Okayama Shoka University Repository

Japanese

岡山商科大学法律研究会

表紙・目次

岡山商科大学修士（法学）2024thesi

光岡,和哉

1  令和 7 年 1 月 14 日 修士論文  所得税法 37 条における必要経費の直接性に関する一考察  岡山商科大学大学院法学研究科 法学専攻  学籍番号  220222111001 氏名   光岡 和哉  【 論 文 要 旨 】  本稿の目的は、所得税法 37 条(所得税法 45 条及び所得税法施行令 96 条を含む)における必要経費について「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」についての判断基準である、直接的業務関連性を明らかにしたうえで、その要否について検討するものである。 必要経費とは、所得を得るために必要な支出であり、所得を稼得するための投下資本の回収部分である。この支出はいわば投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けることに他ならず、事業からの所得に限らず、たとえば譲渡所得の金額の計算においても、投下資本の回収部分は控除されている。これに課税することは、もともとの事業等のため支出した自分の資金にまで課税することになってしまう。そこで、必要経費について、総収入金額から控除されたものが純所得であり、純所得に所得税が課税される仕組みとなっている。 しかし、専ら利潤追求のための事業活動を目的とする法人と異なり、個人は生産活動（所得獲得行為）の主体であると同時に消費経済の主体であり、その支出には所得獲得に関連した「必要経費」の性質をもつものがある一方で、消費支出（「家事費」の支出）の問題がある。これらの境界線には曖昧な部分があり、控除可能な経費（必要経費）と控除不能な支出との区別について、我が国では所得税法 37 条及び所得税法 45 条が規定されており、さらにそれを補完する所得税法施行令 96 条がある。 また、わが国の所得税は、所得を 10 種類に分類する。利子所得、配当所得、不動産2  所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得である。このように所得を源泉により分類したうえ、譲渡所得や一時所得をも課税対象とし、さらにどの所得類型にも属さないものを雑所得として課税することとしており、包括的所得税となる。この包括的所得概念のもとでは、所得金額の算定に当たっては総収入金額から必要経費を控除することが認められている。そのため、所得金額を適正に算出するためには必要経費の金額を明らかにしなければならない。 所得税法 37 条 1 項は「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額・・・の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定されている。そして、通説では、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な支出でなければならず、そして必要性の認定が関係者の主観的判断を基準としてではなく、客観的基準に即してなされなければならないと」解されている。 つまり、必要経費については、必要経費の該当性の有無、必要経費の計上時期から、法文解釈の問題よりはむしろ通説による個別的な事実関係が争点となることも多く、必要経費の要件、判断基準については必ずしも明確なものではないと考えられる。 実際の課税実務では、この通説をもとに、個人事業者の必要経費について①業務と関連性を有するか（業務関連性要件）と②業務遂行上必要なものであるか否か（必要性要件）を要件（二要件）としてきた。特に業務関連性要件について、課税実務では業務との「直接の関連性」を求める見解が多く示されてきた。しかし、この見解は、所得税法 37 条 1項の規定に存在していない。それにもかかわらず、従来からこれらの二要件に加え、「直接の関連性」という規定のない文言を用い、必要経費として納税者の主張が認めてられてこなかったという背景がある。 また、本稿において、必要経費の業務関連性要件において直接性が求められる解釈を検討するにあたっては、以下の問題意識がある。 今日の日本において、キャリアの多様化や柔軟な働き方といった理由から政府が副業を推進し、副業を認める企業が増えている。これにより副業をする個人や個人事業者は、個人的な支出と必要経費との区別や複雑な規定に則った判断を行わなければならない。そうした副業や個人事業者の多様化に伴う経費性の判断基準として、従来から通説とな3  っている二要件説について、納税者と課税庁の間で訴訟が起きている。その結果、二要件説の中でも特に「直接性」の要否について議論されることが増えた。そこで本稿では、①所得税法 37 条の必要経費の要件が争点となったこれまでの判決において、どのような解釈が採られてきたのかを明らかにすること、②所得税法 45 条及び所得税法施行令 96 条の立法趣旨を確認し、これらの趣旨に照らして必要経費の業務関連性要件における「直接性」はどのような意義を有するのかを明らかにすること、③その判断基準はどうあるべきかを明らかにすることを目的とする。 まず第 1 章では所得税法の概略及び必要経費の歴史的遍歴、第 2 章では必要経費と家事費・家事関連費規定について論じる。そして、第３章では、「直接」の関連性が争点となった弁護士懇親会費用判決（東京高裁平成 24 年 9 月 19 日判決）を中心に考察していく。この判決では、「弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから、弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当する」と判示された。従来の学説及び裁判例等で必要経費の算入要件とされてきた業務関連性要件と必要性要件について、業務遂行上の必要性があれば業務関連性は充足され、業務関連性について直接性の判断は不要とする判決が下された。しかし、この判決を受けて所得税法 37 条 1 項に規定されていない「直接性」を不要とする立場と、所得区分との関係や家事費との区分から「直接性」は必要とする立場とが対立する結果となった。両者の意見をそれぞれ論じた後に、第 4 章では「直接性」の要否に関する学説を整理し、必要経費該当性が争われた過去の裁判例及び裁決例の比較を行う。なお、ここでの比較検討は、弁護士懇親会費用事件判決（東京高裁平成 24 年 9 月 19 日判決）以後の比較的新しい高裁判決及び地裁判決の事案を中心に考察していく。ここでは、直接性を合理的と言い換えた判決もあったものの、近年の多くの判決でも依然として「直接性」要件が残っていることが明らかとなった。 以上を踏まえて、第 5 章では、必要経費の業務関連性の要件の問題点を洗い出し、考察を行った。問題点として、業務関連性要件に「直接性」を求める解釈は租税法律主義に反しており、また、立法趣旨の観点からも疑問が残ると考えられる。今後、キャリアの多4  様化や柔軟な働き方により、わが国において副業人口が増加することが推測されるが、いずれの個人業種においても課税の公平性は保つ必要があり、今一度時代に即した法整備をしていかなければならないのではないかと考える。  

