13301甲第5646号博士(薬学)金沢大学博士論文要旨Abstrac

KONUMA Mika

小沼 実香

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漢方生薬「附子」原植物Aconitum carmichaeliの栽培に関する研究著者 小沼 実香著者別表示 KONUMA Mika雑誌名 博士論文要旨Abstract学位授与番号 13301甲第5646号学位名 博士(薬学)学位授与年月日 2023-03-22URL http://hdl.handle.net/2297/00069994Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja学位論文要旨  Abstract  “Bushi” is a herbal medicine used in Japan and China. The domestic self-sufficiency rate of Bushi in Japan is low at approximately 40%, and the rest is dependent on imports from China. In order to create a stable supply system for Kampo medicines in Japan, it is considered important to strengthen the production system from various perspectives. Therefore, the author conducted a cultivation study with the aim of strengthening the production system by improving the Aconitum species cultivation techniques, the source of Bushi. This study aimed to establish a method for the stable cultivation of A. carmichaeli in an environment that has been difficult to cultivate in summer. The results of a study of A. carmichaeli summer growth, yield, and cultivation treatments associated with early harvesting revealed that early harvesting just after the end of the rainy season can reduce the risk of summer mortality. It was also found that tuber thinning and stem cutting of stems increased yield during early harvest. Furthermore, growing seedlings in a plastic greenhouse over the winter accelerated post-planting growth, increased component content, and increased yield at early harvest. In addition, storing seed tubers in a cooler environment allowed them to be stored for a longer period of time. 【背景】 「附子（ブシ）」は日本や中国で使用される漢方生薬である．八味地黄丸や麻黄附子細辛湯などの附子を含む漢方薬は高齢者の諸症状緩和に処方され，超高齢社会である日本において，さらなる利用が期待されている．しかし，附子の国内自給率は約 40%と低く，残りは中国からの輸入に頼っている．最近は中国国内で生薬の需要が高まり，甘草や麻黄のように中国国内の資源を守るために輸出が制限されている生薬が存在することから，近い将来，附子の輸出が制限される可能性も考えられる．海外からの供給不安に備えて日本国内で附子の安定した供給体制を作ることが重要であり，様々な視点から生産体制の強化を図ることが必要である．そこで筆者は附子原植物の栽培技術を向上させることで生産体制の強化を図ることを目指し，附子原植物の栽培研究を実施した．  【目的】 本研究では Aconitum属植物の栽培技術向上を目的とし，特に，これまで夏季の栽培が困難であった環境で A. carmichaeliを安定して栽培する方法の確立を目指した． 第一章：A. carmichaeliを早期収穫方法の確立を目的とし，第一節では早期収穫を実施するために夏季の生育状況と収穫量を検討した．第二節では収穫量を増加させるために，定植後の処理方法として子根の間引き処理と摘心処理を検討した． 第二章：第一章で提案した早期収穫を含む新たな栽培法を完成させることを目的とし，A. carmichaeli の栽培時期以外に着目した．第一節では成分含量と収穫量の増加を目的として，冬季の育苗方法を検討した．第二節では 7 月の収穫時期から 12 月の定植時期まで種芋を保管するために，長期保管方法の検討を行った． 【方法】 植物材料は金沢大学医薬保健学域薬学類附属薬用植物園で系統維持しているハナトリカブト A. carmichaeliである． 第一章  第一節：夏季の生育状況を調査するために，①2018 年 11 月に 240 株を定植し，2019 年 6 月～8月で 4 回，健全株（枯れておらず，病害や倒伏の症状がない株）数を計測した．2019 年 12月 10日は 21 株定植し，2020 年 4月～7月に 4 回，健全株を計測した．②2019 年 7月 2日，7月 30日，8月 26日に健全株を 15 株ずつ収穫し，1 株あたりの収穫量，1 株あたりの子根数，重量別子根数を算出した．14～28 gの子根を収穫時期ごとに選別し，ブシジエステルアルカロイド：BDA（Aconitine，Mesaconitine，Hypaconitine）を定量した．  第二節：栽培処理の影響を検討するために，④2020 年に対照群（C），子根の間引き群（TT），摘心群（CS）を設け，栽培試験を開始した．TTは 6月中旬に株の中で最も大きい子根 2～3 個を残してそれ以外の小さい子根を取り除いた．SCは草丈が 1 mになったときに茎の頭頂部を切断した．2021年の 7 月に草丈，茎径，枯死率，倒伏率を計測した．⑤全ての株を 7 月に収穫し，子根数と子根重量を比較した．⑥子根の品質は BDAの組成および含量で評価した． 第二章  第一節：⑦育苗に適した種芋重量を検討した．