Shirakami Noriyuki

白神 典之

Kansai University Repository

[資料紹介] 玉手山七号墳採集の石製盒子著者 白神 典之雑誌名 史泉巻 56ページ 119-123発行年 1981-11-20URL http://hdl.handle.net/10112/00026507＾資料紹介＞玉手山七号墳採集の石製盆子T •し昭和五十五年十二月七日、大阪府柏原市玉手山七号墳（後山古墳）を見学中、石製盆子の身の部分一点を採集した。いうまでもなく玉手山古墳群は、柏原市の玉手山丘陵にあって、古墳時代前期後半に編年できる前方後円墳を中心とし、白神典之若干の円墳が密集して構成されている著名な古墳群である。そのなかにあって第七号墳は主軸全長約一五0m、玉手山古墳群のなかで最大規模をもつ前方後円墳で、勝敗山古墳（第三号墳）と共に古墳群の中核であるといえる。この第七号墳の現状は、後円部の頂上部に一基の宝徳印塔があり、その辺りは玉手山遊園地の展望台となり、封土がか① なり荒廃している。また竪穴式石室の石材と推定する石材が散見し、主体部はいつの時代か盗掘をうけた様相がみられる。さて今回採集した石製愈子は、後円部の墳頂と思われる位置にあった。遺存状態は合血子の口緑部の欠損している部分を上にして斜めになり、地表面から僅かに露出していた。この欠損部はかなり以前に受けた損傷と思われるが、中央部の損傷は最近時になって生じたものと考える。したがって、その遺存状態から、副葬当初の位置ではなく、明らかに後世に原位置から移動しているものと判断する。ロ採集した石製盆子は、形態↑ x印採集地点-119-としては隅丸方形に近い楕円形を呈している。その口縁部外径は長径一0.-g（推定）、短径七・九e（推定）、底部外径は長径一三・八cm、短径――・――-cm。ロ縁部内径は長径九•五cm（推定）、短径七•四8、底部内径は長径七・七cm、短径五・七cmで、内面は底部に近づくにつれて狭くなっている。器高は六•六cmで、裾の部分は段をなしている。深さは最も深いところで口縁下四・九cmである。脚はない。底は外縁部を一cm幅で残して内側をO・ 1 ~程削り＜ぽめている。特筆すべきは、底部外面中央部に何かの構造を模したような線刻が施されていR ることである。線刻は直線で、短径と平行の方向に幅0•五cmあけて二条をなすものが、ニ・三cmの間隔でニカ所に施されている。片方は実際には三条あるが、一条は明らかに手違いによるものらしく、刻みも浅く刻線も弱い。蓋と身の合わせ方は通常、印籠式と称されるもので、身部の口緑につづく側面では受け部が凸帯となっており、口縁長-120-、＼之ごシ゜10cm -121-軸の両端に対になるよう耳状の造り出しを設け、紐通しと思われる孔を各々二個ずつ穿孔している。なお、肉眼観察によると穿孔の技法は上から下への一方向のみと思われる。盆子の荒仕上げは、盆子に対して上下方向、あるいは放射状にエ具を施したものとみられる。また、仕上げはそれとは反対にヨコ方向あるいは円弧状になされたらしい。外面は丁寧に磨き上げられているが、内面の底は部分的にエ具痕を残し、やや雑な仕上げとなっている。原料石材は泥滑石であが。国古墳出土の盆子について、西谷真治氏によれば、わが国出土の石製盆子出土地の明確なものは三十数例を挙げることができ、その分布範囲は、東は愛知県、西は岡山県の間、すなわち畿内及びその周辺に局限され、出土した古墳は、墳丘・遺物などから、前期から中期にかけての時期に築造された著④ 名な古墳に多いということである。今回採集の合皿子は泥滑石製で、楕円形を呈しているが、この石材質、形態で紐孔付突起を有するものは非常に稀有な例といえる。