所得税法37条における必要経費の直接性に関する一考察

小林,美月

1  2025 年 1 ⽉１4 ⽇ 修⼠論⽂  論⽂題⽬ 相続税と所得税の⼆重課税についての⼀考察  岡⼭商科⼤学⼤学院法学研究科 法学専攻  学籍番号  220231111004 ⽒名    ⼩林 美⽉  【 論 ⽂ 要 旨 】  本稿の⽬的は、相続税と所得税の⼆重課税の問題に焦点をあて、特に相続後に資産を譲渡した場合の課税のあり⽅について検討することである。そのため、本稿では、相続税と所得税との間に⼆重課税が存在するのか否か、存在しないのであれば、調整が必要であるのか否か、どのように調整するのかを検討していく。 我が国における現⾏の課税制度では、被相続⼈が所有していた不動産に被相続⼈に帰属するキャピタル・ゲインが含まれている場合、相続時には、時価に対して相続税が課税される。また、その後、相続により取得した資産に係る譲渡所得に対する課税は、当該資産を譲渡した時点において、所得が実現した被相続⼈に帰属するキャピタル・ゲインと相続⼈に帰属するキャピタル・ゲインの合計額に対して課税されることとなる。その場合、相続税の課税対象となる部分と譲渡所得税の課税対象となる部分に⼆重となる部分が存在する。ここに問題があると考える。本来であれば、相続時点で被相続⼈に所得税が課税され、相続⼈に相続税が課税されるところ、所得税法 60 条１項１号の規定により、相続により取得した不動産の取得価額が、被相続⼈から相続⼈に引き継がれることで、課税が繰延べられるために、相続税と所得税との⼆重の課税が発⽣しているのではないかという疑問は⽣じることになるのである。 しかしながら、所得税法と相続税法の⼆重課税についての従来の取り扱いは、⼀般に資産を相続した際に相続税が課税され、さらに相続⼈がその資産を譲渡すれば被相続⼈の取得価額を基として所得税が課税されることと同じ問題であって、所得税と相続税とは別個2  の体系の税⽬であることから、両者間の⼆重課税の問題は理論的にはないものと考えられてきた。このように考えると、相続⼈が相続時に服した課税は本来、相続⼈本⼈に対する⼀時所得課税であり、相続後の譲渡時に課されるのは、被相続⼈に課されるべきであった譲渡所得課税である。つまり、本来の納税義務者も所得分類も異なるといえる。そうであれば、これは⼆重課税とはいえないとも考えられる。 ところが、⽣保年⾦⼆重課税判決（最三⼩判平成 22 年 7 ⽉ 6 ⽇）は、所得税法 9 条１項１７号の趣旨を「同⼀の経済的価値に対する相続税⼜は贈与税と所得税との⼆重課税を排除したもの」と解釈し、⽀給される年⾦のうち相続税の課税対象となった相続時の時価については相続税が課税され、その後の運⽤益については相続⼈の所得として所得税が課される旨判⽰した。これにより、所得税と相続税の⼆重課税について新たに議論されることとなったのである。当該判決により問題となるのが、定期⾦以外の相続財産である上記のような被相続⼈に帰属するキャピタル・ゲインを含む相続財産についてである。しかしながら、不動産譲渡所得判決（東京⾼判平成 26 年 3 ⽉ 27 ⽇）及びみなし配当課税判決（⼤阪⾼判平成 28年 1 ⽉ 12 ⽇）では、⽣保年⾦⼆重課税判決の射程が及ばないとして、納税者の請求は棄却されている。そのため、どのような場合に⽣保年⾦⼆重課税判決の射程が及ぶかについて整理する必要がある。 また、現⾏制度については上記のとおりであるが、現⾏所得税法 60 条１項の取得費引継ぎ規定により、被相続⼈が負担すべき所得税を相続⼈に引き継がせているものであるため、所得税と相続税の⼆重の負担が⽣じている。