Kyushu University of Health and Welfare Repository

ISSN 1345-5451九州保健福祉大学研究紀要JOURNAL OFKYUSHU UNIVERSITY OF HEALTH AND WELFARENo .24　2023 .３九州保健福祉大学

表紙

倉内 紀子（臨床心理学科）佐々木さはら（スポーツ健康福祉学科）  藤原　幸子（臨床福祉学科） 樋口　博之（作業療法学科）白﨑　哲哉（薬学科）  片本　　宏（動物生命薬科学科） 野村　　創（生命医科学科）吉武　重徳（臨床心理学科）図 書・紀 要 委 員 会図書・紀要委員会委員長図 書 ・ 紀 要 委 員九州保健福祉大学研究紀要目　　　　次第24号　令和５年３月人文・社会科学Ｎ式得手不得手チェックシートの結果を保護者にフィードバックする方法―保育コンサルテーションの視点から 　　　　　　　　　 ･･････････････････････････････････････････････････････････････････････松山光生、首藤郁子、倉内紀子 …  1自然科学宮崎県県北における愛玩動物の重症熱性血小板減少症候群ウイルス (SFTSV) 感染既往の調査  　　　　　　　　　 ･･･････････････････････････････ 梅木一美、紺野克彦、甲斐孝行、山口光昭、森竹孝史、川口亮、　　　　　　　　　 城戸洋、萩尾光美、下島昌幸 …  7HLA-class II 抗体による iPS 細胞技術で確立した樹状細胞 (Mylc-DCs) からのサイトカイン産生増強 　　　　　　　　　 ･･････････････････････････････････････････････････････････････････池脇 信直、アブラハム サミュエル … 13睡眠不足が思考能力と運動に対する主観的運動強度に与える影響 　　　　　　　　　 ････････････････････････････････････････････樋口博之、片伯部光流、右田平八、中田富久、園田徹 … 19音楽のリスニングが中強度の自転車運動にもたらす影響について 　　　　　　　　　 ････････････････････････････････････････････樋口博之、渡邉幸太郎、右田平八、立石修康、園田徹 … 23新型コロナウイルスワクチンの保存温度と有効期間に関する熱力学的考察 　　　　　　　　　 ･･･････････････････････････････････････････････････････････････････････････････････北野天羽、横山祥子 … 27α₁ -酸性糖蛋白質の薬物結合サイトに結合するジソピラミドとリドカインに対する長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の影響 　　　　　　　　　 ････････････････････････････････ 髙村徳人、緒方賢次、石井紗綾、尾﨑峯生、興梠靖幸、徳永仁、　　　　　　　　　 山口裕次、園田純一郎、山﨑哲郎、大崎卓 … 31投稿規程編集後記Kurauchi NorikoSasaki Sahara Fujiwara Sachiko Higuchi HiroyukiShirasaki Tetsuya Katamoto Hiromu Nomura HajimeYoshitake ShigenoriEDITORSEditor in ChiefEditorJOURNAL OFKYUSHU UNIVERSITY OF HEALTH AND WELFARECONTENTSNo. 24 March 2023Humanities and Social ScienceMethod for providing parents and guardians with feedback about N—type strengths and weaknesses sheet：Results from a childcare consultaion pespective　　　　　　　　　　　 ･････････････････････････････････････････････････ Mitsuo Matsuyama, Ikuko Syudo, Noriko Kurauchi  …  1Natural ScienceThe investigation of antibodies to SFTSV in domestic dogs and cats who reside in northern Miyazaki prefecture, Japan　　　　　　　　　　　 ･････Kazumi Umeki, Katsuhiko Konno, Takayuki Kai, Mitsuaki Yamaguchi, Takashi Moritake, 　　　　　　　　　　  　　　　　　　　　Ryou Kawaguchi, Hiroshi Kido, Mitsuyoshi Hagio, Masayuki Shimojima ････7HLA-class II antibody enhances cytokine production in human dendritic cells (Mylc-DCs) established by iPS cell technology　　　　　　　　　　　 ･･････････････････････････････････････････････････････････････ Ikewaki Nobunao, Abraham Samuel JK … 13Influence of sleep shortage on thinking ability and the RPE during incremental exercise　　　　　　　　　　　 ･････････････ Hiroyuki Higuchi, Hikaru Katakabe, Heihachi Migita, Tomihisa Nakada, Touru Sonoda … 19Effects of listening to music during moderate bicycle exercise　　　　　　　　　　　 ･････Hiroyuki Higuchi, Koutaro Watanabe, Heihachi Migita, Nobuyasu Tateishi, Touru Sonoda … 23Thermodynamic Considerations Regarding Storage Temperature and Valid Period for Coronavirus (COVID-19) Vaccine　　　　　　　　　　　 ･･･････････････････････････････････････････････････････････････Amou KITANO,  Shoko YOKOYAMA … 27Effects of long- and medium-chain fatty acids on disopyramide and lidocaine that bind to the drug site of human α₁ -acid glycoprotein　　　　　　　　　　　 ･･Norito Takamura, Kenji Ogata, Saya Ishii*, Mineo Ozaki*, Yasuyuki Kourogi, Jin Tokunaga，Yuji Yamaguchi, Junichiro Sonoda, Tetsuro Yamasaki, Takashi Osaki … 31Contribution RuleEditing Postscript

