Japan College of Social Work Repository / 日本社会事業大学リポジトリ

新谷いずみ

Japanese

【研究ノート】福祉専門職養成の実習の現状と課題～実習生･指導者･養成校へのインタビュー調査を通して～

須田研一

【実践研究報告】福祉のはざまで――「吃音」の理解・啓発の難しさと“多様性”をめぐって

日下公佑

【原著論文】地域共生社会への批判的考察

藤岡孝志

藤　岡　孝　志　 教 授－7－藤岡孝志教授年譜及び業績目録〈年譜〉学歴九州大学大学院教育学研究科博士課程 （教育心理学専攻） 単位取得退学。博士 （人間学）職歴1987	年度	 九州大学教育学部　助手1988	年度	 山形大学教育学部　講師1991	年度	 山形大学教育学部　助教授2001	年度	 日本社会事業大学社会福祉学部　助教授2002	年度	 日本社会事業大学児童ソーシャルワーク課程主任 （～ 2022年度）2003	年度 （10月）　日本社会事業大学　学生部長代行2004	年度	 日本社会事業大学社会福祉学部　教授2004	年度～2005年度　日本社会事業大学　学生部長2006	年度～2007年度　日本社会事業大学社会福祉学部学生委員会 委員長2008	年度～2009年度　日本社会事業大学実習教育センター　センター長2011	年度	 Tulane University, The Graduate School of Social Wok 客員研究員 他2012	年度～2015年度　日本社会事業大学社会事業研究所　所長2013	年度 （6月） ～ 2016年度 （6月）　日本社会事業大学常務理事会　理事2016	年度～2017年度　日本社会事業大学社会福祉学部　実習教育委員長2018	年度～2021年度　日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科　研究科長2022	年度	 日本社会事業大学　学長室室長補佐2023	年度	 中部学院大学人間福祉学部　教授学会APASWE常任理事日本子ども家庭福祉学会理事　等社会活動東京都社会福祉事業団理事、 東京都児童福祉審議会委員等－8－著書支援者支援養育論 ：子育て支援臨床の再構築 （単著） 2020　ミネルヴァ書房愛着臨床と子ども虐待 （単著） 2008　ミネルヴァ書房不登校臨床の心理学 （単著） 2005　誠信書房　　　　　　　　　　　　　　　他論文・ 「被懲戒の歴史」 と 「子どもと親の相互意見表明」 を踏まえた子育て支援プログラムの構築に関する研究 69, 133-149頁 （単著） 2023・ 日本社会事業大学児童ソーシャルワーク課程の歴史と実習教育に関する研究―子ども家庭ソーシャルワーカー養成 25 年の歩みを通して―日本社会事業大学研究紀要 69, 95-113. 頁 （単著） 2023・ “Support for Supporters” in Various Fields of Social Welfare underSevere Situations during the COVID-19 Pandemic in Japan. 日本社会事業大学研究紀要 68,155-172頁 （単著） 2022・ 『子どもの権利擁護 3 モデル』 に基づく子育て支援臨床アプローチの構築に関する研究―:養育者の 「被懲戒の歴史」 に着目して―日本社会事業大学研究紀要 68, 211-229頁 （単著） 2022・ 被懲戒の歴史を踏まえた子育て支援臨床の構築に関する研究　日本社会事業大学研究紀要67, 161-177頁 （単著） 2021・ 『ジャネ臨床』 から学ぶこと　催眠学研究58, 27-33頁 （単著） 2020・ 「体罰禁止の内在化」 と懲戒行動の解析に基づく子ども虐待防止に関する研究　日本社会事業大学研究紀要66, 181-198頁 （単著） 2020・ しつけ （懲戒） と虐待の境界の認識に関する検討―フランスの懲戒行動に関する現状をふまえて―日本社会事業大学研究紀要 66, 137-152頁 （共著） 2020・ Study on reconstructing Attachment-Focused Clinical Approachbased on an analysis of parental disciplinary behavior―Theoreticalconsideration―Journal of social policy and social work （22）, pp.15-22（単著） 2018・ 『支援者支援養育論』 の構築に関する論考―支援者支援を中核に据えた養育論―日本社会事業大学研究紀要64, 115-129頁 （単著） 2018・ 児童養護施設における援助者支援のニーズと方法に関する仮説生成　子ども家庭福祉学（16）, 16-28頁 （共著） 