University of Kochi Repository for Academic Resources / 高知県立大学学術情報リポジトリ

井上,次夫

Japanese

多様なグループ発表形態による対話的授業

高知県立大学博士（看護学）令和6年度（2024年度）doctoral thesi

加藤, 昭尚

KATO, Akinari

氏 名 学 位 の 種 類 報 告 番 号 学 位 記 番 号 学位授与年月日 学位授与の要件 論 文 題 目  論 文 審 査 委 員    加藤 昭尚 博士(看護学) 甲第 122号 看博第 56号 令和 7年 3月 21日 学位規則第 4条第 1項該当 手術室看護師のやりがいに関する研究 A Study on “YARIGAI” of Operating Room Nurses 主査 教授  長戸 和子  (高知県立大学) 副査 教授 久保田 聰美 (高知県立大学) 教授 畦地 博子  (高知県立大学) 教授 木下 真里  (高知県立大学)  論文内容の要旨 【背景】 近年、仕事の意味（meaning of work）、あるいは意味ある仕事（meaningful work）に関する研究が増加しており、意味のある仕事に従事しているという認知や感情が、さまざまな個人的、社会的、組織的な利益とポジティブに関連することが示唆されてきている。これらの概念は、日本語では「働きがい」や「やりがい」と表現される。すなわち、看護師においても、やりがいをもって働くことが看護師としての成長や看護の質の向上に寄与すると考えられる。しかし、手術看護は、患者からのフィードバックが得られにくく、やりがいを感じにくいという特徴がある。 【目的】 手術室看護師のやりがいとやりがいの影響要因、および、それらの関係性を明らかにし、その結果を踏まえて、手術室看護師のやりがいを高める取り組みへの示唆を得る。 【研究方法】 本研究は、質問紙による量的研究である。文献検討および A 県の一般病床 300 床以上の病院に勤務する手術室看護師 6 名を対象とした面接調査に基づき作成した自記式質問紙を用いて調査を行った。質問紙は、手術室看護師のやりがいに関する質問 18項目、フェースシートと影響要因に関する質問 30項目からなり、5段階の評定尺度（－2～2）と選択肢で回答を求めた。質問紙調査は、全国の一般病床 300 床以上の病院から地域ごとに無作為に抽出した病院 75施設に在職している手術室看護師を対象とした。 【結果】 承諾が得られた 50施設に質問紙を 899部配布し、368 部回収（回収率 40.9％）、有効回答は 318部（86.4％）であった。手術室看護師のやりがいについては、相関関係の強かった2 項目を削除した 16 項目で因子分析を行った結果、手術室看護師のやりがいは、＜周囲の期待に応えた専門性の発揮＞＜手術室看護師として感じる誇りと貢献＞＜患者からの期待と感謝＞の 3 因子から構成されることが明らかになった。手術室看護師のやりがいに影響する内的要因は、手術室経験年数や勤務体制、性別であり、外的要因は、20項目中 11項目がやりがいに影響していた。特に、外的要因の「私は、医師と良好な関係である」、「私は、師長から仕事を任されている」、「多職種と連携が取れている」、「手術室看護師は、手術を受ける患者の家族から期待されている」、「病院の方針に共感（納得）している」は、多くのやりがい項目に影響していた。 【考察および結論】 手術室看護師のやりがいを高めるために、組織の方向性に共感する看護師を採用できるような採用基準を定めること、スタッフの能力や関心にあわせた業務分担をすること、副師長（主任など）がスタッフのロールモデルとして看護実践を見せること、患者とのかかわりを増やすことなど看護管理実践における示唆が得られた。また、看護管理者は、機会があるたびに病院や看護部の方針と日々の業務を関連付けてスタッフに浸透するよう働きかけることで手術室看護師のやりがいの向上を図ることができると考えられた。   