目　次｢のべおか子どもセンター｣ 21年目の活動報告 …………………………………………… 1　　　山本 順之、 松田 智香子、 井藤 英俊、 正野 知基、 天野 善昭、 二見　豊地域在住高齢者が家庭で実践できる複合的転倒予防策の提案 ………………………… 23　　　正野 知基

43『最新社会福祉学研究』　執筆規程・執筆要領I.執筆規程1.. 投稿者は原則として九州保健福祉大学の通信制社会福祉学研究科の教員，大学院修了生（吉備国際大学含む）及び大学院生とする．これ以外の投稿については編集委員会の決定による..2.. 本誌には，原著論文，事例研究，資料，ショートノート（短報），及び修士論文・博士論文の概要などの欄を設ける..原著論文，事例研究，資料，ショートノート（短報）は原則として自由投稿とし，修士論文・博士論文の概要などは,.編集委員会が執筆依頼を行う．3.. 投稿原稿は，未発表のものに限り,.二重投稿は認めない．もし同じデータ，事例，資料等に基づいて投稿者が執筆した別の論文，報告書等（共同執筆も含む）があれば，投稿時に添付すること．4.. 投稿原稿の掲載の可否は，レフェリーの査読報告に基づいて編集委員会が決定する．5.. 投稿原稿は別に定める執筆要領に従って作成すること．6.. 初稿は，コピーを含め4部編集委員会に提出すること..査読結果に基づき,.投稿者が加筆・修正した改訂稿についてレフェリーの再確認が必要な場合,.投稿者は加筆・修正箇所についての簡潔な説明を添えて,.改訂稿（コピーを含め2部）とともに編集委員会に郵送すること.掲載決定後の確定稿は,.デジタルデータをCD-R等，またはe-mail添付にて編集委員会に提出すること.7.. 投稿原稿の提出期限は，8月31日（水）（必着）とする..8.. 投稿原稿および電子ファイル・電子媒体は,.採否にかかわりなく返却しない.9.. 掲載原稿の執筆者校正は初校までとする..校正時の加筆・修正を含む改訂は認めない.10..原稿料は支給しない..原稿が掲載された者（第一著者）には一編につき別刷りを30部贈呈する．II.執筆要領本誌への投稿原稿は以下の要領で作成すること.1.. 原則としてWORD文書により作成し，縦置きA4判用紙に横書きで,.1ページにつき約1,200字とする.（WORD標準：A4，40字×30行／ページ，余白上35mm・左右下30mm程度，文字サイズ10.5〜11ポイント,.明朝体）2.. 投稿原稿の種類は,.原著論文,.事例研究，資料，ショートノートのいずれかとする....（※それぞれの種類については、別途最終行に説明あり）..3.. 投稿原稿の長さは,.原著論文は20,000字，事例研究と資料は10,000字，ショートノートは4,000字を上限とする..図表は１点につき600字換算とし,.図表込みで字数制限を厳守すること..ただし１頁全体を使用する図表については1,600字に換算する..英文原稿の場合は,.A4用紙にダブルスペース（１枚28行,.１行10〜15単語）で25枚以内（図表を含む）とする.4.. 投稿に際しては，原稿に2枚の表紙をつけ,.3枚目以降の本文にはタイトル（英文タイトル併記）のみを記載し,.投稿者の氏名や所属は記載しないこと.（１）表紙の１枚目には,.①タイトルと英文タイトル,.②原稿の種類,.③著者全員の氏名，所属，修了生は課程と修了年，院生は課程と学年,.第1著者の連絡先（住所，電話番号，ファックス番号，メールアドレス）を記入する.（２）表紙の2枚目（無記名）には，①タイトルと英文タイトル，②原稿の種類,.③和文アブストラクト（400字以内）と英文アブストラクト（200語以内），④キーワード3〜5語と英文キーワード3〜5語を記入する..ただし，ショートノートはアブストラクト不要.執筆規程・編集後記 Instructions for Authors44　　最新社会福祉学研究　第18号　20235.. 文章の形式は,.口語体（である調）,.常用漢字を用いた新仮名づかいを原則とする..6.. 投稿論文の査読は、著者名等を匿名にして行うため,.文献等の表記の際には,.本人の著であっても「筆者」「拙著」等とせず,.筆者名による表記とすること.7.. 投稿原稿に利用したデータや事例等については,.倫理上手続きが必要な原稿はその手続きを経ていることを本文または注に明記すること..8.. 表や図は，表１，図１のように番号をつけ，図表のタイトル・出典とともに，本文中の適切な箇所に挿入する．引用文献は、邦文、欧文を含め、注のあとにまとめてアルファベット順に記載する..著者,.（出版年）,.論文名,.雑誌名,.巻,.号,.頁の順に書く.注は文中の該当箇所に（1）、（2）・・・と表記し、論文原稿末尾にまとめて記載すること.引用文献や注などの記述形式の詳細については,.「日本社会福祉学会機関誌『社会福祉学』執筆要領〔引用法〕」による..https://www.jssw.jp/wp-content/uploads/write_quotation.pdf参照.※投稿原稿の種類について：原著論文とは，独創性に富む研究で，それ自体独立して学術的な価値のある論考,検証,結論,知見を含むもの．事例研究とは，具体的な事例についての調査から得られたな実践的な知見や考察をまとめたもの．資料とは，独立した結論には至らないものの，価値ある新しい事実を含む内容を記述しているもの．ショートノート（短報）とは，原著論文として完結するまでには至っていないが，斬新な研究の視座、問題提起、あるいは研究手法等を提示するもの．45編集規定1..（名称）本誌は、順正学園の学術論論文誌『最新社会福祉学研究』、英文名称は“Progress. in.Social.Welfare.Research”とする。2..（目的）本誌は、原則として九州保健福祉大学の通信制社会福祉学研究科の教員、大学院修了生（吉備国際大学含む）及び大学院生の社会福祉研究成果の発表にあてる。3..（発行）本誌は、原則として1年1巻とし、年に1回発行するものとする。4..（編集）編集は、本誌編集委員会（以下「委員会」）が行う。5..（委員会の役割）原稿の掲載は、委員会の決定による。6..（執筆要領）原稿は、所定の執筆規定・要領に従う。7..（著作権）本誌に掲載された著作物の著作権は順正学園に所属する。ただし、著者自身が使用する場合は、この限りではない。8..（事務局）編集事務局は、九州保健福祉大学大学院（通信制）社会福祉学研究科に置く。付則1.. この規定は2009年4月1日より施行する。2.. この規程は2010年4月1日より施行する。3.. この規程は2020年4月1日より施行する。4.. .この規程は2022年4月1日より施行する。

