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自動車用ヘッドアップディスプレイにおける視覚情報受容に関する研究
名古屋大学Nagoya University博士(工学)本研究の目的は,ドライバの視覚情報受容の観点から,自動車用ヘッドアップディスプレイの表示装置としての優位性のメカニズムを解明し,主たる設計変数の最適化指標を明らかにすることである.現在,自動車技術・産業は,3高(高度情報化,高齢化,高速移動社会)や3K(エネルギの効率,環境,感性)に代表される新しい時代の要請に直面している.自動車用表示装置の分野でも例外ではなく,これらの要請に応えるため人間の諸特性,特に視覚機能に適合した新しいマンマシーンインタフェースが求められている. 1988年に登場した自動車用ヘッドアップディスプレイは,デザインの新規性と共に,新しいヒューマンインタフェースとして大きな期待を集めている.しかしながら,ドライバの視覚情報受容という面から見ると,自動車用ヘッドアップディスプレイにはいくつかの疑問点や懸念も存在する.外界(前景)視対象の認識が最優先される自動車運転視覚環境で,表示像情報の認識のために前景視対象の認識が疎かにならないだろうか.前景視対象と表示像との干渉(クラツタ)は,自動車用表示装置として致命的な問題とならないだろうか.自動車用ヘッドアップディスプレイへの期待を具体的に実現するにはどのような手順で臨めばよいのであろうか.どの設計変数がドライバの視覚情報受容に有効に寄与し,どのように設定すれば最良なのか等である.これらの期待や疑問,懸念に応えるためには,自動車用ヘッドアップディスプレイの各設計変数と視覚情報受容の特性との関係を分析・解明し,より良いヒューマンインタフェースを実現する指標を明らかにする必要がある.最初のヘッドアップディスプレイは戦闘機の武器用途として開発された特殊な表示装置であった.その後,航空機用ヘッドアップディスプレイについては,軍事機関や宇宙関連研究所で,パイロットの視覚情報受容特性に関して多くの研究が行われた.これらの研究成果は自動車への応用に関しても有用な知見を含んではいる.しかしながら,前景視対象の種類や配置,前景情報と表示像情報の優先順位,ユーザの操作姿勢や熟練度等,自動車での使用環境は航空機の場合と大きく異なり,航空機用ヘッドアップディスプレイの研究結果を直接自動車に適用するのは甚だ困難である.本研究では,自動車の運転視覚環境を念頭に置きドライバの視覚情報受容と言う観点から,まず,自動車用ヘッドアップディスプレイの利点と問題点を明らかにし,次に,主要な設計変数が視覚情報受容の諸特性にどのように関係しているかを実験・分析し,最後にそれらの諸特性が視覚情報処理と言う観点からどの様なメカニズムで説明されるのかを解明した.この目標を達成するために,本研究ではドライバの視覚情報受容プロセスを,前景情報と表示像の認識の二つのタスクからなるダブルタスクプロセスと見做し,メインタスクである前者の達成度合いがサブタスクである後者の達成度合いによって,どう影響されるかを実験・評価した.前景情報の認識タスクでは,前景視対象の検索,存在の知覚,認識(判読)と言うドライバの一連の視覚情報受容過程を考慮した.評価尺度に相当する表示装置の"良さ"とは,表示像情報の認識が良好に行えるだけではなく,前景認識タスクの達成度が,表示像が存在しなかったときと同程度であることが重要なファクタであることに着目した.本研究での実験は実験室実験と実車走行実験とに分けられる.実験室実験では実験の再現性や解析の容易さを考え,まず,運転走行環境を計測したデータに基づき評価装置を開発し,開発した評価装置を用いて定量的計測実験を行った.実車走行実験では,ヘッドアップディスプレイを搭載した実験車を用いて,官能評価と認識時間計測等を行い,実験室実験の結果を確認・検証した.最後に,自動車用ヘッドアップディスプレイの視覚情報受容の優位性に関する視覚光学モデルを提案しその妥当性を示した.本研究では.以上の研究成果を11章に分けて述べた.第1章から第9章までは,視覚情報受容の観点から自動車用ヘッドアップディスプレイを評価・実験した結果を論じ,得られた知見を述べた.第10章では,若干視点を変え,著者らが1988年に世界初として実用化した自動車用ヘッドアップディスプレイについて述べた.第11章は最終章として全体をまとめると共に今後の課題を概述した.第1章では,本研究の背景と目的,研究の基本的方針について述べた.まず,自動車用表示装置の過去と現在について,ヒューマンインタフェースの観点から振り返えると共に,新しいヒューマンインタフェースである自動車用へッドアップディスプレイへの期待と,これに関する視覚光学の研究の現状について述べた.特に,視覚情報受容と言う観点から,航空機用ヘッドアップディスプレイでの研究成果を振り返り,自動車用ヘッドアップディスプレイとの相違点を分析した.これらの結果を踏まえ,前景認識と表示像認識の二つに着目した本研究の方針を述べた.第2章では,ヘッドアップディスプレイやヘッドダウンディスプレイ(従来メータ)の視覚情報受容の特性を評価するため,通常の自動車走行時の視覚環境を実験室実験で実現するため開発した評価装置について述べる.前景情報と表示像情報の認識タスクの達成度合いを定量的に評価するため,七種類の正答率を定義導入すると共に,実験の精度や評価条件,実験時間設定等についても述べた.評価装置の条件は,第一義的なタスクである前景の認識についてワーストケースを想定した.