Nagoya College of Music Repository / 名古屋音楽大学リポジトリ

柴田,篤志

Japanese

中学校における特別活動(学校行事）としての合唱活動と、その競技性5ー合唱活動に絶対評価、相対評価を導入するための基礎研究ー

演奏会報告

猪狩,裕史

遠隔音楽療法モデル構築に向けた文献調査

伊藤,華余子

「音楽大学卒」を活かすために教職員ができることー芸術系大学の事例から考えるこれからの音大キャリア支援ー

成田,伊美

日本におけるオペラ上演の変遷ー東京文化会館完成を中心にー

橋本,眞介

アルプス交響曲について 橋本　眞介　2022年4月15、16日、愛知県芸術劇場コンサートホールに於いてR.シュトラウスのアルプス交響曲作品64を指揮者の小泉和裕氏、名古屋フィルハーモニー交響楽団定期演奏会に出演した。　私自身このアルプス交響曲の演奏は広島交響楽団（1番クラリネット）、九州交響楽団（2番クラリネット）、そして今回の名古屋フィル（C管クラリネットとバスクラリネット）で3回経験をした。この曲はR.シュトラウスの作品の中でも演奏時間が50分と長大な曲である。　R.シュトラウスの作曲の経緯は彼が14歳の時に、ドイツ・アルプスのツークシュピッツェで登山をしたときの体験が、この曲の元となっている。その後、1900年に交響詩『芸術家の悲劇』（未完）を経て、1902年には『アンチクリスト、アルプス交響曲』という名称でスケッチがされた。　この題名にはフリードリヒ・ニーチェの『アンチクリスト』からの影響が見て取れるといわれている。この時には4楽章形式の交響曲の構想も書かれている。　1911年からガルミッシュ＝パルテンキルヒェンの山荘で『アルプス交響曲』としてのスケッチを開始し、1914年から本格的な作曲に取り掛かったと言われる。　各部分は切れ目なく演奏され内容は以下の通り。夜　NachtB mollの下降音階が順番に重なっていく不協和音（夜の動機）により開始される。金管楽器による山の動機が静かに登場する。何重にも分かれた弦楽器により音が厚くなっていく。日の出　SonnenaufgangA durの太陽の動機が ffで出てくる。調性を変えながらメロディーは引き継がれたあと、ゲネラルパウゼとなる。登り道　Der Anstieg低音弦楽器による山登りの動機から始まる。流れるような旋律になった後、岩壁の動機が現れ、舞台裏でホルンを中心とした金管楽器のファンファーレが奏される。 149名古屋音楽大学研究紀要第42号　橋本　眞介　―1―森への立ち入り　Eintritt in den Wald弦楽器の16分音符の中、トロンボーンとホルンによる旋律が奏され、それに山の動機が絡んでくる。小川に沿っての歩み　Wanderung neben dem Bache小川のせせらぎの音が聞こえるが、登りであるので山の動機も重ねられる。滝Am　Wasserfall岩壁の動機に、弦楽器と木管楽器・ハープ・チェレスタによる滝の流れが重ねられる。幻影　Erscheinung水の中にオーボエの旋律による幻影が見えてくる。最後にホルンの旋律が出てくる。花咲く草原　Auf blumigen Wiesen山登りの動機が静かに聞こえてきたあと、曲は快活になる。山の牧場　Auf der Almカウベルによる牛の擬音が鳴る中、牛の鳴き声とアルプホルンを模したホルンの音が聞こえてくる。その後、ホルンの旋律とともに登山者は道に迷う。林で道に迷う　Durch Dickicht und Gestrüpp auf Irrwegen山登りの動機と岩壁の動機が出てくる。そして山の動機が現れ、次へとつながる。氷河　Auf dem Gletscher明るくなり、山登りの動機が現れる。危険な瞬間　Gefahrvolle Augenblicke遠くから雷鳴（ティンパニのロール）が聞こえてくる。頂上にて　Auf dem Gipfel和音が響いた後、トロンボーンが頂上の動機を鳴らし、オーボエが訥々と旋律を奏でる。そして幻影で出てきたホルンの旋律が再び現れる。山の動機と太陽の動機が一体となる。見えるもの　Vision頂上の動機が和音の下から現れたあと、太陽の動機が管を追加してまた登場する。霧が立ちのぼる　Nebel steigen aufファゴットとヘッケルフォーンが不安げな旋律を奏でる。しだいに日がかげる　Die Sonne verdüstert sich allmählich太陽の動機が短調で登場し、太陽が翳ってきていることを表している。哀歌　Elegie弦楽器により、登山者は悲しげな歌を口ずさむ。嵐の前の静けさ　Stille vor dem Sturm遠くから雷が聞こえてきて、だんだん暗くなってくる。ぽつぽつと降り出した雨は、次第に激しくなってくる。そして、風が吹き出してくる。150名古屋音楽大学研究紀要第42号　橋本　眞介　―2―雷雨と嵐、下山　Gewitter und Sturm, Abstiegオルガンの和音とウィンドマシーンによる風の吹く中、登山者は下山する。これは山登りの動機を転回し、逆の順序で用いることで表されている。強烈な稲妻が光り、最後にはシュトラウス特注のサンダーマシーンにより落雷が起こる。その後はだんだん静かになってくる。日没　Sonnenuntergang太陽の動機が転回され、日没を表している。登山者は哀歌を口ずさむ。終末Ausklangオルガンにより太陽の動機が奏され、山登りの動機も回想的に使われ、あたりは暗くなってくる。夜　Nacht冒頭部の夜の動機がまた現れ、山の動機とともに静かに終わる。　私自身、ドイツ留学中（1997年）にこの曲が書かれた場所に訪れ、山頂まで登り360度アルプスの雄大な景色を見て感動し、この曲のイメージを記憶に残した思い出がある。　尚、今回の名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏はオクタヴィア・レコードよりCDとして発売されている。 https://www.nagoya-phil.or.jp/discography/discography22505  151名古屋音楽大学研究紀要第42号　橋本　眞介　―3―