執筆規程・執筆要領

髙村 徳人

緒方 賢次

石井 紗綾

尾﨑 峯生

興梠 靖幸

徳永 仁

山口 裕次

園田 純一郎

山﨑 哲郎

大崎 卓

α₁-酸性糖蛋白質の薬物結合サイトに結合するジソピラミドとリドカインに対する長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の影響

正野 知基

地域在住高齢者が家庭で実践できる複合的転倒予防策の提案 QOL研究機構 社会福祉学研究所長 正野知基  Ⅰ．はじめに 令和 4年 12月 17日（土）に本学の F講義棟にて，「ロコモティブシンドロームの予防・改善を目指して」をテーマとしてQOL研究機構シンポジウムが開催された．その中で，社会福祉学研究所の取り組みの一つとして，本学大学院社会福祉学研究科博士後期課程の大学院生と行った研究を紹介したので，その概要を報告する．  Ⅱ．発表の概要   - 23 -地域在住高齢者を対象の運動教室などで運動指導が行われ，転倒予防効果が報告されています．しかし，教室終了 1年後には約６割が運動を中断しています．老化は運動などの介入がなければ進行する衰退現象であり，運動を継続することは，その人らしく生きがいをもって高齢期を過ごす・QOLの向上のための一助となると考えられます．      日常の生活活動に簡易に取り組める転倒予防策を考案するにあたっての基礎的資料を得るため，3つの介入研究を実施しました．研究Ⅰでは，椅子に座っての日常的な活動の際に，足趾（足の指）の筋力トレーニングを取り入れ，足趾や扁平足（足の裏）の接地状態への影研究Ⅰ日常の生活活動に簡易に取り組める転倒予防策を考案するにあたっての基礎的資料を得るため，3つの介入研究を実施し，転倒予防効果が得られるか検証した研究Ⅱ 研究Ⅲ- 24 -地域在住高齢者を対象の運動教室などで運動指導が行われ，転倒予防効果が報告されています．しかし，教室終了 1年後には約６割が運動を中断しています．老化は運動などの介入がなければ進行する衰退現象であり，運動を継続することは，その人らしく生きがいをもって高齢期を過ごす・QOLの向上のための一助となると考えられます．      日常の生活活動に簡易に取り組める転倒予防策を考案するにあたっての基礎的資料を得るため，3つの介入研究を実施しました．研究Ⅰでは，椅子に座っての日常的な活動の際に，足趾（足の指）の筋力トレーニングを取り入れ，足趾や扁平足（足の裏）の接地状態への影研究Ⅰ日常の生活活動に簡易に取り組める転倒予防策を考案するにあたっての基礎的資料を得るため，3つの介入研究を実施し，転倒予防効果が得られるか検証した研究Ⅱ 研究Ⅲ響や転倒予防効果について検証しました．研究Ⅱでは，居室から玄関先など，日常的な動線上に 3 つの色分けした標的を踏み進める歩行課題を設定し，主課題の歩行と第２課題の注意課題への注意分配機能への影響と転倒予防効果について検証しました．研究Ⅲでは，日常生活の中で 1kg程度のウェイトジャケットを 10分から 20分程度装着し，その転倒予防効果について検証しました． 転倒はつまずきや接触など，外界から力が加わるとき，姿勢制御が素早く適切に応答されないときなどに起こることが多いと報告されています．多くの高齢者は，姿勢制御が乱れたときに，不適切な応答をすることで転倒を引き起こしています．適切な姿勢制御は身体を安定した位置へ戻すために，重心の乱れを素早く感知し，その情報を適切に整理・統合して，適切な動作につなげることで得られます．この経過が素早く適切に行われなくては，バランスを崩して転倒する危険があります．バランスを適切に保つためには，視覚や前庭感覚，体性感覚，運動系の連携した取り組みが不可欠で，これらのいずれかに問題が生じてもバランスを崩す恐れがあります．したがって，研究Ⅰでは「足趾など接地状態を改善し，足部の体性感覚入力の向上を図る」，研究Ⅲでは「重錘負荷による体幹の固有受容器の感度を高める」，研究Ⅱでは「感覚系から得られた情報を適切に処理する認知情報処理能力の賦活化を図る」ことに着目した介入を行いました．