また,実験室実験の結果を検証するため試作した表示像距離可変機構を有する実車実験用車両についても述べた.第3章では,開発した評価装置を用いて,ヘッドアップディスプレイとヘッドダウンディスプレイとの視覚情報受容特性を比較した.特に,ヘッドアツプディスプレイでは新しい設計変数である表示像距離の長短が前述のタスク達成度にどのような影響があるかを評価した.それぞれの評価実験では,広い自動車ユーザ層の年齢を考慮し,高年齢者層と若年齢者層の二つのグループの被験者を用いることにより,加齢の影響をも考察した.前景情報の認識タスクの達成度では,ヘッドアップディスプレイとヘッドダウンディスプレイは差がないのにも拘わらず,表示像情報認識のタスク達成度ではヘッドアップディスプレイが優れていいることを示した.併せて,ヘッドアップディスプレイでは表示像距離を長くすることが視覚情報受容の特性改善に大きな効果があることも示した.これらの特性は,高年齢者層で顕著であり,自動車用ヘッドアップディスプレイが高年齢層ドライバに有効であることを述べた.第4章では,航空機用ヘッドアップディスプレイでは余り論じらっれなかった表示像の俯角について実験室実験で評価した.表示像情報認識のタスクの達成度合いの俯角依存性が,逆S字特性を示し,俯角の最適領域が有限な数度の範囲で存在することを明らかにした.表示像距離や表示像サイズ,俯角について分散分析を行うことにより,タスク達成度に対する各設計変数の寄与率を算出した.年齢層に拘わらず,表示像距離が最も重要な変数であることや,各変数の交互作用の分析から自動車用ヘッドアップディスプレイの最適設計の指標についても論じた.第5章では,表示像情報の認識中に前景が緊急突発的に変化した場合(マイナプロセス)を想定して,ヘッドアップディスプレイとヘッドダウンディスプレイを比較した.前景が緊急突発的に変化した場合でも,表示像距離が長く,俯角が小さいヘッドアップディスプレイが優位であることを示した.また,マイナプロセスでも,自動車用ヘッドアップディスプレイが高年齢者層ドライバに有効であることを示した.将来の自動車用ヘッドアップディスプレイでは,表示エリアが広くなり,表示像が前景視対象に完全に重畳する場合があると考えられる.第6章では,前景視対象の認識条件で最悪ケースと考えられる表示像が前景視対象に完全に重畳する場合について,前景情報の認識特性を評価した.従来報告されている表示像輝度の影響の他に,表示像の複雑さに関連する充填率が前景情報の認識特性を決定する重要な因子になることを示した.さらに,車両が移動すると表示像が前景視対象に重畳した場合でも,前景情報の認識特性が大幅に改善することを示した.改善の程度は,充填率とTalbot-Plateu則とを用いて近似的に予測できることも論じた.第7章では,ヘッドダウンディスプレイと表示像距離を可変できるヘッドアップディスプレイを搭載した実験車両を用いて,高速路と市街地道路で実車走行実験の結果を述べる.官能評価法により,表示像距離に関する前章までの実験室実験の結果の確認を行う途と共に評価結果を主成分分析した.表示像距離最適化のファクタとして,前景情報と表示像情報の認識に関わるファクタに加えて,車両移動に伴う第三のファクタの存在を示した.また,種々の道路走行条件で表示像情報の認識時間を計測することによりヘッドアップディスプレイが実際の走行でも優位で安全性を向上することを定量的に示した.第8章では,自動車用ヘッドアップディスプレイの視覚情報受容に関する優位性が,従来航空機用ヘッドアップディスプレイの研究で報告されている説明(目の焦点調節量と視線移動量の低減)だけでは不十分であることを述べ,新たな視覚光学モデルを提案した.周辺視による情報受容機能を遮断するとヘッドアップディスプレイでの優位性が著しく低下することや,周辺視の情報受容特性の計測結果から,”周辺視による情報受容機能”に基づく視覚光学モデルを提案した.第9章では,視覚光学モデルをさらに展開し,両眼の被験者で加齢の影響や中心視への注意(アテンション)の強さの影響を評価した.高年齢者層では,中心視での注意(アテンション)の程度により周辺視での情報受容機能が大きく低下することを示し,視力等が若年齢者層と変わらなくても,高年齢者層ドライバで表示像認識特性が低下する原因として考えられ,この低下を補う改善解としてヘッドアップディスプレイが有効であるを論じた.また,表示像の認識特性の倍角依存性(逆S字特性)等の前章までの実験結果を視覚光学モデルを用いて説明した.第10章では,1988年5月に世界で始めて量産車(日産シルビア,88年モデル)に実用化した自動車用ヘッドアップディスプレイについて,開発課題と開発技術を述べた.各構成部品の設計法や物理特性等,自動車に搭載した実際のハードウエア技術にも言及した.第11章は本研究の総括である.第10章までで述べた研究内容をまとめると共に,高速走行での認識特性や表示シンポロジーの最適化を初めとする自動車用ヘッドアップディスプレイの今後の研究課題について概説した.実用化されている自動車用ヘッドアップディスプレイは,まだ"副"表示装置の域を出ていないように見える.しかしながら現状を分析すると,ヘッドアップディスプレイの設計技術にも少しずつ変化が見え始めている.例えば,本研究で論じた最適表示像距離である2.5mや,最適俯角2~3度を有するヘッドアップディスプレイが車載され始めている.ナビゲーション表示等でのヘッドアップディスプレイの応用については,諸官庁大型プロジェすトでも論議が活発化しおり,当に自動車用ヘッドアップディスプレイの揺籃期を迎えている.本研究は,自動車用ヘッドアップディスプレイの視覚光学的研究の端緒と位置付けられる.自動車用ヘッドアップディスプレイの適用・応用領域の拡大・検討が進行する中で,視覚情報受容に関する今後の研究の基礎・基盤的な研究知見として大いに活用・利用されると期待される.名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (論文) 学位授与年月日:平成5年5月14日doctoral thesi