アルプス交響曲について （書評）

岩田.彩音

音楽療法におけるセラピストの音楽選択プロセスについての探究：現象学的研究

名古屋音楽大学研究紀要　第42号令和5年3月31日　発　行編　集　者　　研究紀要編集委員会印　刷　所　　株式会社 荒川印刷発　行　所　　名古屋音楽大学　　　　　　　〒453-8540　名古屋市中村区稲葉地町7－1　　　　　　　〈電話〉　052-411-1115

奥付

山口,真季子

シューベルト／マデルナ《5つの舞曲》（1965）原曲の管弦楽的要素とマデルナの「再解釈」

小櫻,秀樹

音楽之友社―Kent Kennan “Counterpoint 4th Edition” 日本語訳「バッハの作品と学ぶ対位法」出版に寄せて小櫻　秀樹　ケント・ウィーラー・ケナン（Kent Wheeler Kennan 1913–2003）はアメリカの作曲家、教育者。ミシガン大学でオルガンとピアノを学び、イーストマン音楽院で作曲と音楽理論の学位を取得した。23歳の時にローマ賞を受賞しローマのアメリカン・アカデミーを含めヨーロッパで3年研鑽を積んだ。　ケナンは、そのキャリアの大半をテキサス大学オースティン校の教授として過ごし、ケント州立大学でも短期間教壇に立った。作曲家としても数々の作品、オーケストラ、室内アンサンブル、独奏楽器のための作品のほか、歌曲、合唱曲など多岐に渡るが、1956年以降は目立った大作はほとんどなく、作曲活動から大きく遠ざかり、時折小品を書くだけであったようだが、残りの人生の半分以上を教育や執筆活動に専念した。　2020年より私は大学の授業で対位法クラスを担当することになり、特に器楽専攻の学生にも有意義な対位法の教科書を探す必要性が生じた。　東京藝術大学を始め、日本の多くの音楽大学では、私の知る限り、近現代フランスの作曲家・理論家によって書かれたもの、もしくはフランスで学んだ日本人作曲・理論家によって書かれた『対位法』の教科書が主流となっているようである。対位法は基本的規則や禁則が多く、なおかつ教科書は難しい文体で書かれていることも多く、和声学をある程度習得した学習者であっても、理解することは容易ではなく、学習を継続させるモチベーションを簡単に喪失することが想像できた。実際に教鞭を執るにあたることになり、それらを少しでも解消する方向で教えることができないかということを念頭に置いて、国内で容易に入手できそうな教科書を中心に探し始めた。　私自身が大学浪人中や、藝大学部時代に使用した教材を含め、国内外で出版されている数々の対位法の教科書を本務校の大学図書館やインターネットなどで調べていくうちに、ケント・ケナンが著したCounterpoint（対位法）（4th Edition）に出逢った。原書は英語で書かれており、未だ日本語訳がなく、日本ではその存在すらほぼ皆無であることなどを知るに至った。文章などを飛ばし飛ばしに大まかに読むレベルですらケナンの対位法がいかに面白く優れており、非常に分かりやすく、魅力的な内容に富んでおり、また理解する上 147名古屋音楽大学研究紀要第42号　小櫻　秀樹　―1―で必要な譜例がとにかく豊富で、日本の音楽大学でも日本語訳版さえあれば、教材とし広く普及する可能性が十分にあるのではないかという印象を持つに至った。　第1章から19章まで、各章ごと何を勉強するのかが明確に提示されており、よくありがちな課題をこなし、規則等を頭にたたき込むための実習を中心にした実践タイプの教科書とは対照的であり、技術向上を目的とした 内容に重点を置いて書かれていない。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ（Johann Sebastian Bach 1685–1750）を中心とした後期バロック・古典 派の作曲家による多くの作品が実例として記載されており、対位法にはどういう手法があるか、既存曲のどこに用いられているか、分析を通して学ぶことができるので、作曲のみならず、演奏系の学生たちにとっては対位法を概観することができる大変有効な教科書であると自信を持って勧めることができる。　この日本語訳「バッハの作品と学ぶ対位法」の使い方として、ケナンは学生たちには、本書で勉強する音楽形式の例をできるだけ多く鑑賞させるのが望ましいと書いている。ピアノやチェンバロ、オルガン専攻の学生であれば、バロック音楽（特にJ.S. バッハの2声、3声のインヴェンションや平均律クラヴィーア曲集）に精通している可能性が高いが、他専攻の学生の場合、そうではないことが十分に考えられる。学生にとってなじみのない様式を勉強させることは、論理的ではなく、また効果が得にくいであろう。実例として掲載されている作品は必ず演奏して、スコアを配布などすることによって、より深く、学習内容の全体像を把握しながら勉強できると確信する。 148名古屋音楽大学研究紀要第42号　小櫻　秀樹　―2―

音楽之友社―Kent Kennan “Counterpoint 4th Edition” 日本語訳「バッハの作品と学ぶ対位法」出版に寄せて （書評）

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