Kazuaki Jikuya

軸屋 和明

軸屋, 和明

Jikuya, Kazuaki

Kawasaki College of Allied Health Professions Institutional Repository / 川崎医療短期大学学術機関リポジトリ

ペンドラムテストモデルにおけるパラメータの一意性I.正常者の場合軸屋和明川崎医療短期大学 医用電子技術科（平成 9年 9月17日受理）Uniqueness of Parameters in Pendulum Test Model I. Study on Normal Subjects Kazuaki JIKUY A Department of Medical Engineering, Kawasaki College of Allied Health Professions Kurashiki, Okayama 701-01, japan (Accepted on Sep. 17, 1997) Key words:ペンドラムテストモデル，膝関節運動， パラメータの一意性，定量的評価概要67 箪者は，膝関節における痙縮の定爵的評価を目標として，これまでにペンドラムテストモデルを迎出し，これを利用してシミュレーション結果が実測結果に極カ一致するようにパラメータの値を決定しようとしている。本研究では，このようなシミ ュレーションにおいて，パラメータの値が唯一決まるか否かを正常者について理論的に検討した。その結果，ペンドラムテストにおける膝関節運動の振動形態と筋の物理的性質とを考慮するとともに筋の粘性変化に関する 1つの仮定を設けることにより ，パラ メータの値が唯一決まり得ること，即ち， バラメータの一意性が示された。1. まえ が き近年， リハビリテーション工学の分野では，膝関節などにおける痙縮とい った異常反射を定量的に評価することが重要な課題の一つとなっている凡この課題に対しては，膝関節運動の実測結果とその運動のモデルによるシミュレーション結果とを併用して評価するというアプローチが極めて有効である。 このような観点から，筆者は，これまでにペンドラムテ ス トにおける膝関節運動を対象としてモデル （以下，誤解の恐れのない限り，ペンドラムテストモデルという）を構成し叫 これを利用して実測結果に極力一致するようにパラメータの値を決定するというシミュレーションを試みている叫上述し たシミュレーションでは，実測結果 との残差 2乗和が最小となること を条件としてパラメータの値か決定されるか，この際，重要なことは，実測結果に対してパラメータの値が一意に決定できるという理論的な裏付けを持っている ことである。本研究では，評価の甚準となる正常者について，パラメータの値が一意に決定できることを理論的に明 らかにし たので報告する。68 軸 屋2.膝関節運動の測定結果(1) 測定法本研究における膝関節運動の測定系は， ゴニオメータの代わりに加速度計を用いること 以外Vodovnikらの測定系叫と同じである。特に，加速度計を用いた理由は，膝関節の動きをより敏感に検出したいからである。図 lにこの測定系を示す。被験者は，下腿部をベッド上から突き出した形で座位に保たれる。加速度計は，被験者の膝関節軸の中心か ら60cm下方に細長い木製平板を用いて取り付けられる。膝関節運動は，膝関節角度0（下腿の中心線がベッドのマット面に対して垂直方向に向いたとき0度）かある値となるまで下腿部を持ち上げたのち，これを自由落下させて引き起こされる。このとき，膝関節は，下腿部にかかる重力，膝関節部の粘弾性，大腿四頭筋とハムストリングスの反射などで決まる振子運動状の減衰振動を呈する。この減衰振動は，上述した加速度計により屈曲，伸展方向の角加速度変化として検出され，パーソナルコンピュータによって CRT画面に表示されると共に，記録紙上に描かれる見(2) 測定結果上述した測定系により測定した正常者と軽度，中程度，重度の痙縮患者の典型的な角加速度波形と大腿四頭筋の筋電図の例を図 2に示す。 (a)は，正常者の角加速度波形と筋電図であり ，（b),(c)および(d)は，それぞれ，軽度，中程度および•'9. . ‘’・‘ ’ 廿サヽ＼礼ご：’-サ「't,1 木製平板I 和 明重度の痙縮患者の角加速度波形と筋電図である。いずれの波形についても横軸は，下腿部が自由落下し始めた時刻を原点とした時間である。また，角加速度波形の縦軸は，屈曲方向を正にとっている。正常者では，正弦波状の減衰振動となっており，筋電発火はほとんど認められない。これに対して痙縮患者では，角加速度波形における最初の谷が正常者より大きく， しかも，反射が充進するにつれて大き〈なっている。そして，この谷が生じたあとにおいては，軽度の場合，正常者とほぼ同じ周期の正弦波状減衰振動を生じているが，中程度の場合，ほとんど振動が消失已へへr-1-→云9W3 ！ロ卜り北[IOOμV 」(a)正常者[0.5g. l秒I I [!OOμV 」秒I I (b)軽度の痙縮患者[0.5g 1秒l l → 時間→ 時間[lOOμV 1秒9 1 (c)中程度の痙縮患者[ 0.5g 1秒9 1 →時間囀しDl'IEI [ lOOμY 」(d)重度の痙縮患者図 1 膝関節運動の測定系 図2 測定結果パラメータの一意性 69 し，更に重度の場合，正常者に比してより周期の短い正弦波状減衰振動が生起している。また，軽度および中程度の患者では，最初の谷の付近でのみ筋電発火 （中程度の方が大きい）か認められ，重度では，すべての谷の付近でその大きさに応じた筋電発火か認められる。