このように、単独の転倒要因に着目するのではなく，足趾など体性感覚や体幹の固有感覚の感度向上を図ったり，それら感覚系から得た情報を適切に処理する認知情報処理能力の賦活化を促進したりなどの，複数の転倒要因をとらえた複合的な転倒予防策が必要になると考え、一連の研究を実施しました．    研究Ⅰについてです．足底部において姿勢制御の重要な役割の 1 つに足趾があります．足趾は，歩行運動の推進力となったり，床面の状況や足先などの身体位置の感覚情報を中枢- 25 -へ発信する働きや，床面を把持（グリップ）して姿勢調整をしたりします．足趾による，これら姿勢制御能は，加齢変化により，感覚神経の伝達速度の低下，体性感覚の感度の低下等が生じることで困難なものになります．したがって，足趾や足底部の触覚の感受性を最大限に高められるように，床面と足部の接地状態の改善が必要となります．この接地状態の改善にかかわっている筋力を足趾把持筋力と言います．   しかし，この足趾把持力が低い者に浮き趾がみられています．浮き趾により足趾の荷重量が低下すると，足趾における感覚情報入力が低下し，不正確な運動を調整する機能が低下してしまいます．したがって，足趾の接地状態改善による体性感覚入力の改善を図ることは，転倒予防として重要になります．  - 26 -へ発信する働きや，床面を把持（グリップ）して姿勢調整をしたりします．足趾による，これら姿勢制御能は，加齢変化により，感覚神経の伝達速度の低下，体性感覚の感度の低下等が生じることで困難なものになります．したがって，足趾や足底部の触覚の感受性を最大限に高められるように，床面と足部の接地状態の改善が必要となります．この接地状態の改善にかかわっている筋力を足趾把持筋力と言います．   しかし，この足趾把持力が低い者に浮き趾がみられています．浮き趾により足趾の荷重量が低下すると，足趾における感覚情報入力が低下し，不正確な運動を調整する機能が低下してしまいます．したがって，足趾の接地状態改善による体性感覚入力の改善を図ることは，転倒予防として重要になります．  高齢者にみられる扁平足は，加齢による腱の変性や体重などの負荷，不活発な生活による筋力低下等によって，アーチ（土踏まず）がなくなった状態です．この状態になると，下肢の運動連鎖から膝関節に捻れが生じるなどし，関節の変形や痛みなどにつながったり，下腿からの筋力が足部に十分に伝わらなかったり，股関節伸展や体幹の回旋などが減少して，不安定な歩行状態を引き起こしてしまいます．一方，土踏まずが形成されている足部は，体重を効率よく支持できて姿勢が保てたり，下肢全体の関節に捻れなどが生じることなく，前方への推進力を生み出すなど安定した歩行ができます．     地域在住高齢者 142名を浮き趾群と接地群に分類し，さらに両群を運動群とコントロー- 27 -ル群に分類しました．無負荷でタオルギャザー体操を実施し，介入は 1年間行いました．   結果と考察です．椅子坐位での生活活動時に付帯的にタオルギャザー体操に取り組むだけでも，足趾の接地状態が有意に改善され，バランス制御能の向上が示唆されました．接地群の運動群のみ，偏平足の該当者が有意に減少し，また介入 1 年後の転倒件数も有意に減少したことから，土踏まずの構造が改善し歩行の制動性が高まったことが推察されました．   研究Ⅱについてです．「寝室からトイレまでの移動」，「居間から玄関までの移動」などの日常生活動線上に３つの色分けしたマーキングを床面に施し，二重課題条件下のトレーニングの場を提供することで，特別にトレーニングのための場所やスケジュールを準備する椅子坐位での生活活動時に付帯的にタオルギャザー体操に取り組むだけでも，足趾の接地状態が有意に改善され，前方動的姿勢制御や支持基底面の形成，体性感覚入力の働きが促され，バランス制御能の向上が示唆された接地群の運動群のみ，偏平足の該当者が有意に減少し，また介入1年後の転倒件数も有意に減少したことから，土踏まずの構造が改善し歩行の制動性が高まったことが推察された【結果と考察】- 28 -ル群に分類しました．