審査結果の要旨 社会情勢の変化に伴い、人々の職業選択や就業継続に対する価値観も大きく変容し、仕事にやりがいを感じられることを重要視する若者が多くなっている。やりがいをもつことは、働く人、雇用する側双方にメリットがあると言われており、看護職においてもその重要性が示唆されている。看護職は、人々の健康の回復や維持・増進にかかわるという業務を通して、喜びや自己肯定感、社会貢献への実感を得ることができ、これらがやりがいとなっている。特に、患者の人生に関与することの意味、患者の回復を実感することや患者・家族とのかかわりを通して得られる学びなど、患者・家族との直接的なかかわりが看護師のやりがいとして挙げられることも多い。しかし、手術看護においては、患者と直接かかわる時間が少ないことから、やりがいを感じにくく、そのことを手術室に看護師が定着しない理由のひとつとする報告もみられる。加藤氏は、自身の手術室看護師としての経験から手術室看護師のやりがいに着目し、本研究に取り組んだ。本研究は、手術室看護師のやりがいとその影響要因を明らかにし、その結果より、看護管理学の立場から、手術室看護師のやりがいを高め、手術看護の質の向上を図るとともに、看護師がやりがいをもって働き続けられる職場づくりにつながる取り組みへの示唆を得ることを目的とした量的記述的研究である。 手術室看護師のやりがいについては、十分に明らかにされていないことから、データ収集に用いる質問紙作成の過程を丁寧かつ慎重に進めている。まず、「やりがい」について、看護学のみならず、社会学、介護学、保育・児童学、心理学、薬学など、様々な分野の先行研究の検討、及び類似概念との比較検討に基づき、本研究における「やりがい」の定義とその構成要素を明確にした。影響要因については、ハーズバーグの二要因理論に基づいて中西が示した看護職における動機要因と環境要因を参考に、そこに示されている各要因と手術看護実践との比較検討を行い、手術室看護師のやりがいに影響する内的要因と外的要因を抽出し、研究の枠組みを作成した。さらに、この枠組みの妥当性を検証するために、手術室看護の経験年数の異なる看護師計６名を対象とした面接調査を行い、その結果に基づいて枠組みを修正し、質問紙を作成、10名の手術室看護師によるプレテストを実施し質問項目の洗練化を経て全国の病院に勤務する手術室看護師を対象として本調査を実施した。 得られたデータの統計的な検討の結果、手術室看護師のやりがいとして、３つの因子を明らかにした。うち２つの因子は、手術室看護師が他の専門職からの期待に応え、手術室看護師としての専門性を発揮する実践に関わる内容、安全な手術の進行に貢献することによって手術室看護師としての誇りや社会への貢献を感じている内容であり、手術室看護師特有のやりがいであると考えられた。１つの因子は、患者からの感謝や期待、患者への直接ケアといった患者との直接的な関わりに関する内容であり、一般病棟の看護師とも共通するやりがいであった。手術看護特有の役割遂行を通して患者の健康回復に貢献するという専門性の発揮が手術室看護師のやりがいの主要な要素として示されたことは、本研究のユニークな点であると考える。また、手術室経験年数が長いほどやりがいが高い傾向があり、専門的技術の活用や予測性をもった実践、医師や他の看護師との連携や承認など、いずれも手術看護実践能力の高さを反映した項目において有意差がみられた。これらの結果をふまえ、手術室看護師のやりがいを高めるための看護管理実践への示唆を示している。 以上のことから、本審査委員会は、本論文は、研究への着実な取り組みがなされ、緻密なデータ分析、研究成果の独創性、論理的な論証による考察、研究成果の有用性と、看護管理実践の発展に寄与する学術的価値があり、博士（看護学）の学位授与に値する研究成果であることを認めた。今後は、手術室看護師のやりがいの概念的な洗練化、看護管理実践への具体的な適用など、本研究の結果をさらに発展させていくことを期待している。  