2016・ 支援者支援学　支援者支援学とは　こころの科学 （189）, 92-98頁 （単著） 2016/09生活困窮家庭、 特に母子家庭に注目した　支援プログラムの構築に関する研究　平成27年度　生活困窮者問題　調査研究事業 （社会福祉法人恩賜財団済生会　生活困窮者問題調査会研究助成金） 報告書 （共著） 2016・ 不登校臨床の展開と課題　最新精神医学 【特集　現代社会と精神分析】 21 （3）, 179-－9－185頁 （単著） 2016・ Monitoring Compassion Fatigue and Compassion Satisfaction of MentalHealth Professionals in a Prefectural Mental Health Care Team forEastern Japan Earthquake Disaster: Prospective Longitudinal CohortQuestionnaire Assessment Journal of social policy and social work （19）,29-43頁 （共著） 2015・ 災害時要援護者の避難に関する文献的研究　日本社会事業大学研究紀要 61, 155-170頁 （共著） 2015・ 施設臨床における 「養育者－子ども相互性」 支援システムの構築 ： 共感疲労と FR 行動、メンタライジングに焦点をあてて　日本社会事業大学研究紀要 61, 113-135 頁 （単著）2015・ 児童養護施設におけるスーパービジョンの構造に関する研究　日本社会事業大学研究紀要61, 137-154頁 （共著） 2015・ PTSD 及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究　大規模災害時の精神支援及び生活支援に関する研究　東日本大震災における二次的ストレッサーに関する調査　災害時のメンタルヘルス ・ ケアと生活支援の在り方に関する研究～東日本大震災における被災地支援に関わった専門家に対するヒアリング調査から～ PTSD 及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究　平成 26 年度　総括 ・分担研究報告書 （共著） 2015・ 愛着を結ぶ， 深める 「愛着上の課題」 を抱えた子どもたちの修復のための支援　月刊地域保健46 （2） （単著） 2015・ 「日本社会事業大学との 「国際学術交流協定校」 交流の歴史」 について　日本社会事業大学研究紀要60, 265-287頁 （共著） 2014・ PTSD 及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究　災害時要援護者の避難に関する研究　災害時要援護者の避難に関する文献的研究　特別な配慮を要する要援護者の災害時避難に関する研究　災害時要援護者の支援に関するガイドライン ,マニュアルについての資料分析　PTSD 及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究　平成25年度　総括 ・ 分担研究報告書 （共著） 2014・ “Diversity” of Care Givers and Aggressive Abused Children withReactive or Proactive aggression in Child welfare Facilities throughExamining Residential Map, the New Assessment Method for EstimatingRelationships among Children and Care Givers. Journal of social policyand social work （17）, pp.13-25 （単著） 2013・ The Construction of Optimal Compassion Fatigue Model Based onthe Preliminary Findings of Two Studies of Professionals Exposed toSecondary Trauma Journal of social policy and social work （16）, pp.5-29 （単著） 2012－ 10－・ 「共感疲労の最適化水準モデル」 とファンクショニング概念の構築に関する研究　日本社会事業大学研究紀要58, 171-220頁 （単著） 2012・ 児童養護施設における養育困難児童への対処に関する研究―レジデンシャル ・ マップの活用と愛着臨床アプローチ （CAA） を通して―日本社会事業大学研究紀要　56, 23-43 頁（単著） 2009・ 