無負荷でタオルギャザー体操を実施し，介入は 1年間行いました．   結果と考察です．椅子坐位での生活活動時に付帯的にタオルギャザー体操に取り組むだけでも，足趾の接地状態が有意に改善され，バランス制御能の向上が示唆されました．接地群の運動群のみ，偏平足の該当者が有意に減少し，また介入 1 年後の転倒件数も有意に減少したことから，土踏まずの構造が改善し歩行の制動性が高まったことが推察されました．   研究Ⅱについてです．「寝室からトイレまでの移動」，「居間から玄関までの移動」などの日常生活動線上に３つの色分けしたマーキングを床面に施し，二重課題条件下のトレーニングの場を提供することで，特別にトレーニングのための場所やスケジュールを準備する椅子坐位での生活活動時に付帯的にタオルギャザー体操に取り組むだけでも，足趾の接地状態が有意に改善され，前方動的姿勢制御や支持基底面の形成，体性感覚入力の働きが促され，バランス制御能の向上が示唆された接地群の運動群のみ，偏平足の該当者が有意に減少し，また介入1年後の転倒件数も有意に減少したことから，土踏まずの構造が改善し歩行の制動性が高まったことが推察された【結果と考察】ことなく，日常生活の中で継続的に床マーキングトレーニングが実施できます．そこで，日常生活の動線上で実施する床マーキングトレーニングによって，転倒予防効果が得られるかについて検証しました．     対象は，地域在住高齢者 118名であり，床マーキング群 59名，コントロール群 59名としました．調査員が床マーキング群の自宅を訪問し，「寝室からトイレまでの移動」など日常生活動線上の床面にビニールテープによるマーキングを設置しましました．床マーキング群には，トレーニング時間や頻度は指定せず，床マーキングを施したエリアを通過する際に実施することを説明し、1年間実施しました． 対象・要介護認定非該当の健常者・杖など補助具を要せず，歩行が自立・地域在住高齢者118名（77.2±6.45歳，男性32名，女性86名）を床マーキング群59名とコントロール群59名に分類方法・日常生活動線上の床面にビニールテープでマーキングし，二重課題歩行のエリアを設置・床マーキング群には，トレーニング時間や頻度は指定せず，床マーキングを設置したエリアを通過する際に実施することを説明- 29 -    床マーキング群において，注意機能テストである TMT-Aの回答時間の短縮や，認知機能検査MMSEの向上，二重課題条件下歩行と自由歩行の時間差の短縮，転倒件数の減少が認められました．以上のことから，床マーキングトレーニングによって，課題遂行のために認知情報処理が賦活化され，効果的な姿勢制御能や歩行運動時の適切な修正動作などが獲得されたと推察されました．床マーキングトレーニングを自宅の日常生活動線上に施し，このエリアを通過する際に付帯的に取り組むだけでも，注意機能の向上や転倒予防効果が示唆されました．この介入では，トレーニングのためのスペースや時間を確保する必要もなく，簡易に日常生活に取り入れることができます．認知的な刺激の少ない生活になりがちな高- 30 -    床マーキング群において，注意機能テストである TMT-Aの回答時間の短縮や，認知機能検査MMSEの向上，二重課題条件下歩行と自由歩行の時間差の短縮，転倒件数の減少が認められました．以上のことから，床マーキングトレーニングによって，課題遂行のために認知情報処理が賦活化され，効果的な姿勢制御能や歩行運動時の適切な修正動作などが獲得されたと推察されました．床マーキングトレーニングを自宅の日常生活動線上に施し，このエリアを通過する際に付帯的に取り組むだけでも，注意機能の向上や転倒予防効果が示唆されました．この介入では，トレーニングのためのスペースや時間を確保する必要もなく，簡易に日常生活に取り入れることができます．認知的な刺激の少ない生活になりがちな高齢者にとっても，前頭前野の補償的な活動を促し，認知情報処理能力の維持向上から転倒予防につながるものと期待できます．    研究Ⅲについてです．