[要旨] 病原性細菌が産生する蛋白性のAB5型トキシンは1個のAサブユニットと5個のBサブユニットから構成される外毒素である。両サブユニットはそれぞれ特徴的な役割を持ち,互いに巧妙に機能分担をして一つのトキシンを形成している。Aサブユニットは主に毒性に直接関与する特異的な酵素活性を有する。一方,Bサブユニットは標的細胞のレセプターに対する結合能を有し,AB5型トキシンを標的細胞に吸着させる。ここでは毒性が全く異なるAB5型トキシンとして,コレラ菌が産生するコレラトキシン(CT),腸管出血性大腸菌が産生する志賀様トキシン(Stx),及び志賀トキシン産生大腸菌が産生するサブチラーゼサイトトキシン(SubAB)の3種類に関して,その作用メカニズムに着目した毒性を抑制する阻害因子の探索などの研究を紹介する。これらの3種類のAB5型トキシンに着目した理由は,それぞれのトキシンを産生する病原菌による感染症が世界的に流行し,社会問題となっているからである。つまり,コレラ菌は依然として発展途上国で大きな問題であり,腸管出血性大腸菌のO157:H7による集団食中毒は我国でも依然として多い。さらに21世紀になり,血清型がO157:H7以外の腸管出血性大腸菌による集団食中毒が世界的に急増しているためである。いずれも抗生物質を使用した後の残留トキシンによる病態悪化が指摘されており,トキシンを効率よく無毒化する事が急務である。[SUMMARY] Bacterial AB5 toxins are proteins, produced by pathogenic bacteria including of Vibrio cholerae, Shigella dysenteriae, and enterohaemorrhagic Escherichia coli, which are usually released into the extracellular medium and cause disease by killing or altering the metabolism of target eukaryotic cells. The toxins are usually composed of one A subunit(a toxic domain) and five B subunits(a receptor-binding domain). This article overviews the characteristics and mode of actions of AB5 toxins including cholera toxin, Shiga-like toxin, and subtilase cytotoxin, and highlights a project on the novel inhibitors against these bacterial AB5 toxins