プロジェクト番号 : A09-74一般研究 : 外部資金獲得促進研究textapplication/pdfresearch repor

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YAMAMOTO, Ryo

山本, 良

Japanese

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

プロジェクト名：「対抗措置」の行使と紛争の平和的解決プロジェクト代表者：山本 良（教養学部・教授）１ 国際法上の対抗措置の概念国内社会とは異なり、分権的な性格をもつ国際社会では、法の執行は基本的に国家自身の手により行われる。例えば、他国の国際違法行為により侵害を受けた国家は、当該国際違法行為の中止や賠償をもとめて、条約や慣習国際法の対抗的不履行などの一方的な救済に自ら訴えることが認められている。こうした措置は、かつては「復仇」と称されていた。しかし、復仇は現象的には戦争と区別しがたく、また「強者の法」というイメージがつきまとうものでもある。そこで、国際関係において「武力行使」が基本的に禁止されている現代では、よりニュートラルな「対抗措置」(countermeasures)という文言が使われるようになった。国家が国際法を遵守する動機にはさまざまなものがあるが、自らが国際違法行為を行った場合に相手国によるこうした対抗措置が行使される可能性は、今日においても国家が国際法を遵守する主要な動機の一つである。２ 対抗措置の行使と紛争の平和的解決をめぐる問題状況こうした対抗措置の行使は、当該国家自身により判断される「私的正義」の主張であるため、その正当性、必然性に関して疑義がある場合もある。また、軍事力の行使をともなうものではないとはいえ、対抗措置の行使は、一定の物理的手段でもある。その結果、対抗措置の行使により国際紛争がかえって激化する可能性も捨てきれない。そのため、対抗措置の行使にあたっては、従来以下のような見解が主張されてきた。すなわち、国家は対抗措置を行使するに先立ち、国連憲章2条3項および33条に規定された紛争の平和的解決手続を完了すべきである、という。しかし、こうした見解に対しては、紛争の平和的解決手段を完了することは、国際違法行為の被害国に対して過大な負担を強いるものであり、当該手続の完了がしばしば長期の時間を必要とすることに鑑みても認められない。国家は、当該手続を完了する前に対抗措置に訴えることが可能であるし、特に国際裁判のような紛争解決手続の進捗をうながし、相手国が進んでこうした手続に参加することを確保するための一種の「暫定措置」としても、紛争の平和的解決手続の完了以前に対抗措置の行使はみとめらえるべきである、という。３ 対抗措置の行使と紛争の平和的解決に関する歴史的・現代的背景こうした対抗措置の行使と紛争の平和的解決の問題が初めてクローズ・アップされたのは，じつは戦間期にさかのぼる。すなわち、1923年にイタリアとギリシアの間に発生したコルフ事件において、イタリアは自国の軍人がギリシア領で殺害されたことに関連して、ギリシアに対して謝罪と賠償を要求し、その関連でコルフ島を短期間爆撃し、占領した。しかし、イタリアのこうした一方的な行動が国際連盟規約と両立するかどうか、すなわち国際連盟規約に規定された紛争解決手続を経ることなしにイタリアがこうした単独行動に訴えることが出来るかどうかが問われたのである。なお、この問題に関しては、1934年に万国国際法学会は「平時復仇に関する決議」を採択し、一定のルールの明晰化をはかった。つぎにこうした問題が再度脚光を浴びたのは、国連国際法委員会(ILC)による国家責任に関する法典化作業の進捗において対抗措置の概念が確立したことと、なかんずくその法典化の最中の1978年に生じた米仏航空業務協定事件をキッカケとしたものだった。同事件は、米仏間の航空業務協定の解釈をめぐって生じた紛争であるが、特に両国間の仲裁手続が進行中の時に米国がフランスに対して対抗措置に訴えることができるかどうかが一つの争点であった。仲裁裁定は、現代の国際関係においては、国家は自らの法状況を自ら決定し、紛争解決手続の進捗をうながすための手段として対抗措置に訴えることが可能であることを認めた。２で先ほどのべたように、国家は紛争の平和的解決手続を完了する前に対抗措置に訴えることが可能であり、当該手続の進捗をうながし、こうした手続に対する相手国の積極的な参加を確保するための「暫定措置」として、紛争の平和的解決手続の完了以前に対抗措置の行使はみとめられるという立場は、この米仏航空業務協定事件仲裁裁定に大きく依拠したものである。４ 対抗措置が行使される法状況の類型化の必要性国連憲章体制下では、武力行使が基本的に禁止されたため、対抗措置もかつてのような「強者の法」としての性格を失い、かわって紛争の平和的解決をうながしたり、国際違法行為による被害国の地位を一時的に保全する暫定措置としての性格をかえた。そのため、国家は紛争の平和的解決手続を完了することなしに対抗措置に訴えることが出来るとする議論が主張されている。しかし、こうした議論はいくつかの点で弱点を抱えている。第１に、武力行使をともなうような措置が禁止されたからといって、対抗措置のもつ欠陥が払拭されたわけではない。その欠陥とは、国際違法行為の存在や、対抗措置の行使、その程度などがすべて当該国家の一方的判断にもとづく、という点である。第２に、こうした立場が大幅に依拠する米仏航空業務協定事件の場合、同協定には予め紛争解決条項が盛り込まれており、関係当事国がもとめられたのは、仲裁人の選定などあらかじめ限定された分野における協力であった。したがって、相手国が手続をなかなか進めず、「時間かせぎ」的な行動をする場合にそうした回避するためにも、対抗措置の行使の可能性は有意義な手段だった。しかし、いうまでもなくあらゆる国際紛争においてこうした紛争解決条項を含む合意が前提されるわけではなく、同事件の仲裁裁定の一般化には慎重な態度がとられるべきである。第３に、国連国際法委員会の国家責任に関する法典化の際にも、第三世界諸国を中心として、対抗措置に対しては強い警戒感が示されていた。すなわち、対抗措置は、経済的な強者に関してのみ利用可能である措置であって、米国を中心とした先進国がこうした措置にしばしば訴えることに対しては、慎重な考えが示されていた。中でも、反対の急先鋒は中国であり、国家責任の法典化において国連国際法委員会が対抗措置に関する規定を設けて、国際法上その措置を「正統化」すること自体に対して最後まで反対の姿勢を貫いた。こうした状況に鑑みると、国連体制下において、すべての対抗措置の性格が「暫定措置」的なものに転化したとは到底いうことができない。換言すれば、米仏航空業務協定事件のような限定された状況においては、対抗措置の行使はきわめてニュートラルな性格をもつことが可能で、紛争解決の進捗をうながす手段として位置づけることができよう。しかし、それ以外の場合には、対抗措置が「強者の法」としての性格を完全に払拭したとはいえず、したがって当該措置を行使する前に紛争の平和的解決手続を完了すべきであるという立場は、いまだ説得力を失っていない。したがって、対抗措置が行使される場合には、いかなる法状況、いかなる文脈で対抗措置の行使が行われるかということを類型化することなしには、対抗措置の性格を一義的に規定することは困難である。５ おわりに以上を踏まえて、我々としては、法状況の一層の類型化を踏まえて、細密な議論を蓄積していくことが必要とされるのである。

「対抗措置」の行使と紛争の平和的解決

https://sucra.repo.nii.ac.jp/record/10811/files/KP21A09-74.pdf

「対抗措置」の行使と紛争の平和的解決

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