Showa Women's University Repository / 昭和女子大学学術機関リポジトリ

平井, 直樹

ヒライ, ナオキ

Hirai, Naoki

Digital Transformation (DX) Issues and Literacy

陳, 賛淑

チン, チャンスク

Jin, Chansuk

昭和女子大学現代ビジネス研究所 2019 年度紀要 ＜論考＞  1  アートビジネスの先駆者〜ディアギレフが残した功績  陳 賛淑 1  The Achievements Made by Diaghilev − The Pioneer of Art Business  Chansuk Jin   １．はじめに ストラヴィンスキー、サティ、ピカソ、マティス、シャネル・・・歴史に名を刻む錚々たる芸術家たちが、とある同じプロジェクトに参加していたことはご存知であろうか？ それは、“バレエ・リュス”である。フランス語で“ロシアのバレエ団”を意味する。 音楽、舞台美術、衣裳、舞踊が一体となる総合芸術の最先端を、世界各国で披露し続けた一座で、このバレエ団を率いていたのが、セルジュ・ディアギレフである。1909 年から 1929 年までの 20 年間という、決して長くはない活動期間であったが、ディアギレフ自身とバレエ・リュスが残した功績はとても大きい。 現代的視点で見ると、まさに“アートビジネス”の先駆けとも捉えられる。“プロデューサー”でもあったディアギレフの活動とその意義について考えてみたい。  ２．セルジュ・ディアギレフ（1872〜1929）の紹介 ロシアのウォッカ醸造を生業とする祖父を持つディアギレフは、貴族であった。高位の貴族ではなかったが、幼少期より芸術に触れる機会を得た。オペラ歌手の夢を諦めたディアギレフは、1898 年にロシアで『芸術世界』という雑誌を創刊し、フランス・パリでは、展覧会や音楽会も開いていた。この経験を生かして、1909 年にバレエ・リュスを結成し、バレエ公演を手掛けていくことになる。ディアギレフの、時代を切り開いていく芸術的センスによって、数多くの音楽家や振付家、舞踊家（ダンサー）、美術家に光が当たり、才能同士のコラボレーションが生まれ、各地で最先端の芸術作品（アート）を広めた。 20 年間の活動期間中、各国の劇場との交渉や、資金調達に奔走し、健康管理を疎かにしていたことも起因してか、57 歳で死去した。バレエ・リュスの活動も、ディアギレフの死と共に幕を降ろすことになった。                                                       1 昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2019 年度紀要 ＜論考＞  2  ３．バレエ・リュスの活動とその意義 イタリアで誕生したバレエだが、19 世紀末のヨーロッパでは衰退し、芸術とは見なされない風潮があった。しかし、ヨーロッパ中の芸術家が集まってくる“芸術の都”パリで、バレエ・リュスは最先端の流行を発信し、人気を集める。当時は、主に固定の劇場で公演を行う国立のバレエ団は存在していたが、バレエ・リュスのように、巡業をメインとする“民間”のバレエ団はとても珍しい。民間である以上、バレエ公演の興業を行うことは、即ち“ビジネス”と同義となる。 ヨーロッパ各国に限らず、この時代に、アメリカや南米でも巡業公演を行った。途中、1914 年に第一次世界大戦が勃発し、公演を行えない期間もあったが、不安定な社会情勢を経ても、常に興業できる地を求め続けた。新作を制作する意欲も途切れず、新たな作曲家や振付家、舞台美術家との協業に挑み、20 年間の活動中、68 作品を創作した。ロシアの民話や当時の社会情勢を反映した作品、異国情緒溢れる作品、バレエの古典作品に新たな解釈を加えたものや、物議を醸し出す程の前衛的な作品まで、ジャンルの幅広さも特徴である。“アートビジネス”として成立させるために、ディアギレフがどのようなマーケティング力を発揮していたか、具体的にポイントを絞っていくつか挙げてみたい。  ① 公式プログラム（冊子）のこだわり 現在ほど、公演に関連したグッズなどが豊富に用意できる時代ではなかったため、公式プログラムは観客にとって、また、宣伝ツールとしても大切なアイテムであったことが想像される。そのプログラムは、現在でもコレクターに人気の貴重な品となっている。表紙や中面の絵や図にも、才能ある画家陣が起用され、まるで図録のように美しく見応えもあることが、その理由の一つであろう。  ② 演目への緻密な工夫 ディアギレフは、観客の“生のリアクション”こそが、公演の出来を測るバロメーターと捉えており、観客の拍手や歓声などをとても重要視し、その反応次第で、興行中の演目を継続したり、変更したりする細やかな工夫を施していた。