共感疲労 ・ 共感満足と援助者支援 （特集　児童養護施設職員のメンタルヘルス） 児童養護39 （2）, 24-28頁 （単著） 2008・ 児童福祉施設における職員の 「共感満足」 と 「共感疲労」 の構造に関する研究　日本社会事業大学研究紀要54, 75-116頁 （単著） 2007/12・ 愛着臨床と子ども虐待に関する研究　日本社会事業大学社会事業研究所年報 （43）,25-61 頁 （単著） 2007・ 福祉援助職のバーンアウト、 共感疲労、 共感満足に関する研究―二次的トラウマティックストレスの観点からの援助者支援―日本社会事業大学研究紀要 53, 27-52 頁 （単著）2006・ 愛着臨床の観点からみた児童虐待への対応に関する研究　日本社会事業大学社会事業研究所年報 （42）, 113-140頁 （単著） 2006・ 対人援助職の二次的トラウマティック ・ ストレスと解離に関する研究　日本社会事業大学研究紀要52, 149-163頁 （単著） 2005・ 児童虐待と解離性障害の関係性に関する研究―ピエール ・ ジャネーの 「解離」 概念と臨床技法を手がかりとして―日本社会事業大学研究紀要 51, 189-214頁 （単著） 2005・ 愛着障害の子ども及びその親への修復的愛着療法に関する研究　日本社会事業大学研究紀要50, 97-120頁 （単著） 2003・ 身体運動による被虐待児へのグループ ・ アプローチ （1） ―運動課題の設定を中心に―子どもの虹情報研修センター紀要 （1）, 84-99頁 （共著） 2003・ 不登校児童の体験様式と援助方式に関する研究　日本社会事業大学研究紀要 49, 135-150頁 （単著） 2002・ 児童福祉施設における被虐待児のための援助のあり方と今後の方向性 （特集　児童虐待）― （被虐待児 ・家族への支援） 月刊福祉85 （13）, 42-45頁 （単著） 2002・ 児童福祉施設における心理的支援に関する研究　日本社会事業大学社会事業研究所年報（38）, 27-46頁 （共著） 2002・ 児童虐待と愛着障害の関係性に関する研究　日本社会事業大学研究紀要 48, 243-258頁 （単著） 2001・ 学校のメンタルヘルスと 「体験様式」 精神療法22 （4）, 366-372頁 （単著） 1996・ On the lateral dominance on locus exploration human motor spaceJapanese Psychological Research. Vol.31 （,No.2,） ,92-96.頁 （単著） 1989・ ポインティング課題における動作空間の異方性について　九州大学教育学部紀要　教育心理学部門32 （2）, p93-98頁 （共著） 1988－ 11－・ The Effect of Strategies on Motor Memory in Human Motor Space 九州大学教育学部紀要 教育心理学部門 32 （1）, p17-22頁 （共著） 1987・ 動作療法の治療過程に関する一考察　心理臨床学研究5, 14-25頁 （単著） 1987・ 重度障害児に対する動作訓練の効果　リハビリテイション心理学研究 15, 45-53 頁 （単著） 1987・動作空間における位置認知と再生の関係　九州大学教育学部紀要　教育心理学部門31 （1）,p19-26頁 （共著） 1986・ 動作療法の治療過程について―神経症の事例を通して　九州大学教育学部紀要　教育心理学部門31 （2）, p207-216頁 （単著） 1986・ 動作空間研究の展望 リハビリテイション心理学研究 13, 47-60頁 （単著） 1985・ 動作空間認知における能動的探索運動の効果　九州大学教育学部紀要　教育心理学部門29 （2）, p155-163頁 （共著） 1985　他その他・ 他者に対する支援行為そのものが、 支援者を精神的身体的健康に導く ： ―その可能性に期待 ： 「支援者支援学」 の立場から―地方公務員 「安全と健康フォーラム」 31 （4）,9-13 頁 （単著） 2021・ 2014 年度社大海外ソーシャルワーク研修報告 ： インドネシアの社会福祉とソーシャルワークの姿 ： 社会省の取り組みを中心に （社大福祉フォーラム 2015 報告） ― （各分科会からの報告） ―社会事業研究 （55）, 54-64頁 （共著） 2016・ スリランカの社会福祉 ： ソーシャルワークにおける貧困と仏教に関する諸課題　社大福祉フォーラム報告資料集55th （共著） 2016・ 障害を持った子どもを育むには （これからの子育て < 特集 >） 教育と医学 39 （2）,p185-191 頁 （単著） 1991　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　他

