特集 教育学についてSpecial Section : On the Study of Educatio

下程, 勇吉

Japanese

Kyoto University Research Information Repository

RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:教育学の体系についての試案下程, 勇吉下程, 勇吉. 教育学の体系についての試案. 京都大学敎育学部紀要 1957,3: 89-921957-03-30http://hdl.handle.net/2433/282164教育学について：下程切れない関係があるというものの，実は教育法学にのみ認められる特殊なものがあるのではなかろうか。すなわち，そこに一般の行政法と異なった法理が存在するのではなかろうか。例えば，一般の行政法は技術的色彩がつよいといわれるが，教育行政法は技術的色彩を持ちつつも，あるいは倫理的色彩をも持つのではなかろうか。なぜならば，教育行政法は教育に関する行政法にほかならないからである。以上述べたことは，ひとり教育行政学や教育行政法学についていいうるのみならず，実は他の教育諸科学についても大なり少なりあてはまるのではなかろうか。若し，果してそうだとするならば，このような最大公約数的あるいは共通的要素ともいうべき一種の色彩を持つ諸科学は，教育学部の如き学部において始めて，相互の有機的な連繋を保ちつつ教育・研究されうるのではなかろうか。それで，右の教育諸科学は教育学部において，始めてその安住の地を見いだしたといつて差支えないのではあるまいかo要するに，同一の原理，同一の精神の支配する諸科学一その共通的なるものは，教育学的ないしは教育に関する色彩である一を教育・研究するのが教育学部であるべきだというのである。 私はここに旧帝大教育学部の存在意義なり目的，任務を見いだしたいのである。以上，述べきたったことを最後に要約しよう。各国立大学や学部の存立の根拠や目的等については，法律その他の国の教育法規で規定されているが，その範囲内でそれぞれ特殊性を盛った自主的な規程を持つことが認められていること。それゆえ各大学，学部はよろしくこのような規程を定むべきであり，特に教育学部についてはとりわすその必要があるということを前半に述べた。次いで，教育学部に関して現在耳にする 2・ 3の考え方があるが，いずれも妥当ではないと考えられること，それで教育学部は積極的に存在意義を見いだす必要があること，教育学部において現在教授研究の対象となっている教育諸科学は大体同一の原理，同一の精神が支配するのではなかろうか。すなわちそれは一の共通的な色彩を帯びた諸科学ではなかろうか。若しそうだとするならば，そのような諸科学を教授研究するところこそ旧帝大教育学部なのであって，そこに特殊の存在意義を見いだすべきではなかろうかというのである。教 育 学 の 体 系 に ついての試案下程 勇 吉I 教育学と人間学教育を定義して，教育は人間形成であるという人もあれば，教育は社会機能であるという人もある。しかし如何に汽人間喪失ミの現象が著しいといったところで' :::-人間ミをぬきにして教育は語られない。人間を根本的全体的にとらえることなしに，教育学なるものは成立し得ぬであろう。人間全体を根本的にとらえる学を人間学といえるとすれば，人間学なくして教育学はなく，教育学をふくまぬ人間学はない。人間学は教育学の基礎をなし，教育学は人間学の結語であるといはれるであろう。（その点については， 「教育研究事典」中の拙稿汀役育哲学ミ長田氏編「教育哲学の課題」中の拙稿汀攻育学と人間ミ参照）教育学の人間学的基礎が教育学乃至教育哲学の根本的課題となる所以であり，人間は- 89 -京都大学教育 学 部 紀 要 I根本的に教育的存在であるといはれる所以である。Il 教育原理 教育学は何よりも先ず教育の発生•本質・機能・方法・対象·目的を究明しなくてはならない。これらの点をプラクティカルな見地から明かにするものは「教育原理」といわれるであろう o教育の発生に関しては，教育が社会的磯能である面が強く浮び上り，教育社会学や教育史がこの点について多くの示唆をあたえるであろう o教育の方法については，カリキュラム・学習法等について教育心理学・教育社会学・教育行財政学から示唆せられることが多いであろう。対象については，学校教育と社会教育，一般敦育と専門教育乃至吼業教育等の問題が究明せられねばならない。