また、同演目でも、公演を行う土地によっては、ウケが良い場合と、そうでない場合があり、土地柄も大切にしていた。例えば、スペイン王の庇護のもと、現地に長期滞在していた時期があったが、その際にスペインの踊りを取り入れた作品を創作し、現地で大変な人気を得た。  ③ 券売のための話題作り 現代でいう、話題作りのための“S N S 拡散”や“炎上商法”と言うと、やや言い過ぎかもしれないが、敢えて、衣裳や振付が過激な作品を上演し、スキャンダルや物議を醸し出し、結果的にチケット完売に至らせるやり方は、感心に値する。消費者心理をよく理解し、巧みに活用していたとも言えよう。 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2019 年度紀要 ＜論考＞  3  ④ 才能を発掘するプロデュース能力 “アートビジネス”を継続していくためには、観客を飽きさせない工夫が何よりも大切になってくる。そこで、ディアギレフは、常に新しい才能を求め続け、実際に発掘し、バレエ団の“看板ダンサー”が恒常的に存在しており、まさに、プロデュース能力に長けていたと言えるだろう。また、特筆すべきは、バレエ・リュスの創作活動には、冒頭でも述べたように、ピカソやマティス、シャネルなど、後に世界的アーティストとなる逸材を起用し、これまでにない舞台美術や衣裳が誕生した。バレエ作品を総合芸術として、“トータルプロデュース”していたディアギレフの手腕と言えよう。  20 年間の活動期間中、バレエ・リュスを模した団体はいくつか出てきたが、どれも長くは続かなかった。最大のライバルと言われた“バレエ・スエドワ”（スウェーデン・バレエ団）も 1920 年から 1925 年と５年間の活動に留まった。ディアギレフ率いるバレエ・リュスが群を抜いていたことがわかる事実である。 また、ビジネスには欠かせない資金調達だが、その時々を、各国家や王室による資金援助、民間のパトロン・パトロネスに支えてもらいながら、なんとか工面していた。常に資金が潤沢にあった訳ではないが、バレエ・リュスは、当時は珍しい“民間”のバレエ団でありながら、芸術的にも経済的にも成功していた組織と考えられる。芸術（アート）を市場経済の中で成立させるためには、この両輪が不可欠である。芸術的に成功しても、興行が赤字続きだと継続的な活動は難しく、逆に、経済的に成功しても芸術的レベルが低いと、同じく継続的な活動には至らない。ディアギレフはこの両輪を必死に回し続けたが、あまりの求心力の強さゆえに、ディアギレフの不在＝バレエ・リュスの解散となってしまった。  ４．後世への影響 バレエ・リュス解散後、世界中に散らばった振付家やダンサーたちが、その地でバレエをより発展させ今日に至ることも忘れてはならない。フランス、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどで、バレエ・リュスの後継者たちがバレエ文化を押し上げた。パリ・オペラ座バレエ団や、英国ロイヤル・バレエ団、ニューヨーク・シティ・バレエ団、アメリカン・バレエ・シアターなど、現代でも人気を誇る世界的なバレエ団の結成や、レベルの引き上げにおいて、重要な影響を与えた人物を多数輩出している。 また日本でも、ディアギレフやバレエ・リュスにフォーカスした展覧会が、近年開催されており、改めて、ディアギレフが残した功績を紐解く作業が行われている。  ５．おわりに ディアギレフが、稀代の興行師として存在していた時代には、今日のように、携帯電話やメールは言うまでもなく、固定電話すらビジネスツールとしては存在していなかった。連絡手段は、電報や手紙が主なものだ。興行を成立させるための交渉や契約には、足を使って、昭和女子大学現代ビジネス研究所 2019 年度紀要 ＜論考＞  4  交渉先に直接出向く以外方法がなかった。しかも、移動手段は船や列車しかなく、計り知れない時間や労力が費やされたことが容易に推測される。 20 年間、“芸術の新たな風を生み出すこと”に情熱を持ち続けたディアギレフの姿には、ビジネスを興す大前提の大義を感じる。今日のビジネスマン、経営者にも学ぶべきことが多くあるに違いない。    【参考文献】 •芳賀直子（2014）『ビジュアル版  バレエ・ヒストリー  バレエ誕生からバレエ・リュスまで』世界文化社。 •セルゲイ・グリゴリエフ、薄井憲二監訳、森瑠依子ほか訳（2014）『ディアギレフ・バレエ年代記 1909－1929』平凡社。 •展覧会「舞台芸術の世界〜ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン」（2007 東京都庭園美術館 ほか）図録。 •展覧会「魅惑のコスチューム：バレエ・リュス展」（2014 国立新美術館）図録。 