さらに、紐孔付突起で各々ニカ所穿孔しているという事実や、滑石製盆子で印籠合わせであるということも特記すべきことであり、底部に線刻が見られるということも、管見ではあるが他に類例を見ない特殊なものである。さらに、石製盆子の採集位置が第七号墳の墳頂に近い位置であるということは、未調査であるこの古墳の時期や性格を類推できる資料となり得る。また、大阪府下での石製盆子の明確な古墳よりの出土例としては、高槻市弁天山C一号墳の事例に次ぐ二例目であり、そして旧河内国よりの初めての出土例といえる。周知の如く、河内地方は応神天皇陵をはじめ巨大な前方後円墳を中心とする大古墳群が築造された場所であると共に、これらの近傍にも玉手山古墳群にみられるような古墳群が形成されている。そのなかにあって、今日まで石製愈子の出土例は知られていなかった。そうした意味で、ここに紹介するこの採集資料は、今後のこの地域の古墳を研究する上で、重要な意味をもつものといえる。図資料紹介の準備をすすめていた頃、大阪府教育委員会•松-122-岡良憲氏から、盆子蓋部がすでに採集されていることを知らされた。以下、蓋部について併せて紹介する。なお、これについては八尾市教育委員会・山本昭氏の御好意によるものでR ある盆子の蓋部は、昭和四十九年九月一日に東大阪市若江西新町一丁目七ー三八・林栄夫氏によって採集された。同氏の記憶によると、地点は第七号墳後円部中央で、平坦面の南肩部に近いところという。前日の小台風によって墳丘上の表土が雨で流され、蓋頂部の稜線が僅かに見える程度であった。亀甲状で滑沢があり、特異な形状であるところから、この七号墳にかかわりのある遺物で、容器の蓋であろうと判断し、採集されたものである。形状は滑石製盆子に通有の平面楕円形の蓋で、器表は身部同様よく研磨されている。内面の内剖りは表面ほどの仕上げをせず、刃物痕を残している。外面は削り出しの凸帯を二条巡らし三区画している。上部は蓋の長軸方向に比較的鋭く稜線をつくる。しかし、この稜線は緑辺部には及んでいない。下段の凸帯は幅広で太くつくり、長軸両端に紐孔付突起（紐座）をつくる。紐孔付突起は両端部とも欠損が著しく、紐孔は不鮮明ながら二個を穿っていると観察する。穿孔は両面からである。全体の仕上げは精緻な工作とはいえず、二条の凸帯もやや粗い削り出しで、エ具使用痕を残し、幅も不揃いである。しかし、全体としては盆子にふさわしく均整のとれた形状といえる。各法量は器高五・九8、外径の長径――•九e、短径九•四8、内径の長径―-．-＝-e、短径九•015、内面高さ四・八8を測るもので、先の身部と同一個体であることは確実である。註①これは墳丘全体についても言えることで、盛土が崩れて葺石が断面に出ている所もある。③管見では他に類例を見ていないので、何を意味するものなのかは断定できなり御教示頂ければ幸いである。③石材の肉眼鑑定は、関西大学工学部教授谷口敬一郎先生にお願いした。先生に深謝いたします。④西谷真治「古墳出土の盆」（『考古学雑誌』第五十五巻第四号、昭和四十五年）⑥蓋の実測図も山本氏より提供していただいた。記して感謝いたします。（付記）本資料拾得後、文化財保護法に基づく諸手続および取扱、資料についての御教示、並びに資料の報告に関し御指導と御高配をいただいた指導教授網千善教先生、また、蓋の紹介について発表の機会と便宜を与えて下さった八尾市教育委員会山本昭氏、さらには遺物発見の手続その他で、大阪府教育委員会松岡良憲氏・阿南辰秀氏、柏原市教育委員会竹下賢氏をはじめ、関西大学文学部史学・地理学科四年生西本安秀君・森田実君・三年生上田睦君ら考古学研究室の同僚の多くの方々に御世話になったことに対し、記して謝意を表します。-123-

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