A study on “YARIGAI” of operating room nurses

井上, 次夫

Tsugio, Inoue

Verbal expression skills of teachers in synchronous-type online classes (2):  Analysis of speech by student teachers

梶原, 太一

A Questionnaire Survey on Paperless Education at University of Kochi

高知県立大学紀要 社会福祉学部編 表紙

FUKUMA, Takayasu

福間, 隆康

English

自己効力感, LMX, 職務特性がプロアクティブ行動を媒介して組織適応に与える影響 ―企業における精神障がいのある従業員を対象とした定量的分析―

田鍋, 雅子

TANABE, Masako

氏 名 学 位 の 種 類 報 告 番 号 学 位 記 番 号 学位授与年月日 学位授与の要件 論 文 題 目  論 文 審 査 委 員    田鍋 雅子 博士(看護学) 甲第 119号 看博第 53号 令和 7年 3月 21日 学位規則第 4条第 1項該当 レジリエントな看護組織に関する研究 Research on Resilient Nursing Organizations 主査 特任教授 山田 覚   (高知県立大学) 副査 特任教授 野嶋 佐由美 (高知県立大学) 特任教授 中野 綾美  (高知県立大学) 教授 竹崎 久美子 (高知県立大学)  論文内容の要旨 ［目的］レジリエントな看護組織づくりをめざした看護師長の働きかけ、および、看護師長の働きかけの影響要因について明らかにする。これらを基盤に、変化に柔軟に対応するレジリエントな看護組織へと発展するための方策について示唆を得ることである。 ［方法］研究方法は、因子探索型量的研究である。文献検討により明らかにしたレジリエントな看護組織をもとに、看護師長を対象とした質問紙 A（対象者の概要 7項目、看護師長の働きかけ 88項目、看護師長のワークコミットメント 16項目、上司からの働きかけ 5項目）を作成し、パイロットスタディを経て洗練化した。また、看護部門長に対する質問紙 B（組織背景 4 項目）を作成し、A と B のマッチングのため施設ごとに質問紙に附番した。研究協力の承諾が得られた 46 施設の看護師長 619 名に質問紙を配布した。得られたデータを用いて、記述統計、因子分析、重回帰分析を行った。 ［結果および考察］看護部門長 46部、看護師長は 336部の回答を得た（回収率 54.3％、有効回答率 97.3％）。レジリエントな看護組織をめざした看護師長の働きかけについて 7つの構成概念から操作化し本調査を行った結果、13 の要素が抽出された。看護師長の働きかけは、組織的なアプローチである【部署内の関係性づくり】、【理念・ビジョンの共有】、【看護の質向上支援】、個々の看護師へのアプローチである【多様性の配慮】、【教育支援】、【ストレス緩和】、レジリエントな看護組織に向けての具体的な方略的なアプローチである【問題解決支援】、【イノベーションの支援】、【外部との連携と資源活用】、さらに【ポジティブな姿勢】、【楽観的志向】という看護師長の姿勢や態度、および状況を的確に認識し、物事の本質を捉える【リーダーシップの活用】と看護師長の【意思決定】の 13要素である。これら看護師長の働きかけの多くは関連しており、看護師長は複合的に働きかけを行っていることが明らかになった。看護師長の働きかけには、看護師長の経験年数、職務への没頭、帰属意識、上司からの組織・部門方針の十分な説明や困難な際の助け合い支援が影響していた。 ［結論］考案した 7因子構造から 13因子構造の看護師長の働きかけとなったが、本研究により看護師長の働きかけがより具体化された。レジリエントな看護組織をめざす看護師長らにとって、臨床で活用できる方策が得られた。