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往還型深海TVカメラシステム「江戸っ子1号」開発プロジェクトの概要と実海域(水深7,800m)試験結果
「江戸っ子1号」プロジェクトの始まりは,葛飾区の小企業「杉野ゴム化学工業所」の杉野社長が「深海」を調査することのできる無人探査機(有索ROV)をつくりたいという発案だった。2009年にJAMSTECにアドバイスを求めたが、ROVの開発は、資金的・技術的にも無理であることがわかった。代案として、1978年頃にJAMSTECが研究していた「フリーフォール型ガラス球深海カメラ」の技術を応用し、さらに最新の電子技術を適用すれば、廉価に簡単で確実なシステムが実現できることが示された。このカメラは、海面から海底まで錘の自重で自由落下し、餌によって生物をおびきだし、予め設定しておいた時間撮影した後、錘を捨てて、再び海面に戻ってくる単純なシステムである。大きな特徴は、耐圧容器に市販(米国、ドイツ製)のガラス球を使うことにより、深海における最大の課題である高圧力の問題を回避できることである。そのため、カメラやライトなどは、中小企業の優れた技術力を結集することにより実現できると考えたのである。この提案を受け、新たな参加企業を募り、中小企業各社(杉野ゴム化学工業所、浜野製作所、パール技研、ツクモ電子工業)が参加した。また、コーディネータとして参加した東京東信用金庫が大学に働きかけ、JAMSTECの他に芝浦工業大学、東京海洋大学が参加して、「江戸っ子1号開発プロジェクト委員会」が発足した。その後、2011年に岡本硝子工業やバキュームモールドも参加し、JAMSTECの実用化促進プログラムにも採用され、プロジェクトが一気に動き出した。「江戸っ子1号」の目的は、水深8,000mで深海魚の3D動画を撮影するということであり、その実現に向けて各社と大学の作業が始まった。 まず、システムの中核となる耐圧ガラス球は、外国製を凌駕する性能のものが国産化された。さらに、市販の機器(3DカメラやLEDライトなど)を組み合わせ、円滑に動作させるために中小企業各社がその技術力を結集した。最終的に完成したシステムは、左下図のようなものであり、各々のガラス球間を特殊なゴム(大学が担当)により無線LANで繋ぐことで撮影時間などを制御できるようにした。本システムは、小型軽量であるため漁船でも投入でき、撮影終了後、音響コマンドにより錘を切離し、海面に浮上して衛星にGPSによる位置を通報し回収される。実験機は、漁船による相模湾での試験を経て、2013年11月に「かいよう」により日本海溝の水深4,000mと7,800mの海底に投入された。3機の「江戸っ子1号」は、設定されたスケジュールどおり投入から数時間から2日後に無事回収された。機器は完全に作動し、記憶メディアには、無数の世界最深部と思われる魚類(シンカイクサウオの仲間1種)ヨコエビの仲間(3?5種)が流れの方向から集まってくる様子などが、鮮明な3D動画として長時間記録されていた。 なお、本プロジェクトに対し、異業種の中小企業や大学、研究機関が共同で一つの目標を達成したことが評価され「第43回日本産業技術大賞・審査員特別賞」や「産学官連携功労者内閣総理大臣賞」などが授与された。更に2014年後半からは、岡本硝子(株)を中心としてカメラ本体の商品化や耐圧ガラス球の販売などを行うための事業化も始まった。我々は、これらのことから本プロジェクトは、実用化展開促進プログラムの目的を充分に果たしたと考えている。BE15-30講演要旨 / ブルーアース2015(2014年3月19日~20日, 東京海洋大学品川キャンパス)http://www.godac.jamstec.go.jp/darwin/cruise/kaiyo/ky13-e05/