日常生活の中で重錘負荷を活用することによる転倒予防効果について検証しました．対象は，地域在住高齢者 108名であり，介入群 55名，コントロール群53名としました．介入群には，立位および歩行活動の際に 10分から 20分程度ウェイトジャケットを装着してもらうことを説明しました．重錘負荷法による負荷量については，体重の 5％から 15％という報告もありますが，確立されていません．重錘負荷による椎間関節への強すぎる刺激は腰痛などの痛みに移行可能性があるため，先行研究の負荷量を参考に1,000g程度の重錘負荷とし，1年間実施しました． - 31 -  重錘負荷での介入群のみ，転倒予防効果がみとめられました．以上のことから，重錘負荷による刺激が，腰部椎間関節の固有受容器やその周辺の筋や腱にある固有受容器に機械的刺激を与えることで，固有受容器の感度が向上して脊髄や小脳などへの求心性の情報入力が活性化し，バランス制御能力が向上したのではないかと推察されました．    地域在住高齢者の日常的な活動において，立位動作や屋内歩行をする機会が多く，掃除機かけやテーブル拭き，食器洗いなどの日常的な活動は，各家庭の身体活動量の違いによって差異はないとも言われています．したがって，立位および歩行活動時に重錘負荷を与えて転- 32 -  重錘負荷での介入群のみ，転倒予防効果がみとめられました．以上のことから，重錘負荷による刺激が，腰部椎間関節の固有受容器やその周辺の筋や腱にある固有受容器に機械的刺激を与えることで，固有受容器の感度が向上して脊髄や小脳などへの求心性の情報入力が活性化し，バランス制御能力が向上したのではないかと推察されました．    地域在住高齢者の日常的な活動において，立位動作や屋内歩行をする機会が多く，掃除機かけやテーブル拭き，食器洗いなどの日常的な活動は，各家庭の身体活動量の違いによって差異はないとも言われています．したがって，立位および歩行活動時に重錘負荷を与えて転倒予防を図る取り組みは，元気高齢者や虚弱高齢者など身体的虚弱の程度の違いに関わらず，簡易に取り組めて，汎用性の高い転倒予防策であると考えられます．この簡易で，誰にでも取り組める転倒予防策は，早期からの介護予防につながり，これまでの生活の質を保つためにも役立ち，高齢者のQOL向上への貢献が期待できます．    運動効果が明らかにされているものの中から，日常の生活活動に付帯的に取り入れられる方法を用いた介入によって転倒予防効果を認めました．このような個人のライフスタイルに大きく干渉しない運動方法であれば、家庭で継続的に実施可能な転倒予防策として，高齢者がその人らしく生きがいのある生活を送るため（QOLの向上）の一助となることが期待できます．  Ⅲ．引用文献  小橋拓真・正野知基（2018）「高齢者の転倒予防のための家庭でできる二重課題歩行によるアプローチ－床マーキングトレーニングによる認知情報処理能力賦活と転倒予防効果の関連からの考察－ 」『ウォーキング研究』22，35-40． 小橋拓真・正野知基（2019）「地域在住高齢者が自宅で取り組める足部の形態改善と転倒予防を目指した運動介入－足趾把持筋力トレーニングによる足趾・扁平足の接地状態の改善と転倒予防効果の関連からの考察－」『最新社会福祉学研究』14，57-69． 小橋拓真・正野知基（2019）「高齢者の転倒予防のための家庭でできる重錘負荷によるアプローチ－立位や歩行活動時に重錘負荷による固有受容器の賦活化と転倒予防効果の関連からの考察－」『ウォーキング研究』23，25-32． - 33 -角田憲治・辻大士・尹智暎・ほか（2010）「地域在住高齢者の余暇活動量，家庭内活動量，仕事関連活動量と身体機能との関連性」『日本老年医学会雑誌』47（6），592-600． 池内秀隆・大平高正・伊藤忠・ほか（2004）「人の歩行開始時の床反力作用点逆変動と足指機能の関係」『ライフサポート』16，325-326． 鳩野洋子（2000）「「閉じこもり」に関する研究の状況 海外の Housebound の定義・出現率を中心に」『保健婦雑誌』56（1），28-33． - 34 -