また、看護部門長ら上司が組織の方針を明確に示し、十分に説明すること、相談し助け合える等の支援によりレジリエントな看護組織をめざした看護師長の働きかけを促進する一助となることが示唆された。  審査結果の要旨 わが国の医療背景は、少子化および急速な高齢社会へとシフトしており、地域医療構想として地域の医療需要や人口動態を見通し、地域住民が安全で安心な医療を享受できるようなシステムの構築が求められている。さらに、働く人々においては、ワークスタイルの変化による多様な働き方へのシフトや受け入れだけではなく、予測不能な自然災害の発生など、生活面を含めた様々な変化にさらされている。そして、グローバル化と情報化の急速な進展により、これらの変化は予測しづらいものとなっている。そのため、誰もが未経験課題や突発的事態に直面する可能性が高まっており、それらを乗り越えていくことが求められている。この様な状況の中で、近年、注目を浴びている概念として Resilienceが挙げられるが、Resilienceは、復元力・元に戻ろうとする力という意味をもっており、看護領域においても、変化の時代を生き抜くためのしなやかな組織づくりとして、注目されている概念である。しかし、看護部門における Resilienceや、レジリエントな組織づくりのための方策は明確にされていない。この様な状況において、看護組織の Resilienceに着目し、レジリエントな看護組織づくりをめざす看護管理者の方策について検討する本研究には、十分な意義と新規性がある。 本研究では、レジリエントな看護組織をめざした看護師長の働きかけを構成する要素とその特徴、看護師長のワークコミットメントの要素とその特徴、レジリエントな看護組織をめざした看護部門長からの看護師長への働きかけ、レジリエントな看護組織をめざした看護師長の働きかけに影響する組織要因、個人要因、看護師長のワークコミットメント、および上司からの働きかけについて明らかにしている。また、レジリエントな看護組織へと発展するための方策に対する示唆として、看護師長は、組織的な働きかけとして理念やビジョンを共有し、看護の質向上と部署内の関係性づくりのための働きかけを行うこと、また、個々の看護師への働きかけとして、多様性の配慮や教育支援、ストレス緩和を行うこと、レジリエントな看護組織に向けた具体的な方略として、イノベーションを支援するとともに、問題解決できるよう働きかけること、外部組織と連携し、外部のリソースを活用して働きかけるなど、ポジティブな姿勢で楽観性をもち働きかけること、さらに、これらの方略の選択は、看護師長のリーダーシップが活用され、看護師長の意思決定により調整されること、看護師長は、これらの方略を複合的に展開し、これらの実践を継続することで、レジリエントな看護組織の一助となることを挙げており、これらの結果は臨床で活用することができ有用である。また、看護部門長ら上司が、組織の方針を明確に示し、十分に説明すること、上司に相談できるような計らいや看護師長の経験に応じてチャレンジする機会を与える等の支援が、看護師長の働きかけを促進する助になることを述べている。 本研究の成果である、レジリエントな看護組織づくりをめざした看護師長の働きかけについて明らかにすることで、レジリエントな看護組織を導くための実践的なレベルでの介入方法の検討や、教育・体制づくりの検討につながる。これらは、看護師長や看護部門長らが、看護組織の組織開発を行う上での一助となると考えられる。また、レジリエントな看護組織づくりをめざした看護師長の働きかけに影響する要因を検討することで、看護部門長らによる看護師長への支援ついて検討することができる。さらに、レジリエントな看護組織に関する理解の深化に貢献でき、本研究の意義は大きい。 以上のことから本学位審査委員会は、博士論文審査基準 6項目を踏まえ、次の結論に達した。本論文は、研究テーマの着眼点、独創性、研究への着実な取り組み、丁寧な分析過程、結果の新規性、論理的な論証による考察、研究成果の実践への有用性に優れ、看護管理学発展への学術的価値があると結論づけ、博士（看護学）の学位授与に値する研究成果であると判断した。 