更に教育の目的に関しては，教育の目的が歴史的に変わるものであるか，それともそれは超時代的に普遍妥当的なものであるかが間われること，それが空間的にはそれぞれの社会によって異るものであるか否かが間われると同様である。この点については，教育史・比較教育学・文化人類学等が多くの示唆を与えるであろう o教育の目的の間題はまた必然に教育における理想的人間像の問題となり，ことに現下の中心間類の一つである道徳教育の中心的間題としてその究明が要求せられている。冊 教育科学と教育哲学教育活動は如何なる場合にも一定の傾向をもつという意味で目的性を一一顕勢的にせよ，潜勢的にせよー一宿している。これは意図的教育の場合にも，機能的教育の場合にも，いわれることである。そこから一定の目的を実現する教育の方法が取り上げられるわけであるが，近代社会の技術巾心主義は教育の場をも支配し，教育技術至上主義をも生み出すに至ったo教育の場が集団的社会となった近代においては，教育者の個人的感化に訴えるごときことがきわめて稀有となり，マス・コヽノミュニケーショソに訴える技術至上主義がそれにとつてかわったともいわれ，ここに近代教育学が技術中心の実証主義的立場を「教育科学」の名で力］蚕くおし出して来た所以もあるのであるが，われわれはこの立場の意義を十分にみとめるとともに， J. Maritain等とともに，技術のみに偏して目的を忘れる機械的立場に対しては十分に批判」的でなくてはならぬであろう。教育は遂に「人間を人間にまで目覚させること」であるからである。その限り，教育技術中心の「具体的教育学」としての「教育科学」の立場と，教育目的を明確につかむ「根源的教育学」としての「教育哲学」の立湯との一円的相叩性があくまで生かされなくてはならぬのである。この点では教育の目的は教育の過程・方法自体のうちに内在するとする立場が忘れられてならぬところである。このことは，教育は社会の現実的要求よりおこるとなす敦育史的教育社会学的立場に対しても，批判的反省を求めるといはれよう o教育はもとより社会の現実的要求よりおこり，それと消長を共にするものであるが，それとともに，教育はまた人間の本質的要求をみたすものでなくてはならない。教育が社会の現実的要求にこたえるのは，教育が充さねばならぬ必要な条件である。それが更に人間の本質的要求を充すに及んで，教育はその十分な条件を充したといわれよう。しからば，人間の本質的要求とは何であるか。ここに「教育学的人間隊」が人間学的教育哲学的に究明されねばならぬ所以があるのである。IV 教育的人間像の人問学的究明 教育学的人間像を究明する立湯はもとより人間の本質的構造の把握をめざすものである。しかしここでわれわれは人間の本質を超歴史的に―いはば「幾何学的方法」によってとらへ得るとなすものではない。人間が根本的に社会的歴史的存在である以上，人間の本質もまた社会- 90 -教育学について：下程的歴史的制約の相のもとに把握せられるのほかはない。この点では，入間の本質的把握と歴史的把握とは徹底的に相即的であることの自覚が方法上必要である。このことは，教育学の体系がたえず教育史的研究と相即的でなくてはならぬと同様である。ところで，教育学的人間学の基本的範疇として，物質•生命・意識·社会・精神・超越の六つをあげることができる。この順序は下から上に及ぶ六段階であるが，下のものは上のものに，また上のものは下につながるものとして，すべては上下一円的相即性の場にあるといわれる。R 物質•生命の段階において，われわれは「教育の物質的・生物学的•生理学的基礎」を与えられ，ここでいわば「教育生理学」が可能となる。この場を支配する根源的法則は，生理学者・理論生物学者の示唆するがごとく， 「勤的平衡」または「力動的恒常性」である。この基本範疇にもとずいて，われわれは，一切の成長の基礎としての「身体的成長」 「健康」 「情緒的安定性」等の教育学的規定を究明しなくてはならない。ことにこの次元において極めて重大な意味をもつのは，深層心理学・精神病学の知見である。これは人間の全体的把握に対して根源的基盤を可能にするものであつて，教育学の近代的性格はここに負うところ大である。R 生命・意搬・社会の段階において，われわれは「教育の心理学的社会学的基礎」を与えられる。この段階を貫く人間学的規定は「逆説的二重［生」である。 この人間学的規定に対応する教育学的規定は「教育学的二律背反」であって，この段階でとり上げられる学習法・教材論・訓育論・人間関係・社会関係等々があげて硬教育と軟教育，保守主義と進歩主義等の相反する主張となつてあらはれる所以である。