The Achievements Made by Diaghilev − The Pioneer of Art Business

98女性文化研究所彙報 （平成 28 年度）1．組織所　長　坂東眞理子　　生活機構研究科副所長　掛川　典子　　生活機構研究科所　員　小川　睦美　　生活機構研究科川畑　由美　　文学研究科岸田　依子　　文学研究科胡　　秀敏　　文学研究科木間　英子　　初等教育学科志摩　園子　　生活機構研究科友野　清文　　総合教育センター飛田　史和　　ビジネスデザイン学科藤崎　春代　　生活機構研究科森　ます美　　生活機構研究科伊藤　　純　　生活機構研究科今井　美樹　　生活機構研究科粕谷美砂子　　生活機構研究科金子　弥生　　文学研究科島﨑　里子　　文学研究科シム チュンキャット　生活機構研究科福田委千代　　日本語日本文学科小野寺拓也　　歴史文化学科本多ハワード素子　　心理学科小森亜紀子　　現代ビジネス研究所2．定例研究会2016 年 4 月 22 日 ：「国連女性差別撤廃条約日本政府審査会に参加して―障害とジェンダーの視点から」 吉田仁美（岩手県立大学講師）2016 年 7 月 15 日 ：「変わる家族やカップルのすがた―日仏比較の視点から」 吉川佳英子（京都造形芸術大学准教授・女性文化研究所特別研究員）2016 年 12 月 19 日：「女性改革から働き改革へ」白河桃子（相模女子大学客員教授・女性文化研究所特別研究員）昭和女子大学女性文化研究所彙報 （平成 28 年度）3．シンポジウム開催（詳細は本文開催報告参照）『女性とキャリアデザイン』刊行記念シンポジウム「女性のキャリア教育・キャリア支援の最前線」7 月 2 日（土）14：00～16：00　コーディネ ターー ：坂東眞理子（女性文化研究所所長）　シンポジスト：石原直子（リクルートワークス研究所 機関誌『Works』編集長）・塚 原 月 子（カ タ リ ス ト・ ジ ャ パン バイスプレジデント）・森ますみ（女性文化研究所所員）・本多ハワード素子（女性文化研究所所員）4．昭和女子大学女性文化研究賞・奨励賞第 8 回 （2015年） 「昭和女子大学女性文化研究賞・同研究奨励賞」（坂東眞理子基金）　両賞共に該当作品なし5．文献・資料収集　本学図書館の「女性文庫」の2016年12月現在における蔵書冊数は、和図書 14,865 冊、洋図書4,361冊、雑誌 （和洋） 325タイトルである。昨年度掲載以降にコレクションとして受入れた図書には、『行動する女たちの会資料集成』（六花出版）、『第 3 回家族についての全国調査』（日本家族学会）、『Feminist economics』（Edward Elgar）、『The collected letters of Mary Wollstonecraft』（Columbia Univ. Press）などがある。　当研究所に直接送られてきた寄贈図書・定期刊行物も多数あり、多くの方々の利用に供するため、漸次「女性文庫」に移管している。6．刊行物『昭和女子大学女性文化研究所紀要』第44号  （2017年 3 月31日）『女性文化研究所ニューズレター』 No.68（2016年 9 月30日）

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