藤岡孝志教授年譜及び業績目録

横山彰

－ 1－巻 頭 言日本社会事業大学学長横　山　　　彰日本の未来と高等教育「日本の社会と個人の未来は教育にある。 教育の在り方を創造することは、 教育による未来の個人の幸せ、 社会の未来の豊かさの創造につながる。」これは、 2022 年の内閣官房 ・ 教育未来創造会議 「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について （第一次提言）」 （8 頁） で記述されている基本理念である 1。 教育未来創造会議は、 「我が国の未来を担う人材を育成するためには、 高等教育をはじめとする教育の在り方について、 国としての方向性を明確にするとともに、 誰もが生涯にわたって学び続け学び直しができるよう、 教育と社会との接続の多様化 ・ 柔軟化を推進する必要がある。」 として、 その開催が2021年 12月 3日に閣議決定された 2。憲法第 26 条では 「すべて国民は、 法律の定めるところにより、 その能力に応じて、 ひとしく教育を受ける権利を有する。」 と定められている。 国は、 独立行政法人日本学生支援機構を通じて 「能力があるにもかかわらず、 経済的理由によって修学が困難な者に対して」 （教育基本法第4条第3項）、従来の貸与型奨学金事業の実施に加え、給付型奨学金事業も2017年度に創設し、さらには学部段階の学生を対象とした 「高等教育の修学支援新制度」 を 2020年度に導入した。その後も、 大学院段階における 「授業料後払い」 制度 （在学中は授業料を徴収せず、 卒業後の所得に応じて納付する新たな制度） の創設が、 文部科学省 「大学院段階の学生支援のための新たな制度に関する検討会議」 で検討されている 3。こうした日本学生支援機構を通じた高等教育の修学支援に対する、 国の財政や財政投融資計画による公的資金投入は、 国立大学法人運営費交付金や私学助成関係予算などの一般会計予算が国立大学法人 ・ 学校法人などの教育機関への公的資金投入であるのとは異なり、 学生個人への財政支援になっている。高等教育を受ける学生個人への財政支援は、 経済的理由によって修学が困難な者でも高等教育が受けられるように 「教育の機会均等」 を保証する再分配機能と、 高等教育が社会にもたらす外部便益を内部化する資源配分機能から、 正当化されている。 高等教育は、 その教育を受ける者や受けた者に、 高度の専門的 ・ 文化的な知識 ・ 技術 ・ 能力を修得することや修得したことで得られる個人的な利得、 すなわち私的な便益をもたらすだけでない。 高等教育によって高度の専1	 出所は、 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/pdf/ikkatsu_dl.pdf	 （閲覧2024. 2. 7） を参照のこと。2	 出所は、 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/pdf/kaisai_konkyo.pdf	 （閲覧2024.2.7） を参照のこと。3	 この制度については、 https://www.mext.go.jp/content/20221222-mxt_gakushi01-120_1.pdf	 （閲覧2024.2.15） を参照のこと。－2－門的 ・ 文化的な知識 ・ 技術 ・ 能力をもった人間が存在することで、 高等教育は技術進歩や文化普及など社会にプラスの影響を与える。 これが、 高等教育が社会にもたらす外部便益である。 この外部便益は市場では考慮されないため、 市場に委ねておくと高等教育は社会的に見て望ましい水準 （高等教育に係る社会的純便益を最大にする水準） より過少になる。 そこで、 高等教育に対する公的資金が、 大学などの高等教育機関の投資的経費や経常的経費の補助金として、 また学生への奨学金として投入され、 その結果、 授業料等の学生納付金として学生や家族が支払う高等教育の価格が実質的に引き下げられ、 高等教育に対する需要が増大し社会的に見て望ましい水準に近づくことになる。この外部便益に関する議論は、 高等教育一般に関するもので高等教育の学問分野間の資源配分に係るものではなく、 社会にもたらす外部便益が国境を超えることや学生の年齢 ・ 国籍などの多様性を考慮しておらず、 さらには高等教育の社会的意義の変遷も踏まえていない。 日本における高等教育に係る国の政策は、 1990 年代以降に大きく変容している。 