そのため、相続財産の譲渡に係る相続税と所得税の調整⽅法についても、検討を⾏う。そこで、諸外国の相続税及び所得税制度との⽐較検討を⾏う必要性がある。アメリカが採⽤している、遺産全体に対して課税する⽅式で、相続⼈が受け取る相続分ではなく、被相続⼈が所有していた遺産の総額を課税対象とする「遺産課税⽅式」、ドイツが採⽤している、各相続⼈が実際に取得した財産の額を課税対象とする「遺産取得課税⽅式」、⽇本が採⽤している両者の折衷⽅式である「法定相続分課税⽅式」の３つ⽅式の利点⽋点を挙げつつ、相続税と所得税との関係も考察し、それを踏まえて今後の調整のあり⽅とその調整⽅法について検討していく。 現⾏法では、相続税と所得税の調整⽅法として租税特別措置法 39 条（以下「措法 39 条」）が存在する。当該規定の適⽤範囲についても検討していく。租法 39 条は、相続による財産の取得をした個⼈で相続税額のある者が、当該相続に係る相続税申告書の提出期限から 3 年以内に、その課税対象となった相続財産を譲渡した場合には、その者に課された3  相続税額のうちその資産に係る部分の⾦額を譲渡資産の取得費に加算することができることを規定している。これは、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に⾏われる場合（特に相続税納付のために譲渡が⾏われる場合）には、相続税と譲渡に係る所得税が相次いで課されることによる負担の調整を図ることを趣旨に創設された。しかし、この規定は譲渡所得の特例であるため事業所得や雑所得に該当する譲渡については適⽤されない。そこで、暗号資産を相続し、その後売却した場合を検討する。現⾏では、暗号資産の譲渡による所得は雑所得に該当するため当該特例の適⽤はなく、暗号資産を相続後に譲渡した場合、相続時の時価に相続税が課税され、その後の譲渡に係る所得税も課税されることとなる。そのため、納税者の税負担が重くなるため、当該特例の適⽤範囲を検討していく必要性がある。  これらの問題点を踏まえて、課題を提⽰し、今後のあり⽅について論じていく。 本稿の構成は、以下のとおりである。 第１章では、相続税制度の設⽴から変遷、課税根拠を確認し、遺産課税⽅式、遺産取得課税⽅式、法定相続分課税⽅式による遺産取得課税⽅式の３つの課税⽅式を概括し、それぞれの利点⽋点を挙げた。そして、遺産課税⽅式を採⽤しているアメリカ、遺産取得課税⽅式を採⽤しているドイツ、相続税制度を廃⽌したカナダの３か国の相続税制度の変遷と、所得税との関係について確認し、我が国の相続税制度と⽐較検討した。また、⼆重課税の意義についても確認し、その後本稿に関連する法規についてそれぞれ概括した。 第２章では、まず相続税と所得税の⼆重課税について重要な判断基準を⽰した⽣保年⾦⼆重課税判決の地裁、⾼裁、最⾼裁の判旨を概観する。続いて、⽣保年⾦⼆重課税判決の射程が問題となったその後の不動産譲渡所得判決及びみなし配当課税判決を取り上げ、それぞれ地裁、⾼裁の判旨を概観し、所得税法 9 条１項 17 号の⾮課税規定の適⽤等について検討した。 第３章では、前章において検討した不動産譲渡所得課税判決及びみなし配当課税判決において、⽣保年⾦⼆重課税判決の射程が及ぶか否かをそれぞれの関係を分析し、明らかにした。 第４章では、⼆重課税が存在しないにしても、相続財産の譲渡に係る相続税と所得税の課税に対する調整が必要であるため、その調整⽅法及び租税特別措置法 39 条の適⽤範囲について検討を⾏った。  