Research on resilient nursing organizations

中谷, 信江

NAKATANI, Nobue

氏 名 学 位 の 種 類 報 告 番 号 学 位 記 番 号 学位授与年月日 学位授与の要件 論 文 題 目   論 文 審 査 委 員    中谷 信江 博士(看護学) 甲第 118 号 看博第 52 号 令和 7 年 3 月 21 日 学位規則第 4 条第 1 項該当 がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整と関連要因 Self-regulation and related factors for the maintenance or recovery of cancer survivors' health 主査 教授 藤田 佐和  (高知県立大学) 副査 教授 大川 宣容  (高知県立大学) 教授 長戸 和子  (高知県立大学) 教授 内田 雅子  (高知県立大学)  論文内容の要旨 ［目的］がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整と関連要因を明らかにし、がんサバイバーへの看護援助の示唆を得ることである。 ［方法］量的探索的研究デザインである。がんサバイバーを対象にがんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整の実態を把握する 60 項目、関連要因 16 項目、合計 76項目の自記式質問紙を作成した。回答は 1～7 のリッカート尺度とした。協力の得られた 7 施設 3 患者会に配布し、回収は対象者本人からの返信とした。分析は SPSS Statistics Ver.29 を使用し、記述統計と推測統計を行った。高知県立大学研究倫理委員会および調査依頼する施設の倫理審査委員会の承認を得て行った。 ［結果］データ収集期間は 2023 年 5 月～2024 年 4 月であった。476 部配布し、391 部回収（82.1％）し、有効回答数は 357（91.3％）であった。がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整は、病気や症状の捉えは平均値が高かったが、サポートの獲得、同じ状況の人との関わり、睡眠を充分にとることは平均値が低かった。また、就労有の人は就労無の人に比べて平均値が感情の安定化に有意に高い項目、生活習慣に有意に低い項目があった。探索的因子分析の結果、がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整の構成要素として、【健康な人生に向かう問題解決過程】、【よりよい生活習慣】、【感情の安定化】、【周囲の人とのコミュニケーションとサポート獲得】、【病気の管理と情報獲得】が抽出された。がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整の関連要因は、抑うつ傾向有（β＝-0.169）、今までに受けた治療の手術・放射線・抗がん剤治療（β＝0.137）であった。また、【健康な人生に向かう問題解決過程】の関連要因は抑うつ傾向有（β＝-0.124）と今までに受けた治療の手術・放射線・抗がん剤治療（β＝0.117）、【よりよい生活習慣】の関連要因は年齢（β＝0.198）、【感情の安定化】の関連要因は抑うつ傾向有（β＝-0.264）、【周囲の人とのコミュニケーションとサポート獲得】の関連要因はサポート者有（β＝0.205）、がん部位の乳がん（β＝0.156）、同居家族有（β＝0.135）、【病気の管理と情報獲得】の関連要因は外来受診有（β＝-0.145）、がんや治療による症状有（β＝0.128）、今までに受けた治療：手術・放射線・抗がん剤の（β＝0.117）、がん部位の乳がん（β＝0.112）であった。 ［考察］【健康な人生に向かう問題解決過程】を中心においた健康維持・回復のための自己調整を促す看護援助が、がんサバイバーの健康に効果的な看護援助になると考えられる。抑うつ傾向が有る人に対し重点的に看護援助をしていくこと、年齢の若い人や就労している人に対し特に【よりよい生活習慣】の援助をしていくことが必要であると考える。  審査結果の要旨  がん患者の増加と治療成績の向上に伴い、主治療が終了し再発や転移を診断されていないがんサバイバーは増加しており、今後も増加していくことが予想される。主治療が終了したがんサバイバーの 9 割が身体的懸念、8 割が感情的懸念を経験し、これらが日常生活に影響及ぼして健康課題となることや、再発や新たながんの発生や心臓血管系の問題が生じることが明らかにされている。海外では、がんサバイバーの健康を支援するサバイバーシップケアが発達しているが、効果的な支援方法の確立には至っていない。一方、国内では、サバイバーシップケアは未開発であり、がんサバイバーシップケアの学術的検討も十分ではない。中谷氏は、国内外を含め、がんサバイバーの健康を支援する効果的な援助が未開発であることに着眼し、主治療終了後のがんサバイバーに焦点を当て、健康を支援する効果的な看護開発のため、「自己調整」を中心概念とし、サバイバー自身の健康に向かう取り組みである健康維持・回復のための自己調整と関連要因を明らかにすることに取り組んだ。 本研究の独創的な点は、「自己調整」の概念分析から研究の枠組みを導き、がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整を把握する 5 要素 60 項目、関連要因 16 項目で構成する質問紙を独自に開発し、７施設の 391名のがんサバイバーより健康維持・回復のための自己調整と関連要因を明らかにしたことである。分析過程においては、複数の統計の専門家やがん看護学の研究者および実践家の助言を得て丁寧に結果を導いている。新たな知見として、がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整の【健康な人生に向かう問題解決過程】、【よりよい生活習慣】、【感情の安定化】、【周囲の人とのコミュニケーションとサポート獲得】、【病気の管理と情報獲得】の 5 因子を明らかにした。また、自己調整の関連要因は、抑うつ傾向有が負の関連要因、今までに受けた治療の手術・放射線・抗がん剤治療が正の関連要因であることや、各因子の関連要因を明らかにした。審査の過程では、対象者の特徴と因子分析結果の関連、看護の視座での統計の活用、がんサバイバーの健康維持・回復のための自己調整の特徴等について質疑応答がなされ、今後の研究の発展に向けての助言を得た。 本研究は、主治療終了後のがんサバイバーの健康維持・回復を促す看護援助モデルを開発する際の基礎資料、がんサバイバーの看護に携わる看護師への教育、外来通院するがんサバイバーの支援システム構築のための基礎的研究として貴重な成果を導いていると評価した。 以上のことから、本学位審査委員会は、博士論文審査基準 6 項目を踏まえ、次の結論に達した。本論文は、研究テーマの着眼点、独創性、研究へ着実な取り組み、丁寧な分析過程、論理的な論証による考察、研究成果の有用性と実践への発展性、がん看護学発展への学術的価値があると結論づけ、博士（看護学）の学位授与に値する研究成果であると評価した。   