1991 年の大学設置基準の大綱化、2000年の「大学における学生生活の充実方策について（報告）－学生の立場に立った大学づくりを目指して－」 （通称 「廣中レポート」） 4、 2003 年の設置認可の見直し、 2004年の国立大学の法人化、 2018年の 「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」 （中央教育審議会答申） 5 で、 高等教育の自由化と学修者本位の教育への転換がなされている。 この背景には、 18歳人口の減少と大学 （学部） 進学率の向上がある。 直近の 「令和５年度学校基本統計 （学校基本調査の結果） 確定値」 （2023年 12月 20日） 6 では、大学 （学部） 進学率 （過年度卒を含む） は、 57.7％まで達している。さらに、高等教育という経済財への支出は、人的資本形成への支出という投資的支出の側面と、高等教育を受けること換言すれば高等教育機関で学ぶことそのものの価値を購入するという消費的支出の側面を併せ持つ。 すなわち、 投資的支出の側面でいえば、 高等教育は未来の自分や未来の社会や未来の国を豊かにしたりより良くしたりするための手段や道具になる。 これが、 教育未来創造会議の基本理念なのである。 他方、 消費的支出の側面でいえば、 高等教育は今の自分や今の社会や今の国を豊かにしたりより良くしたりするための手段や道具になる。 言い方を変えれば、 両者には、 学んだ結果 ・ 果実を目的にするのか、 学ぶこと ・ 学ぶ過程そのものを目的にするのかの違いがある。 これは、帰結主義的な考え方と非帰結主義的な考え方の違いでもある 7。高等教育を巡る今日の議論は、 投資的支出の側面や学んだ結果 ・ 果実を目的とする帰結主義的な考え方に偏り過ぎてはいまいか。 消費的支出の側面や学ぶこと ・ 学ぶ過程そのものを目的とする非帰結主義的な考え方から、 高等教育を再考してみる必要があるように思える。4	 全文は、 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/012/toushin/000601.htm	 （閲覧2024.2.1） を参照のこと。5	 全文は、 https://www.mext.go.jp/content/20200312-mxt_koutou01-100006282_1.pdf	 （閲覧2024.2.7） を参照のこと。6	 出所は、 https://www.mext.go.jp/content/20230823-mxt_chousa01-000031377_001.pdf	 （閲覧2024.2.7） を参照のこと。7	 帰結主義と非帰結主義についての詳しい考察は、鈴村興太郎 『厚生経済学の基礎―合理的選択と社会的評価』 第５部、岩波書店、 2009年を参照のこと。－3－高等教育の帰結主義的な考え方からすれば、 学部卒業後もしくは大学院修了後の進路として期待できる職業 ・ 勤務時間 ・ 年俸 ・ 社会的ステータスなどから、 特定分野の学部学科 ・ 大学院研究科 ・ 専攻が高等教育を受ける側から嫌厭され入学定員割れで高等教育から退出を迫られることもやむをえないかもしれない。 しかし、 高等教育の非帰結主義的な考え方からすれば、 特定分野の学部学科 ・ 大学院研究科 ・ 専攻で学ぶことそのもの、 その特定分野の先達との出会いや同じ関心をもつ仲間と刺激し合い学び合うこと、 自分で考え設定した研究課題について調査・実験・分析 ・ 考察 ・ 論述して真理を探究すること、 未知なる異文化に触れたり新たな体験をしたりすること、 人間として成長し成熟していくこと、 などなどを楽しむ側面が高等教育には存在するのである。高等教育において 「誰もが生涯にわたって学び続け学び直しができるよう」 にすることの意義や目的、 すなわち高等教育におけるリカレント ・ リスキリングの意義や目的も、 帰結主義的なものだけではなく非帰結主義的なものもある。 人間は、 常に学び続け学び直して、 「人間を人間として充実させる」 8 仕組みづくりや取組みを行ってきたし、 行っているし、 行っていくことになる。「人間を人間として充実させる」 仕組みづくりや取組みにおいて、 高等教育をどう位置付ければよいのか。 このとき、 リカレント ・ リスキリングを含め高等教育の非帰結主義的な意義や目的を再認識することが重要になる。高等教育機関で学ぶことそのものの楽しさ、 自分の興味のある特定分野の先達との出会いや同じ関心をもつ仲間と刺激し合い学び合うことの素晴らしさ、 自分で考え課題を設定し真理を探究することの楽しさ、 未知なる異文化に触れることや新たな体験をすることの醍醐味、 人間として成長し成熟していくことの喜び。 こうした高等教育の非帰結主義的な価値も提供できる大学のあり方を求めることが、 日本の未来を明るいものにすることなろう。8		神野直彦 『財政と民主主義—人間が信頼し合える社会へ―』 241-244頁、 岩波新書、 2024年を参照のこと。

