考察1  ZTL過剰発現体の遺伝子発現解析>22℃・連続白色光下で8日間育てた野生型とZTL過剰発現体の実生から単離したRNAを用いてDNAマイクロアレイ解析を行い、野生型とZTL過剰発現体の遺伝子発現について網羅的に調べた。ZTL過剰発現体の2つのラインで共通して野生型よりも発現量が2倍以上に増加していた遺伝子は106個あり、1/2以下に減少していた遺伝子は146個あった。これらの遺伝子をクラスタリング解析すると、過剰発現体で発現量が増加していた遺伝子の中には、オーキシン応答性の遺伝子が20個含まれていた。3つのオーキシン応答性の遺伝子 (SAUR22, SAUR23, IAA29 ) についてqRT-PCRで解析した結果、何れも野生型よりも過剰発現体の胚軸で発現量が有意に増加していることがわかった。これらのことから、過剰発現体の胚軸では、オーキシン含量が増加しているか、オーキシンに対する感受性が増加していることが示唆された。また、オーキシンの極性輸送を阻害するN-1-naphthylphthalamic acid (NPA)、オーキシンアンタゴニストのα-(phenyl ethyl-2-one)-indole-3-acetic acid (PEO-IAA)、オーキシン合成阻害剤Yucasinを処理し胚軸長を測定した結果、いずれの阻害剤でもZTL過剰発現体と野生型の胚軸長の有意な差がなくなった。阻害剤を用いた実験によってもZTLによる胚軸伸長制御へのオーキシンの関与が確かめられた。<結果・考察2 ztl変異体の遺伝子発現解析>野生型とztl変異体の胚軸長の差は、22℃よりも28℃で顕著になる (Miyazaki et al. 2015)。そこで、28℃・連続白色光下で8日間育てた野生型とztl変異体の実生を用いて、DNAマイクロアレイ解析を行った。2つのztl変異体で共通して野生型よりも発現量が2倍以上に増加していた遺伝子は133個あり、1/2以下に減少していた遺伝子は199個あった。これらの遺伝子をクラスタリング解析すると、ztl変異体で発現が減少していた遺伝子の中には、オーキシン応答性の遺伝子が16個含まれていた。これらのオーキシン応答性の遺伝子の中の3つ (SAUR22, SAUR23, IAA29 ) についてqRT-PCRで解析し、何れも野生型よりもztl変異体の胚軸で発現量が有意に減少していることが分かった。また、ztl変異体でも3種類のオーキシン阻害剤を加えた場合の胚軸長を調べ、いずれの処理区でもztl変異体と野生型の胚軸長に有意な差が認められなかったことから、ZTLによる胚軸伸長制御へのオーキシンの関与が裏付けられた。<結果・考察3 ztl変異体の部位別遺伝子発現解析レポーター遺伝子を用いた解析及び遺伝学的解析>オーキシンは特定の場所で合成され、合成されたオーキシンは極性輸送によって作用部位へ運ばれることが知られている (Keuskamp et al. 2010; Kohnen et al. 2016)。実生の大部分は子葉であるため、これまでのマイクロアレイ解析では、主に子葉で発現が変化した遺伝子に注目している可能性がある。そこで、胚軸での遺伝子発現を詳細に調べるため、実生を胚軸と胚軸より上部にわけてマイクロアレイ解析を行った。胚軸のマイクロアレイ解析において、2つのztl変異体で共通して野生型よりも発現量が2倍以上に増加していた遺伝子は638個あり、1/2以下に減少していた遺伝子は1062個あった。これらの遺伝子をクラスタリング解析すると、ztl変異体で発現量が減少していた最も有意なクラスターは細胞壁修飾に関わるもので14個の遺伝子が含まれていた。しかし、実生のクラスタリング解析で上位にみられたオーキシン応答性遺伝子が、胚軸のクラスタリング解析ではみられなかった。一方、胚軸より上部のマイクロアレイ解析では、2つのztl変異体で共通して野生型よりも発現量が2倍以上に増加していた遺伝子は469個あり、1/2以下に減少していた遺伝子は1038 個あった。これらの遺伝子をクラスタリング解析すると、ztl変異体で発現量が減少していた最も有意なクラスターは、”Response to endogenous stimulus” であり、61個の遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子の中には、16個のSAURと7個のAUX/IAAが含まれていた。続いて、2番目に有意であったクラスターは、転写因子遺伝子PIF4, PIF5が含まれていた。PIF4, PIF5は、オーキシン合成酵素遺伝子YUC8の転写を促進することが知られている (Franklin et al. 2011; Sun et al. 2012; Hornitshek et al. 2012)。そこで、オーキシン合成酵素遺伝子に注目すると、胚軸より上部では、TAR3, YUC3, YUC8, YUC9 の発現量が野生型よりも2つの変異体で1/2以下に減少していることが分かった。次にオーキシン合成酵素遺伝子やオーキシン応答性遺伝子の発現量が、ztl変異体において減少していたことから、それらのプロモーター活性が低下している可能性を考え、2種類のレポーター遺伝子 (pYUC8:GUS, pDR5:GUS )を用いて検証した。その結果、どちらのレポーター遺伝子でもGUS遺伝子発現、およびGUS活性は野生型よりもztl変異体で低下していた。また野生型背景のpYUC8:GUSは子葉の先端で、pDR5:GUSは葉と胚軸でGUSの染色が見られたが、それらの染色はztl変異体ではみられなかった。これらのことから、ztl変異体ではオーキシン合成酵素遺伝子とオーキシン応答性遺伝子のプロモーター活性が低下していることが示唆された。続いて、ztl変異体におけるオーキシン応答性遺伝子の発現を継時的に調べるためpIAA19:ELuc-PESTを用いた実験を行った。野生型とztl変異体との間で、ルシフェラーゼ活性の周期に有意な差はみられなかったが、振幅及びピーク値は一貫してztl変異体で減少していた。従ってZTLはオーキシン応答性遺伝子の発現周期ではなく発現量に影響を与えることが示唆された。マイクロアレイ解析やレポーター遺伝子を用いた実験により、ZTLの下流でPIFやYUCが働いていることが示唆されたので、それらの遺伝学的な上下関係を調べた。ztl変異体背景のPIF4過剰発現体、YUC8過剰発現体 (ztl PIF4 ox, ztl YUC8 ox ) の胚軸長は、28℃・連続白色光下でそれぞれ野生型背景のPIF4過剰発現体、YUC8過剰発現体と同程度まで長胚軸を示した。このことは、ZTLの下流でPIF4やYUC8が働いていることを示している。一方PIF4の上流には、赤色光受容体phyBが存在し、PIF4, PIF5の分解を促進することが知られている (Lorrain et al. 2008)。ZTLもphyBもPIF4の上流に存在するので、ZTLとphyBとの関係性を調べるためにztl phyb を作出し、胚軸長を測定した。その結果、28℃・連続白色光下でztl phybはphyb変異体と同程度まで長胚軸を示した。このことから、ZTLによる胚軸伸長制御へのphyBの関与が示された。<まとめ>これらの結果をまとめると、ZTLは、胚軸より上部においてPIF4, PIF5の発現上昇を促し、PIF4, PIF5 がYUC8 等のオーキシン合成酵素遺伝子の発現を上昇させることで、オーキシン合成を活性化させる。子葉で作られたオーキシンは、極性輸送によって胚軸に流れ、胚軸で細胞壁の伸展を誘導する酵素EXP8 等の発現上昇を促し、胚軸伸長を促進するというモデルが考えられる (図2)。学習院大学Gakushuin Universit

    Similar works