Self-regulation and related factors for the maintenance or recovery of cancer survivors' health

石橋, かず代

ISHIBASHI, Kazuyo

氏 名 学 位 の 種 類 報 告 番 号 学 位 記 番 号 学位授与年月日 学位授与の要件 論 文 題 目    論 文 審 査 委 員    石橋 かず代 博士(看護学) 甲第 123 号 看博第 57 号 令和 7 年 3 月 21 日 学位規則第 4 条第 1 項該当 青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組み Parental concordance efforts to support self-management in adolescents with chronic childhood illnesses 主査 特任教授  中野 綾美 (高知県立大学) 副査 教授   池添 志乃 (高知県立大学) 教授   田井 雅子 (高知県立大学) 教授   瓜生 浩子 (高知県立大学)  論文内容の要旨 〔研究目的〕青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組みを明らかにすることである。 〔研究方法〕研究デザインは、Grounded Theory Approach を用いた質的記述研究デザインである。青年期にある小児慢性疾患者を養育する親を対象として、半構成的インタビューを実施した。データ収集期間は、2023 年 8 月から 2024 年 3 月であった。インタビューで得られたデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。本研究は、高知県立大学研究倫理委員会及び研究協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。 〔結果〕研究参加者は、30～50 歳代の青年期小児慢性疾患患者の親 11 名であった。青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組みとして、【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】【掛け合いを通じた医療者との歩調合せ】【子どもに歩み寄る価値観のすり合わせ】【子どもに向き合い続ける親のあり方の模索】【協力の輪をつなぐ子どもと社会生活の橋渡し】の 5 つのカテゴリーが生成された。親は【協力の輪をつなぐ子どもと社会生活の橋渡し】により、責任を受け入れる子どもの準備を整える。また、合意形成を促進するために【子どもに向き合い続ける親のあり方の模索】による【子どもに歩み寄る価値観のすり合わせ】をする。そして、それらの影響を受けながら【掛け合いを通じた医療者との歩調合せ】による【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】をすることで、子どもと医療者との間で合意形成を図り、療養行動の責任を子どもに委譲するという親の取り組みが明らかとなった。 〔考察〕青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組みは、生活の場の変化に応じて、親子間を軸とした家族、学校を含む地域社会へと相互作用の場を拡大しながら影響を調整し、その効果を中核である子どもと医療者との三者間の協働の場に取り込むことで、肯定的な相互作用を生み出し続けるという特徴をもつ。 以上のことから、青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組みとは、【協力の輪をつなぐ子どもと社会生活の橋渡し】により責任を担う子どもの準備を整える一方で、【子どもに向き合い続ける親のあり方の模索】をしながら、【子どもに歩み寄る価値観のすり合わせ】や【掛け合いを通じた医療者との歩調合せ】による【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】をすることで、子どもと医療者との合意形成を図り、療養行動の責任を子どもに移譲するという、相互作用の柔軟な調整の場を築く取り組みであることが明らかとなった。 〔結論〕看護実践として、親と子ども、医療者の三者間での対話を通して合意形成を促進すること、親と子どもの双方の歩み寄りを支え親子間の肯定的な相互作用を引き出すこと、親と役割を共有しながら足並みを揃えて子どもが能動的に参加できる社会生活の場を築くことの重要性が示唆された。   審査結果の要旨 近年の小児医療技術の発展とともに、小児慢性疾患患者の生命予後は著しく向上し、小児医療から成人医療への移行期医療の充実が社会的課題となっている。本研究は、石橋氏が、青年期小児慢性疾患患者には、自己決定に基づいた主体的なセルフマネジメント能力の獲得が必要であり、看護は親と協働関係を構築して、子どもが望む生活の中で治療を継続していくことが重要であるという問題意識に根差している。 本研究の独創的な点は、看護学の国内外の先行研究及び他の学問領域の先行研究を丁寧に精査し、成人移行期の看護に「コンコーダンス」概念を導入することを提案し、その第一段階として、青年のセルフケアを支援している親のコンコーダンスを質的に解明することに挑戦した点である。