【巻頭言】日本の未来と高等教育

吉田真依子

【分科会】障害児支援の検討会にみる理念の変遷について

新藤健太

染倉有希

雨宮陽子

杉山聖子

【シンポジウム】 『生』に寄り添う社会福祉　～誰一人取り残さないソーシャルワーク～

木戸宜子

－ 80 －１．はじめに　地域共生社会の実現に向けて、複雑化した生活課題、潜在的な福祉ニーズに対応するために、専門職や福祉組織、住民を含めた関係者らによる包括的な支援が求められている。その中で、福祉専門職がその実践力を十分に発揮できるよう、ソーシャルワークの専門性を高め、立場性や力動を踏まえた実践行動を実現するソーシャルワークスーパービジョンが必要である。　実践現場や教育機関においてスーパービジョンは、事例検討会やピアスーパービジョンなど様々な様式で実施されているが、そのねらいは主にスーパーバイジー個人の力量向上としている現状がある。包括的な支援を進めていくならば、潜在化したニーズの把握、複雑化した状況にも対応し、支援活動を前進させる実践力が求められる。特にリーダー職、管理職などには、管理的側面からもスーパービジョン体制を意識し、支援のための会議や共同体制を活用し、情況の展開を図ることが求められる。スーパーバイザー・スーパーバイジー関係における実践の気づきや学びだけではなく、福祉組織や地域における協働体制を指向するスーパービジョンに注目する。　日本社会事業大学専門職大学院では、保健福祉現場においてマネジメントやスーパービジョンを担う、現任の実践者を対象に、経験学習を深める専門的職業人教育を行っている。2014 年度からは、認定社会福祉士取得希望者を対象に個別スーパービジョンを実施してきた。2022 年度は、グループスーパービジョン（以下、GSV）の形態で実施した。本研究ではこの GSVのプロセスを振り返り、教育機関における GSVの今後の展開につなげたい。２．研究の視点　実施した GSVを振り返るにあたり、スーパービジョンについての課題意識を踏まえ、GSV の考え方を示す。（１）スーパービジョンのタイプ　スーパービジョンには、問題対応的、事前対応的、日常対応的の３つのタイプがある（木戸ほか，2020）。本 GSV実施プログラムでは、問題の徴候把握や状況予測、早期対応に焦点をあてる、事前対応的スーパービジョンの適用を図る。（２）GSVの考え方　GSV は、スーパービジョンの諸責任を遂行するためにグループを活用するものである。GSVにおいてスーパーバイザーは、複数のスーパーバイジーの実践経験に対する管理的、教育的、支持的責任をもつ。スーパーバイジーは相互に経験を共有し、サポートし合い、学びの共同責任をもつ（Kadushin，2009）。　利点としては、スーパーバイジーどうしが経験を共有する機会となり、「教え－学ぶ」経験が活用され、相互のサポートシステムになる。不利点としては、スーパーバイジーが共通して抱える普遍的なニーズに焦点をあてることになる。また個別スーパービジョンに比べると、グループのコミュニケーションが複雑になる、ということが挙げられる。地域における包括的な支援に向けた協働体制の構築と活用～実践学習機会としてのグループスーパービジョンを振り返って～日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科（専門職大学院）教授　木　戸　宜　子－ 81 －３．研究方法　GSV 実施プログラムのプロセスを振り返り、包括的な支援への適用性について考察する。　GSV実施プログラムは、以下のとおりである。