このことは， 「経済人」 「政治人」の人間像を中心とした「教育と政治乃至経済」の間題に思いいたれば，いよいよ明かさを加えるであろう。この点からいつて，極めて重大な意義をもつものは，社会的知性の教育の間題である（拙著「社会的知性の教育」 「道徳教育の人間像」参照）。とくにこの点よりして，学習論上重大な意味をもつているものは，間題解決学習である。ここに近代学習論の帰結の一つがあるといわれよう（拙著「近代学習原論」参照）。c 精神・超越の次元 ところで，以上のべた諸段階に詞いて，いろいろの方法・知見があたえられるのであるが，それらに究極の統一を与えるものは未だ与えられていない。かかる「意味賦与的なもの」はフッセル的にいえば「教育学的残基」ともいわれよう。各種の方法・知見を統一し，生きた人格の全面的統合と全面的はたらきあいを現成せしめる場の原理は如何にして与えられるであろうか。このことをぬきにして，いわゆる進歩主義を誇号するがごときは，その学的探求の態度に詞いて安易にすぎるといわれよう。ここには，教育学の体系に最後の魂を入れる教育哲学的原理が間われ，ここに「教育の宗教的基礎」が間題となるであろう。これが「精神・超越の次元」である。この次元を貫く基本的範疇は背色対的に独立するものの絶対的結合ミとしての「離接的統一」である。ここに代理不可能的な個人は青色青光赤色赤光的に自己本来の面目を実現しつつ，絶対者の光の下に愛の共同体の場に住するであろう。しかし，かかる最高の段階はその光を最下の段階である物質・自然•生命にもさし入れている。ここに，物質・自然・生命も具体的には歴史の場においてあるといわれる所以がある。またその逆に，物質・自然•生命はそのエネルギーを最高の段階にも及ぼしている。ここに最高のものと最低のものとの相互交流的一円統一の立- 91 -京都大学教育 学 部 紀 要 i場が教育学的人間学の体系を可能にし，最低の次元の物質も宗教的なものとして一切の人間を生かす徳の海としてとらえられる（拙著，「二宮尊徳の生活と思想」参照）。この立場の意義は原子力戦争の脅威にさらされている今世紀の人類にとつて致命的重大性をもつといわれよう。V 教育学の諸体系の人間学的位置付け 以上のような人間学的立場をとるとき，歴史的にあらわれた教育学の諸体系をわれわれの立場において布置してみると，ほぼ次のごとくなるであろう。左右に R.Ulichによって形而上学的一理想主義的教育学と社会学的ープラグマティズム的教育学とに配当し，これを「上からの教育学」と「下からの教育学」とよぶならば，次のごとく図式化されると思われるが，これももとより一つの試みであることはいうまでもない。この左右の対立はそれ自体渭女育学の二律背反..:::を反映しているといわれよう。上からの教育学（神・価値・自由） 下からの教育学（国家・社会•生活）国家教育学・軍国主義教育学宗教教育学homo religosus 理想主義教育学homo sapiens 人文主義教育学文化教育学homo loquens 人格教育学homo moralis 政治教育学・教育科学派homo politicus 社会教育学homo socialis 実学主義教育学プラグマティズムhomo faber 唯物論的教育学homo naturalis 教育の意味と機能ー教育科学のための基礎概念として一高 瀬 常 男1 教育という事象を基本的にどのように把握し，また，その追求のためにどのような学的方法を設定し確立したらいいかということは，狭義の教育学もしくわ教育哲学のごとき単一の学的課題領域のみに属する間題ではなくして，同時に，教育心理学，教育社会学といったような教育科学に従事するものが，なんらかの形で明確に謡識化し，概念化しておかなければならない最も中核的な間題であり，また，教育諸科学における課題群のなかの中心的な骨幣をなすものと考えることができる。従って，教育事象を基本的にいかに考えるかということいかんによつて，教育諸科学はその課題領域の規定の仕方，方法のあり方におのずから相違をきたすことになり，その結果，その間題性の枠組に，あるいは混乱を与え，あるいは統ーを与えることになるのである。そしてその間題性の整理と確定化は教育学の歩んで来た学史そのものか- 92 -

教育学の体系についての試案

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