地域在住高齢者が家庭で実践できる複合的転倒予防策の提案

はじめに  2022（令和 4）年度の QOL 研究機構 社会福祉学研究所 研究・活動報告書をお届けいたします。本研究所では毎年研究・活動助成を行い、その成果を研究・活動報告書としてまとめています。2020（令和 2）年度からの活動は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大きな制約がかかり、3 年目となる本年度も引き続き研究・活動に大きな制約がかかりました。しかし、国や地域により徐々に規制は緩和されつつあり、日本においてもコロナ禍前の日常を取り戻していく方向となっています。今回報告されている「のべおか子どもセンター」の活動も感染予防対策を取りながら、対面での活動を再開しています。また、社会福祉学研究所が属する本学 QOL 研究機構のシンポジウムも対面にて開催されました。 『「のべおか子どもセンター」21 年目の活動報告』では、21 年目を迎えた延岡市教育委員会（社会教育課）との連携事業である「のべおか子どもセンター」の本年度の取り組みと活動が報告されています。親子体験活動は全 回企画し、悪天候による 回の中止以外の回実施することができ、参加者から喜びの声を多くいただきました。子育て講話は、 回の配信に加えて対面で 回実施することができ、令和 年 月 日の 周年記念式典も対面で開催することができました。『地域在住高齢者が家庭で実践できる複合的転倒予防策の提案』は、令和 年 月 日に「ロコモティブシンドロームの予防・改善を目指して」をテーマとして開催された 研究機構シンポジウムの中で紹介した研究の概要です。 本研究所の研究・活動および本報告書の内容が、より良い地域社会を構築するための一助となりますことを願っております。  令和 5 年 3 月  九 州 保 健 福 祉 大 学 QOL 研究機構 社会福祉学研究所 所 長 正 野 知 基 