（１）実施体制・専門職大学院スーパービジョン規程に基づき、認定社会福祉士取得希望者を対象とする・教員がスーパーバイザーとなる・１グループ４名のスーパーバイジーで構成し、２つのグループを形成する・スーパーバイジーは現任の社会福祉実践リーダー職で、それぞれ異なる分野・機関に所属する（２）プロセス・内容・契約→GSVセッション 8回（1回 90分）→総括スーパーバイジーは、課題やテーマについて 1回以上の報告が必須である（認定社会福祉士制度スーパービジョン実施マニュアルに基づく）・実践場面経験の言語化、課題やジレンマの共有、リフレーミングなどを行う・加工された事例や実践場面を扱い、守秘義務を課す（３）ねらい・スーパーバイジー自身が所属組織や実践フィールドにおいて、管理者やリーダーとしてスーパービジョンを担うのに必要な視点を身に着ける・実践状況を先に進めるために必要な、関係者の協働・相互作用への働きかけを考える　倫理的配慮について、本研究は日本社会福祉学会研究倫理指針、日本社会事業大学研究倫理規範に基づいて行い、GSV ならびに実践場面に関係する個人や個人を特定する情報は扱わない。４．結果　GSV セッションの 8 回の内容は、以下のようになった。・前半 4回は、1人 1回実践場面を報告　報告者が他のスーパーバイジーとともに実践場面を振り返り、実践状況を先に進めるためのGSV・後半 4回は、前半で報告された実践場面を中心に、実践者による会議を想定したロールプレイ　地域ケア会議、組織内スーパーバイザー会議、部署内ケース会議などの場面を想定　ファシリテーター、スーパーバイザーとして実践場面を先に進めるためのGSV図１　セッション内容（例）セッション内容（例）　地域の支援会議場面のロールプレイ参加者：病院 SW、学校担任、保健師、民生委員「病院のソーシャルワーカーから、Aさんの…について連絡がありました。　Aさんの支援計画を検討します。」（１）Aさんやとりまく状況の強みをアセスメント（“ここがいいね”）（２）参加者の役割に基づく、各支援計画の確認　　“病院では主治医と退院後の療養方針について確認します。”　　“学校では・・・について、検討します。”　　“保健センターでは、・・・の支援をします”（３）支援計画の効果予測－ 82 －　セッションは、支援計画、活動計画に焦点をあてることによって、実践状況を先に進める意識をもつねらいがあった。参加したスーパーバイジーからの意見としては、職場でのパターン化した思考から離れることができる、先の見通しを考える、客観的に捉えることができる、などといった、自身の視点に関するものが挙げられた。またセッションをとおして感じたこととしては、会議をとおして支援することを学んだ、場面における役割をとおした言動・相互作用が生じた、何が起こるのか想定しておくことができた、管理者の立場の孤独を感じた、など実践場面上の役割や相互作用に関するものが挙げられた。　実践上のジレンマの共有は、スーパーバイジーの抱えている荷を軽くすることになり、スーパーバイジーの実践領域は多様であっても実践課題に対して共感性の高い追体験の機会となった。５．考察　実施した GSVのプロセスを振り返り、GSVの意義、包括的な支援への適用性について考察する。（１）GSVの意義　GSV の効果性としては、各セッションにおいて報告された実践状況を先に進めるために、スーパーバイジー相互のエンパワメントや支持機能が発揮され、スーパーバイジーが学びあう教育的機能があったと言える。スーパービジョンの管理的機能については、教育機関としてスーパーバイジーの実践の質の評価、担保を果たしたと言える。　