相続税と所得税の二重課税についての一考察

原,拓夢

1   2025 年 1 月 14 日  修士論文  タックス・ヘイブン対策税制の適用範囲について   岡山商科大学大学院法学研究科 法学専攻      学籍番号  220231111003   氏名     原 拓夢  【論 文 要 旨】   本稿の目的は、判例を通してタックス・ヘイブン対策税制（以下、「本税制」という）の問題点を整理し、本税制の今後の在り方を考察することである。  第１章では、本税制の創設趣旨とこれまでの主な改正及び現行の本税制の適用範囲について確認し、本税制の趣旨や目的について検討した。タックス・ヘイブン対策税制とは、外国子会社を利用した租税回避を抑制するために、内国法人によって、原則としてその発行済み株式等の 50％を超える株式等を直接及び間接に保有されている等の一定の条件に該当する外国法人を対象として、租税回避リスクを所得や事業の内容によって把握し、その実質的活動のない事業から得られる所得に相当する金額を日本の親会社の所得とみなして合算し、日本で課税するものである。我が国では、経済の国際化が進む中で、タックス・ヘイブンに設立した子会社等へ所得を留保することによる国際的租税回避が増加したため、その防止及び課税執行の安定性を確保するために本税制が昭和 53 年に創設された。創設当時は、タックス・ヘイブンとされる国又は地域が指定され、そこに設立された法人の株式を直接もしくは間接的に、50％以上保有する我が国の法人に対し、その子会社の留保所得のうち親会社の持分に対応する金額を、親会社の所得に合算して課税するものであったが、諸外国の税制改正のめまぐるしい動きをもれなく適時適切に把握することが困難になってきたため、平成 4 年度税制改正でこの指定を廃止し、個々の外国子会社ご2  とに、その国の法人税率を基準（トリガー税率）として、本税制の対象か否かの判定を行うようになった。そして平成 29 年度税制改正において、外国子会社の租税負担割合により把握する制度（トリガー税率）から、 所得や事業の内容によって把握する制度に改められた。これは、租税負担割合が 20％以上であれば、実体のない 「ペーパー・カンパニー」等であっても、制度が適用されない一方、租税負担割合が 20％未満であれば、実体のある事業を行っている場合であっても、その所得が、親会社の所得に合算されてしまう場合があるといった問題があったためである。 また、本税制が正常な海外活動を阻害しないように、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、それぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると認められる場合には本税制を適用しないという適用除外規定が創設当時から設けられており、①事業基準②実体基準③管理支配基準④所在地国基準又は非関連者基準の 4 要件（適用除外要件）を満たす場合に適用除外となる。適用除外要件についても細かい改正はあるが、大枠は創設時から変わっておらず、現在の経済に即しているのか釈然としない。 第２章では、本税制の問題点を挙げそれに関連する裁判例について考察した。本税制の問題点として２つ挙げており、①本税制はタックス・ヘイブンを利用した租税回避を防止するために創設されたものであるが、租税回避の意図がない場合にも本税制が適用されることがあること及び②適用除外要件の各基準が不明確のため、本税制が適用されるか否か判断が困難である点がある。①について主な例として来料加工がある。来料加工とは、委託加工形態の一つであり、外国企業が中国工場に原材料、部材、補助材料及び製造設備などを提供し、中国工場において外国企業の要求どおりに生産し、製品を引き渡す方式のことをいい、香港子会社と中国企業で来料加工を用いることで租税回避ではない様々なメリットがあり、経済的合理性があるにも関わらず、香港子会社は適用除外要件に該当せず、本税制の適用を受けるとされた。