はじめに

39九州保健福祉大学大学院（通信制）社会福祉学研究科博士（後期）課程　博士論文概要2022年度修了生博士論文の概要　　　介護を必要とする高齢者を対象とした生きがい就業支援の在り方～通所介護事業所をフィールドとした質的研究～D311901　永井　邦明キーワード：生きがい就業，介護が必要な高齢者， 通所介護事業所，質的研究１．研究の背景と目的近年，働きたいと思う介護保険サービス利用者が通所介護事業所などにおいて，地域の企業から請け負った仕事をしたり，商品を製作・販売しながら金銭的対価を得るといった生きがい就業の取り組みが注目されている．しかし，実際に利用者の生きがい就業を支援できる事業所は全国的に見てもほとんど見当たらず，介護の必要な高齢者が現実的に利用可能な選択肢とはなっていない．現場の実務家が，このような先進的な支援の導入を検討するためには，まず生きがい就業の支援を行う意義とその具体的な方法について理解する機会が必要と考えられる．本博士論文では介護を要する高齢者，特に通所介護利用者に焦点を当て，①生きがい就業支援を行う意義，②生きがい就業における金銭的対価の意義，③生きがい就業支援を行う具体的な方法を明らかにした．２．研究方法①生きがい就業支援を行う意義の調査では，通所介護事業所において生きがい就業支援の導入を決定した所長を研究対象とした．対象者にインタビューを行い，具体的にどのような経験を経て，利用者の生きがい就業に対する支援が必要と思うに至ったのかを対象者の経験を重視したライフストーリーという観点から明らかにした．構築されたライフストーリーを基に生きがい就業支援を行う意義について検討した．②生きがい就業における金銭的対価の意義についての調査では，通所介護事業所における生きがい就業支援の現場を対象としたマイクロ・エスノグラフィーの手法を用いた．そして，生きがい就業における金銭的対価が，通所介護事業所に通う介護保険サービス利用者の生きがい感にどのように寄与しているかを明らかにした．③生きがい就業支援を行う具体的な方法についての調査では，通所介護事業所における生きがい就業支援の現場を対象としたマイクロ・エスノグラフィーの手法を用いた．そして，通所介護事業所における生きがい就業支援が，具体的にどのように成り立っているのかを明らかにした．３．研究結果と結論①生きがい就業支援を行う意義の調査では，生きがい就業支援を導入した通所介護事業所の所長が，支援を導入するに至るまでの背景には，【働き，金銭的対価を得ることで生き生きする利用者との出会い】【幼稚園で行うような活動への反発】【利用者の活動が他者や社会から認められることを目指した試行錯誤】【市場のニーズに合う商品やサービスの提供に，働くことを通して関わる大切さへの気づき】という経験があることが分かった．語りの中で，「介護を受けるものが働くことを希望する場面における見えにくい主体性の否定」という介護現場の抱える課題が明らかとなった．利用者の生きがい就業を支援することには，この見えにくい主体性の否定によって，望む活動を行う機会を得ることが困難な利用者を支援するという意味があることが示唆された．②生きがい就業における金銭的対価の意義についての調査では，金銭的対価が，【対象となる活動を「仕事」であると認識する】【自信と責任を持って活動を行う】【良いストレスを得る】【主体的な試行錯誤によって得た知識や技術を継承する】【生活行為の範囲を拡大する】【自己の行った活動を振り返り，成果を認識する】【社会からの注目を受けて，社会性を発揮する】という現象を誘発し，生きがい感に肯定的な影響を与えていることが示唆された．③生きがい就業支援を行う具体的な方法についての調査では，通所介護事業所の内部では，利用者及び職員の【生きがい就業に対する理解の促進】や【利用者が活躍できる環境を整える】【ボランティアが活躍できる環境を整える】ことが生きがい就業の成立に重要な役割を果たしていることが示唆された．また，事業所と外部の連携にあたっては，【近しい地域ネットワークの活用】と【コンサルティングの活用】という手段を用いて潜在的な協力企業を探索し，各ステークホルダーと連携しながら【商品開発に当たっての工夫】を行うことで支援体制の構築を進めていることが明らかとなった．通所介護事業所において生きがい就業の支援を試みる場合は，これらの点を考慮し，地域の資源を活用した継続可能な生きがい就業の場を創り出すことが必要になる．４．公表論文（本博士論文中で一部加筆修正を行った）1）永井邦明・川﨑一平・原田瞬・佐川佳南枝・森本誠司・小川敬之・田端重樹・小川芳徳（2022）「介護保険サービス利用者の生きがい就業を支援する意義――通所介護事業所の所長が支援を始めるまでのライフストーリーの分析から」『労働科学』98(1)，25-35．2）永井邦明・川﨑一平・原田瞬・佐川佳南枝・森本誠司・小川敬之・小川芳徳（2021）「介護保険サービス利用者の生きがい就業における金銭的対価の意義」『労働科学』97(1)，1-13．3）永井邦明・川﨑一平・原田瞬・佐川佳南枝・森本誠司・小川敬之・小川芳徳（2022）「通所介護事業所における生きがい就業支援の実態――具体的な支援の方法に焦点を当てて」『労働科学』97(2)，48-62．

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目次

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執筆規程・執筆要領

α₁-酸性糖蛋白質の薬物結合サイトに結合するジソピラミドとリドカインに対する長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の影響

地域在住高齢者が家庭で実践できる複合的転倒予防策の提案

はじめに

博士論文の概要

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