またセッションが進むにつれ、スーパーバイジー各自の独自性の理解・尊重し、相互作用が深化し、現任の実践者の実践学習機会として有用であった。異なる機関、分野の実践者がスーパーバイジーとなって実施したこの GSV での学びは、終了後にスーパーバイジーがそれぞれ自身の所属機関や実践フィールドにおいて、応用していくことが課題となる。特にスーパービジョンの管理的機能や、事前対応的スーパービジョンの活用により、会議進行やプランニング、予測的対応などの前方視的な実践につなぐ必要性がある。（２）包括的な支援へのGSVの適用性　地域における包括的な支援に向けては、潜在的なニーズの把握・対応のために、多機関、多領域での協働が求められる。特にマネジメント、スーパービジョンを担う実践者には、一つの実践場面をもとに、会議体を構成し、協働体制を構築、活用する力量が求められる。ジェネラリスト視点で言えば、組織や地域を含む、メゾレベルでの働き図２　地域における包括的な支援体制の構築に向けて地域でうかがわれる事象ニーズの潜在化支援状況の複雑化地域における包括的な支援体制GSV組織・会議事例事例SW方法論アウトリーチ、支援会議、予防的支援、連携協働、事例集約など役割・相互作用の体験→会議進行想定実践者の支援スキルの課題求められる役割・学びの波及効果⇒地域の協働体制構築ミクロ管理的機能、事前対応的SV支援者、住民・関係者、事業所、支援会議、協議会など会議・組織運営の課題メゾ(組織)メゾ(地域)－ 83 －かけが必要になる。教育機関における実践者教育においても、メゾレベルの協働や相互作用の促進につながるスーパービジョン教育が必要であると考える。GSV では、実践者個人の支援スキルの向上だけではなく、グループの相互作用体験をとおして、包括的な支援においてリーダー職に求められる、会議や支援体制を動かすスキルに焦点化する意義がある。６．結論　グループの相互作用を活用し、前方視的な実践につなぐことを意図した GSVの、包括的な支援への適用性は高い。スーパービジョンの学びをとおして、組織や地域（メゾレベル）を対象とした実践への波及効果を期待する。　包括的な支援におけるソーシャルワーク方法論としては、アウトリーチ、支援会議、予防的支援、連携協働、事例集約などが重要になってくる（原田 , 2022）。今後は、これらを焦点化したGSVのセッションの企画を検討し、実施していくことが課題である。＜文献＞・Kadushin, A. Harkness, D.（2009）Supervision in Social Work 5th ed.（＝ 2016, 福山和女監修『スーパービジョン イン ソーシャルワーク（第 5版）』中央法規 .・木戸宜子・有馬知良・宮川恭介「福祉組織におけるスーパービジョンのあり方」（日本社会事業大学『社会事業研究』59, 2020）・原田正樹「包括的支援体制の構築に向けて－協議過程での留意点」（全社協『月間福祉』2022, 7 月）

【分科会】地域における包括的な支援に向けた協働体制の構築と活用～実践学習機会としてのグループスーパービジョンを振り返って～

高木剛

【研究ノート】ドイツのAltenpfleger 養成教育課程における修得度評価の法的枠組み―求められるコンピテンシーと試験の実施方法を中心に―

青木尚人

【原著論文】社会事業主事と社会事業主事補に対する認識-戦前の文献レビューに基づく検討-

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