福島原発事故により放出されたタイプの異なる不溶性粒子の Sr,Pu 分析

Abstract

【序論】福島原発事故では SiO2 の母材に高濃度の放射性 Cs を含んだ不溶性の微粒子(以下、不溶性粒子)が放出された。これまでに形態や組成元素、放出元の原子炉がそれぞれ異なる、複数の種類の不溶性粒子の存在が指摘されている[1,2,3]。これらの粒子は不溶性であることから放出時の物理化学状態を保持していると考えられ、粒子の分析から事故時の炉内環境についての情報を得ることができると期待される。燃料内に存在する核種の中で Sr や Pu は、Cs よりも揮発性の低い元素であり、これらの核種は炉内の酸化還元雰囲気の違いに応じて変化する各化学状態により揮発性が変化する性質が知られている[4,5]。したがって不溶性粒子に含まれる Sr,Pu を定量することで、粒子生成時における炉内温度や酸化還元雰囲気などの知見が得られる。また Pu を定量することで、由来ごとに異なる同位体比の決定が可能である。福島原発事故により放出された Pu はその量と同位体比の調査が行われてきているが、土壌などの環境試料から定量された Pu は事故による放出量が少ないために、事故前から存在するグローバルフォールアウトの影響が混合して値が大きくばらついていることが報告されている [6]。本研究では放出時の状態を保持した不溶性粒子の分析を行い、Sr の存在量から各原子炉における粒子生成時の炉内環境について考察した。さらに Pu の定量を行い、同様の炉内環境についての情報を得るだけでなく、グローバルフォールアウトの影響のない福島原発事故由来のPu のみを分析することで、福島原発事故由来の Pu 同位体比を決定した[7]。【実験】本研究では Cs の放射能比から 1 号機由来と 2 号機または 3 号機由来であると推測されたそれぞれ種類の異なる不溶性粒子について、放射化学的手法と ICP-MS 分析により Sr,Pu の定量を行った。具体的にはアルカリ溶融により粒子を溶液化し、Sr-Rad disk により Sr を分離し液体シンチレーションカウンタによって 90Sr を定量した[3]。Sr-Rad disk を通過した溶液成分について、さらにレジンを用いたクロマトグラフィー実験により Pu を濃縮し、SF-ICP-MS によって Pu (239Pu, 240Pu)を定量した[8]。【結果と考察】不溶性粒子から定量された Pu 同位体比(240Pu/239Pu)は 0.3~0.4 程度であり、炉内のインベントリー計算値[9]や、落ち葉などの一部の環境試料の値[6]と良い一致を示していた。不溶性粒子に含まれる Sr,Pu 量については、1 号機由来の不溶性粒子では 90Sr/137Cs と 239+240Pu/137Cs の値がそれぞれ 10e-4~10e-3,10e-8~1e0-7 であった。一方で 2 号機または 3 号機由来の不溶性粒子では、90Sr/137Cs の値は 1 号機由来の粒子と同程度であったが、239+240Pu/137Cs の値については 1 号機由来の粒子よりも低いものが存在し、粒子の種類で違いが現れることがわかった。講演では不溶性粒子の Pu 同位体比の詳細や各種類の不溶性粒子に含まれる Sr,Pu 量から予想される不溶性粒子の生成過程について議論する。【参考文献】[1] K. Adachi et al., Sci. Rep. (2013) 3, 2554. [2] Y. Satou et al. Geochem. J. (2018) 52, 0514. [3] Z. Zhang et al., Environ. Sci. Technol. (2019) 53, 10, 5868-5876. [4] Y. Pontillon et al. Nucl. Eng. and Design. (2010) 240, 1853-1866. [5] S. Miwa et al. Nucl. Eng. and Design. (2018) 326, 143-149. [6] J. Zheng et al, Sci. Rep. (2012) 2, 0304. [7] J. Igarashi et al., Sci. Rep. (2019) 9, 11807. [8] Z. Wang et al., Anal. Chem. (2017) 89, 2221-2226. [9] K. Nishihara et al., JAEA-Data/code. (2012) 2012-018, 65-117

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