以下， 1' で述べたように本研究では，正常者を対象に議論する。3.正常者のペンドラムテストモデル(1) モデルの抽出2.で述べたように，正常者では，膝関節運動においてほとんど反射が生じないので，こ の運動は，下腿部の慣性，膝関節に関わる粘弾性などで決まる正弦波状の減衰振動 （自由振動）とみることができる。そこで，談論を単純にするため，箪者が既に導出したペンドラムテストモデル2)から自由振動を支配する筋リンク系のみを抽出した。このと きのモデルを図 3に示す。このモデルは次のように構成されている。一般に，筋リンク系の特性を表す微分方程式は次式で与えられる見Jd乃／dt'+Bd0/dt +Ke+ (l/2)mglsin0=Q (1) 但し， Qは筋リンク系の入力であり ，0はその出カである。また，J, BおよびKは，それぞれ，筋リンク系s:ラプラス演算子 abs:絶対値記号図 3 正常者のペンドラムテストモデル膝関節に関わる慣性係数，粘性係数および弾性係数であり， m, gぉよび ］は，それぞれ，下腿部の質戴，重力加速度および下腿の長さである。図3において，破線の外側が上式に対応するが，Bは，特に，筋におけるミオシン分子とアクチン分子の状態 （ゾル，ゲル）変化にもとづいて時間とともに変化するので，式(2)に従って破線内部のようにモテル化されている叫dB/dt=b(B、,-B)-a(B-Bm)ld0/dtl(2) ここに， BMおよびBmは，それぞれ，粘性係数の最大値および最小値である。また， a, bは，正の定数である。Qは，下腿部を持ち上げるときの膝関節に対するトルクであり ，これが 0となることにより膝関節運動が引き起こされる。このモデルの入力は Qであり ，出力 （出力端は図示されていない）はd噂／dt2である。ま た，定数は， J, BM, Bm, a, b, K, m, Iである。(2) パラメータJ, B,"' Bm, a, b, K, m, ］のうち，J, 11および ］は被験者の各部の寸法を実測することにより推測可能である。また，B』ま膝関節運動に対して感度か低い6)。そこで本研究では，J, 11および lについては推測値が利用でき，B贔こついては固定値が利用できるとする。このとき，シミュレーションにおけるパラメータはBM, a, b, Kの 4つとなる。以下，これらの4つのパラメータの一意性を検討する。4.一意性の理論的検討ここでいう 一意性とは，実測結果とシミュレーション結果との残差 2乗和が最小と なるときのパラメータの値が唯一存在する性質のことである。3.で述べたように，正常者 （反射が存在しない）の膝関節運動は次式で表現される。J d20/dt2+ Bd0/dt +K0+ (l/2)mglsin0= 0 (3) また，このうちの Bには，式(2)を満たす可変性が繰り込まれている叫ここでは，正常者の膝関節運動の振動形態と枯性係数の物理的性質とにもとづいて，こ の運動に対する粘性係数（B，¥，I, a, b)と弾性係数(K)の一意性を検討する。70 軸 屋まず，膝関節運動に対する （時間関数としての）BとKの一意性を述べる。式(3)を満たす正弦波状の減衰振動が次式でも表現できるとする。Jd噂／d仔十B'dB/dt+K'B+ (l/2)mglsin0= 0 (4) 即ち，ある膝関節運動がB,K以外にも B',K' により表現できるとする。このとき，式(3)と式(4)から，(B-B')d0/dt+(K-K')0= 0 が常に成り立つはずである。他方，正常者の膝関節運動は正弦波状の減衰振動となり， 0およ び dB/dtは，模式的に，それぞれ，図 4(a)および(b)のように示さ れる。同図からわかる よう に，dB/dt=0となるときのOの値は 0とならない （ほぼ極大値あるいは極小値をとる ）。 そこで，この関係を式(5)に当てはめる。このとき，左辺第 1項は 0であるから， KキK'では式(5)は成立しない。よって，K=K'となる。続いて， K=K'としたとき， dB/dtキ 0となる時刻においては，B=B'以外式(5)は成立し ない。しかし， dB/dt=0となる時刻においては，B-B'の値は不定となるので，この式だけから（この時刻の）Bの一意性を検討することはできない。そこで以下，枯性の物理的性質を考慮してこれを検討する。文献(3)によれば，筋を構成するフィラメントはミオシン分子とアクチン分子を主成分としているが，ゲル状態にある分子は， ldB/dtlに比例した割合でケル化され，ゾル状態にある分子は(5) 和 明(6) (7) OA_ 三・-(a)角度IP/ OP ◄T' ¥、.・’^ •三tlme 図4(b)角速度角度と角速度一定の割合でゲル化される。そして，粘性係数はBm（すべての分子がゾル状態）とBM（すべての分子がゲル状態）の間の値をとり， Bmを越える増分はゲル状態にある分子の割合に比例する。式(2)で記述された枯性係数は， このような物理的性質を表現しており， しかも，ここで対象としている ld0/dtlは連続的な関数である。これらのことから，粘性係数は連続的な変化になると考えられる。従って， この結果と上述した結果を勘案すれば，d0/dt=0において Bの値は一つしか存在しないことになり， d0/dt=0においても B'はBに等しいことになる。以上から，膝関節運動を表現するためのB,Kの値は一組しか存在しないことになる。