②については、適用除外要件のうち各基準で争いとなった裁判例を３つ考察したが、その他にも数多く裁判例はあり、納税者側と課税庁側で適用除外要件を満たすか否かの判断に齟齬が生じやすいことがわかる。 第３章では本税制の適用について争われた直近の最高裁判決として、みずほ銀行事件（最二判令和５年 11 月６日）及び日産キャプティブ再保険 CFC 課税事件（最一判令和６年７月 18 日）について検討した。みずほ銀行事件では、租税回避を意図がない場合に本税制が適用されるか否か等が争点であり、第一審では、本税制に租税回避の有無等が要3  件として規定されておらず、適用除外要件の各該当性の有無により客観的に判断しなければならないとし、本税制の適用を認めたが、控訴審では、本税制の趣旨に鑑み本税制の適用を否定した。最高裁では、従来の判例の判断枠組みに沿った形で検討がなされ、本税制の適用を認めた。今までの判例では、本税制の立法趣旨の沿革に鑑みて課税要件の明確性や執行面における安定性を「確保しつつ」との表現に留まっていたが、本判決では「確保が重視されており」という表現をしており、これにより、本税制に目的論的解釈を重視することのハードルが高くなったと思われる。日産キャプティブ再保険 CFC 課税事件では、適用除外要件の一つである非関連者基準を満たすか否かが争点であり、租税特別措置法施行令（平成２８年政令第１５９号による改正前のもの。）３９条の１１７第８項５号括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」のうち「保険の目的」とはなにか争われた。第一審から最高裁まで「保険の目的」が異なり、適用除外要件が不明確であることがわかる。本事案は明らかに租税回避の意図があると思われるが、収入の割合によっては、適用除外要件を満たし、本税制が適用されないおそれがあり、その点も本税制の問題点だと考える。  第４章では本税制の問題点を再度考察し、今後の在り方について検討した。第２章で挙げた租税回避の目的がなくタックス・ヘイブンで事業を行うことに経済的合理性があるにも関わらず本税制が適用される恐れがある点、適用除外要件の判定基準が不明確で本税制が適用されるか否かわからない点は、直近の裁判例でも見られ、これは、現行の本税制でも同様の問題が生じる。また、明らかに租税回避の目的がある場合でも本税制を適用されない場合があることも本税制の問題点であると思われる。本税制は、今後、先に述べた問題点を解消するような制度改正が必要となる。租税法および租税特別措置法の規定の解釈は文理解釈が原則ではあるが、租税回避の防止及び租税回避目的のない事案にも適用されるという問題点を対処するには、目的論的解釈を重視する必要があると考える。適用除外要件の明確化については、要件の簡素化が必要であると思われる。また、経済の国際化、デジタル化、複雑化が進んでいるのにも関わらず、現行の適用除外要件の各基準は、細かい改正はあるが、創設時とほぼ変わっておらず、現在の経済に対応できていない可能性があるため、その点も併せて検討が必要であると思われる。  

タックス・ヘイブン対策税制の適用範囲について

比嘉　正

いわゆる給与ファクタリング取引により債権譲渡を受けた事業者による労働者の給与債権に対する支払請求が否定された事例

白井　諭

検察官の行政官的地位と「公益の代表者」の地位ーアメリカ合衆国の「進歩的な検察官（progressive　prosecutor）」をめぐる議論からの一考察ー

岡山商科大学修士（商学）2024thesi

張,玉堂

地域DXの推進による地域マーケティングに関する研究　～日本の事例を中心に～

岡山商科大学修士（経済学）2024thesi

張,彦暉

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