個人の視認能力を考慮した色の三属性の細部識別閾への影響
Since there is much achromatic information in an actual visual environment, the effect of color on visibility must be considered when estimating the visibility of signs, objects, and lighting in the environments. We investigated the relationship between the recognizable threshold of form perception and three color factors (value, hue and chroma) by conducting an experiment using Landolt's eye chart of 14 color conditions under three levels of background luminance. We measured the individual visual acuity of six subjects in two age groups (young and aged). When the test chart contrast was more than 0.5, only the value affected the recognizable threshold of form perception; the chroma and hue had no effect regardless of the background luminance or individual visual acuity. Therefore, two concepts defined in our earlier studies, “visual acuity ratio to the maximum level of individual visual acuity" and “relative acuity incorporating individual visual acuity into the target size", hold if the colored target contrast is 0.5 or higher. The concepts do not hold if the target contrast is less than 0.5 because of the effect of color identification.この論文の著作権は照明学会が有する。journal articl
知識情報作業空間の最適環境制御に関する研究
(1)床吹出を行ったときの温熱環境性能について、一般によく用いられている旋回流型吹出口の特性を軸流型と比較しつつ実験によって検討した。通常採られるような小風量で吹き出した場合には、たとえ旋回流型を用いても若干の温度成層の発生は避けられず、居住者の足熱環境上問題があろうとの見解が導かれた。(2)軸流床吹出口の性能について、吹出口の取付位置を変えた実験を追加し、温度分布,被験者生理心理反応の解析を行った。一連の実験結果から、温度成層やドラフト発生を回避するための軸流吹出口の設計法・運転制御法についてまとめた。(3)制御対象の特性が変化しても制御系としての性能を良好に維持できる適応制御を空調システムの制御系に導入したときの室内環境の制御性について検討した。パラメ-タをどのように設定すれば追随性がよくなるかなどの知見が得られた。(4)空調システムの制御パラメ-タの最適チュ-ニングのために、秒単位の時分割による動的空調システムシミュレ-ションの適用を考え、標準的な空調モデルを設定して感度解析を行った。エネルギ-消費量や環境変動に与える各種制御パラメ-タの影響が把握できた。(5)視環境に関して、被験者実験によりモデリングを評価する指標として従来より利用されてきたベクトル・スカラ-比の再検討を行った。同じベクトル・スカラ-比でも光の照射角度によって立体感,明るさ感,見やすさの評価が異なることがわかった。(6)前年度までに収集したデ-タに基づいて、非常用照明設備の故障率を統計的に求めた。建物規模,竣工年による差が明らかにされた。(7)インテリジェントビルに張リ巡らされた情報ネットワ-クを如何に統合化・標準化していけば、最適な管理を行うことができるかを考察した。また、エキスパ-トシステムを管理システムに組み込むに当たっての課題・問題点を実態調査によって分析し、有効な分野として温熱環境管理に注目して一手法の提案を行った。科学研究費補助金 研究種目:一般研究(A) 課題番号:62420042 研究代表者:中原 信生 研究期間:1987-1990年度research repor
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