日本において、小児慢性疾患患者と親のコンコーダンスに関する研究はなされていない中、ゲートキーパーとなる親のコンコーダンスへの取り組みの構造を明らかにしたことは独創的であり、実践においても学術的にも意義のある事である。 青年期小児慢性疾患患者の親 11 名に、1～２回/名の半構成的インタビューを行い、修正 版グランデッド・セオリー・アプローチを用いて丁寧な分析を行っている。  本研究の結果、青年期小児慢性疾患患者のセルフマネジメントを支援する親のコンコーダンスへの取り組みとして、16 サブカテゴリーと、それらを包括する【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】【掛け合いを通じた医療者との歩調合せ】【子どもに歩み寄る価値観のすり合わせ】【子どもに向き合い続ける親のあり方の模索】【協力の輪をつなぐ子どもと社会生活の橋渡し】の 5 つのカテゴリーを生成している。 本研究の独創的な点は、第一に、医療者と一体となる【掛け合いを通じた医療者との歩調合せ】によって促進された【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】は、子どもが引き受ける療養行動の範囲を拡大するための子どもと医療者との間で相互作用を調整する協働の場であり、子ども・医療者・親の三者間の相互作用の場づくりは、療養行動の責任を子どもに委譲する親のコンコーダンスへの取り組みの中核となることを解明している点である。  第二に、生活の場の変化に応じて、親子間を軸とした家族、学校を含む地域社会へと相互作用の場を拡大しながら影響を調整し、その効果を中核である子どもと医療者との三者間の協働の場に取り込むことで柔軟な調整の場を築き、肯定的な相互作用を生み出し続けるという特徴を明らかにしている。 第三に、適度な同調によって生み出した子どもとの距離感の見極めにより、親が言動を操作して子どもと交渉する【立ち位置を駆使した子どもとの取り引き】のプロセスは、親密な親子関係が長く維持されるからこそ可能な取り組みであり、日本の文化的背景を反映していると言及している点も優れている。 第四に、研究成果である、親・子ども・医療者の三者間での対話を通して合意形成を促進すること、親と子どもの双方の歩み寄りを支え、親子間の肯定的な相互作用を引き出すこと、親と役割を共有しながら、足並みを揃えて子どもが能動的に参加できる社会生活の場を築くという、実践可能な重要な示唆をしている。 また、本研究は移行期医療における看護に親子の相互作用という新たな学術的視点をもたらすものであり、心理的離乳の段階を含む青年期における親の役割やその支援についての知見の広がりにも貢献するものである。 本研究成果は、石橋氏の現象を俯瞰的に捉える力、研究テーマに関する概念・知識や理論を精査し、多角的かつ体系的に検討する力、探究心、研究に向かい努力し続ける姿勢、研究のプロセスを楽しむ力によるものである。 以上のことから本学位審査委員会は、博士論文審査基準に基づき提出論文を審査した結果、本論文は、研究テーマの着眼点、独創性、研究への着実な取り組み、丁寧な分析過程、結果の新規性、論理的な論証による考察、研究成果の実践への有用性に優れ、小児看護学の発展へ寄与する学術的価値があると結論づけ、博士（看護学）の学位授与に値する研究成果であると判断した。今後、石橋氏には、慢性疾患と共に生きる子どものコンコーダンスに関する研究を積み重ね、子ども・家族・医療者を対象にしたコンコーダンスを支援するガイドラインや移行期支援プログラムを開発することを期待している。  

Parental concordance efforts to support self-management in adolescents with chronic childhood illnesses

高知県立大学紀要 看護学部編 目次

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多様なグループ発表形態による対話的授業

A study on “YARIGAI” of operating room nurses

Verbal expression skills of teachers in synchronous-type online classes (2): Analysis of speech by student teachers

A Questionnaire Survey on Paperless Education at University of Kochi

高知県立大学紀要社会福祉学部編表紙

自己効力感, LMX, 職務特性がプロアクティブ行動を媒介して組織適応に与える影響 ―企業における精神障がいのある従業員を対象とした定量的分析―

Research on resilient nursing organizations

Self-regulation and related factors for the maintenance or recovery of cancer survivors' health

Parental concordance efforts to support self-management in adolescents with chronic childhood illnesses

高知県立大学紀要看護学部編目次

3,194

3,194