次に， Bに対する諸定数BM,a, bの一意性を述べる。式(2)を満たす Bが次式でも表現できるとする。dB/dt=b'(B,.,'-B)-a'(B-Bm) I d0/dt I このとき，式(2)と(6)から，bBM-b'B,i'-(b-b') B + (a-a') (Bm-B) I d0/dtl = 0 か成立するはずである。他方，上述したように， Bの値は， ミオシン分子とアクチン分子の （ゲル状態分子の）ゾル化と （ゾル状態分子の）ゲル化に依存するが，Lakieらによれば， このときのゾル化は 1回の（十分な）筋の伸縮で急速に進むが，ゲル化はこれに比してかなり遅い (1~ 2秒）といわれている 7)。また，本研究の膝関節運動は，被験者の静止状態を十分に保ったのちに測定されるため，Bの初期値は BMの付近にあると考えられる。これらのことを考慮して Bの初期値， BM,Bm, a, bを適当にとれば，Bの変化は図 5(b)のようになると考えられる。即ち，同図(a)に示されるように，ld0/dtlが大きく変化する期間においては Bの値は （多少の変動があるが）低下していき，その後は B叶こ向かって漸近してい〈と考えられる。この結果から， ld0/dtl= 0におけるBの値すべては一定の値をと ることはないと予測される。そこでここでは，ld0/dtl=OにおけるBの値は一定値にはならないと仮定する。このように仮定して ld0/dtl= 0における 2点のBの値をそれぞれBぃ恥とすれば，式(7)より，次の 2式が得られる。パラメ ータの一意性 71 ．̂ ｀ ．． (.‘ ••• ‘ •• ．．． （一―M BB 一1p/9pj-+-8A_ f. ＾ ・ •- 、r、ヘt；沿、．．／へ、／へ、へ＾ー(a)角速度の絶対値..time (b)粘性 ..lime 図 5 角速度の絶対値と粘性bB,I-b'BM'ー (b-b')B,=0 bB\•I -b'B卜1'-（b-b'）恥 ＝0 式(8)-(9)より(b-b') (B,-B,) = 0 とな り，B2=I=B1であるので，b-b'= 0 即ち，b'=b (12) が迎かれる。そして，これを式(8)に代入すれば，恥 '=BM (13) となる。続いて，b'=b, BM'=BMとしたとき ，d8/dt=I 0となる時刻において式(7)が成立するた(8) (9) (IO) (1) めには，a-a'= 0 即ち，(14) a'=a Sl ．． でなければならならない。以上，ld0/dtl= 0における Bの値は一定にはならないという仮定のもとで，膝関節運動に対する BM,a, b, Kの一意性が示された。の一意性を正常者について理論的に検討した。その結果，膝関節運動の振動形態と筋の物理的性質とを考慰するとともに筋の枯性変化に関する1つの仮定を設けることにより ，パラメータの一意性が示された。今後は， 痙縮患者についてパラメータの一意性を確かめるとともに，多くの正常者と痙縮患者に対してパラメ ータの値を求める所存である。文 献1) Lin, D.C., Rymer, W.Z. : A Quantitative Analysis of Pendular Motion of the Lower Leg in Spastic Human Subjects, IEEE Trans. Biomed. Eng, 38 (9), 906-918, 1991. 2),1鼎屋和1伊）、岡本卓爾，横平徳美，明右 謙：ペンドラムテストにおける膝関節運動の生成機）字，旭子•fli報通信学会論文誌 ( D - II ) J 74-D-Il (9), 1289-1299, 1991. 3)軸屋和明，岡本卓爾，横平徳美，明石 謙：痙縮患者を対象としたペンドラムテストモデルの粘度改善，池子情報通信学会論文誌 J 78-D-I (4), 650-660, 1995. 4) Vodovnik, L., Bowman, B.R., Bajd, T Dynamics of spastic knee joint, Medical & Biological Engineering & Computing 22, 63-69, 1984. 5)軸屋和明，岡本卓爾，明石 謙 ：自巾落下により誘発される膝関節運動の生成機序，医用泣子と生体工学 28（特別号），47, 1990. 6)軸屋和明，横平徳美，岡本卓爾，明石 訛：ペンドラムテストの詳細なシミュレーション，医用訛子と生体工学 31（特別号），449, 1993. 7) Lakie, L., Walsh, E.G., Wright, G.E. : Reso-nance at the wrist demonstrated by the use of a torque motor : An instrumental analysis of muscle tone in man, J.Physiol. 353, 265 -285, 1984. 5.むすびペン ドラムテストモデルにおけるパラメ ータ

Uniqueness of Parameters in Pendulum Test Model 1.Study on Normal Subjects

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ペンドラムテストモデルにおけるパラメータの一意性 I. 正常者の場合

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