2019 年 10月に育苗を開始した種芋（大：20～73 g /個，中：8～19 g /個，小：3～7 g /個）を 2020 年 4月に定植し，2020 年 7月中旬までに 4 回，栽培試験場における健全株の割合を計測した．⑧育苗条件を検討した．対照群（C）と 3 つの育苗群（屋外のビニルポットで育苗する群（PC），屋外のペーパーポットで育苗する群（PP），非加温ビニルハウス内のビニルポットで育苗する群（GH））を設け，2020 年 12月から 2021 年 3月まで育苗を実施し，翌年の 2021 年 3月に生存率と草丈を計測した．60 株ずつ栽培試験場へ定植し，2021 年 7月に生存率と草丈，茎径を測定した後，全ての株を収穫し，1 株あたりの子根数と子根重を算出した．⑨附子の品質を評価するために収穫した BDA含量を LC/MSで定量した． 第二節：⑩2019 年 7月 2日に収穫した A. carmichaeliの子根を，保管温度，保管場所，保管方法が異なる実験条件で2019年7月22日まで20日間保管した．⑪2019年8月26日に収穫したA. carmichaeliの子根を，緩衝材の種類，草木灰の有無，子根に存在するひげ根の有無の各条件で 2020 年 4月まで冷蔵保管し，子根の状況を観察した．これらの株は 2020 年 4月に定植し，5月に萌芽率を計測した．また収穫時期である 7月に生存率と草丈を計測した． 【結果】 第一章  第一節：①健全株の割合は 6月 14日で 70%となり，7月 23日で 42.1%，7月 31日で 31.3%，8月26日で 19.6に低下した．翌年の 2019 年 12月に A. carmichaeli 21 株を定植して同様の検討を行ったところ，健全株の割合は 4月 12日で 85.7%と高い値であったが，その後は 5月 21日で 71.4%，6月29日で 66.7%，7月 16日で 42.9%に低下した．②8月 26日に収穫した子根の１株あたりの収穫量は7月 2日，7月 30日の収穫でそれぞれ 23.8 g，25.6 gであるのに対し，8月 26日の収穫では 66.4 gと有意な差が認められた．１株あたりの 10 g以上の子根数は 7月 2日で 1.5 個，7月 30日で 1.7 個であるのに対し，8月 26日で 3.3 個と大幅に増加した．③BDAの合計値は 7月 2日が 0.808 mg/g，7月 30日が 0.843 mg/gであるのに対し，8月 26日では 1.240 mg/gと有意に増加した．一方で，BDAの成分比率は夏季の 3時点で変化が確認されず，Aconitineが 24～28%，Mesaconitineが 35～41%，Hypaconitineが 36～41%であった． 第二節：④収穫時期の草丈について，2020 年では TT1が Cの草丈と同等であったが，その他の群は Cの草丈より低かった．2021 年では Cが 89 cmであるのに対して TTは 91 cm，SCは 80 cmであった．茎径の平均値は 2020 年が 5.2 mm～7.5 mm，2021が 6.0 mm～6.4 mmであった．2020 年の枯死率は Cが 38.1%であるのに対して，TT1で 38.1%，TT2で 28.6%，SC1で 28.6%，SC2で 28.6%，TS1で 9.5%，TS2で 19.0%であった．TTと SCは処理の回数が増えても枯死率が増加しなかった．TSの枯死率は TS1より TS2で高かったが，TS2は Cよりも枯死率が低かった．2021 年の枯死率はCが 24.1%であるのに対して，TTで 24.1%，SCで 14.8%であった．倒伏率は 2020 年と 2021 年において，すべての群が 10％以下であった．⑤株あたりの子根重量について，10 g以上の子根だけで総重量を算出した結果，Cが 29.6 gであるのに対して，TTで 32.4 g，SCで 34.5 gと増加した．また，20 g以上の塊根だけで総重量を算出した結果，Cが 12.0 gであるのに対して，TTで 20.4 g，SCで15.2 gと増加した．総重量が最も増加した実験群は 10 g以上の子根では SC，20 g以上の子根ではTTであった．   図 18．子根の間引きもしくは摘心処理による植物あたりの子根総重量 C: 対照群，TT: 子根の間引き群，SC: 摘心，2021 年 7月 26日収穫， n = 37-43  ⑥2020 年の収穫物では TT，SC，TS において処理を 2 回行った群よりも処理を 1 回行った群でAconitineとMesaconitine含量が高かった．また，2021 年の収穫物では AconitineとMesaconitine含量が Cで 0.230±0.107mg/gであるのに対して，TTで 0.392 ± 0.120mg/gに増加し，SCで 0.139±0.037mg/gに減少した．Hypaconitine含量は TTと SCの両方で Cよりも減少した．  第二章  第一節：⑦6 月末の生存率は種芋重量に寄らず 70%程度であった．しかし，７月中旬になると種芋「大」と種芋「中」の生存率は種芋「小」と比べて急激に減少し，それぞれの生存率は 17%，35%，52%であった． 図 22．種芋重量の違いが春定植後の生育状況に与える影響  ⑧定植した 60 株のうち，C，PC，PP，GHにおいて倒伏した株数がそれぞれ 3 株，18 株，26 株，7 株であり，枯死した株数がそれぞれ 13 株，10 株，17 株，12 株であった．枯死数は Cと比較してPPで高く，PCと GHで低かった．また，収穫した子根の総重量について，GHは 5 g以上，10 g以上，20 g以上の重さの子根を対象とした総重量で Cに対して有意差が認められた．また，PCは 10 g以上と 20 g以上の重さの子根を対象とした総重量で C 群に対して有意差が認められた．PPに有意差は認められなかった．  図 30．収穫時における子根の総重量  ⑨BDA含量 育苗条件が異なる株を収穫し，子根の含有成分を定量した結果，全ての群について有意差は認められなかったが，Aconitineは育苗した 3 群の値がすべて Cより高く，特にGHで高値であった（図 31）．Mesaconitineは Aconitineと同様の傾向を示し，Cに対して GHが最も高値であった．HypaconitineはPC，PPが Cと同等であった一方，GHが低下した．  図 31．子根の BDA含量 n = 3．n,s,: Tukeyの多重比較検定で有意差なし   第二節：⑩培養土内に保管した条件では屋外で全ての子根，屋内でいくつかの子根が腐敗した．新聞紙を置いて屋外で保管した子根は腐敗しなかったが，ムカデやダンゴムシなどの害虫による食害の発生が予想された．4℃の冷蔵庫で新聞紙に包んで保管した子根は保管状態が良好であった．全ての条件でひげ根の有無による違いはなかった． ⑫定植から一ヵ月後の萌芽率と平均草丈，収穫時期の生存率と草丈はもみ殻を使用した条件と比較して，バーミキュライトを使用し．子根の切断面に草木灰をつけない条件で高くなった．草丈が最も大きい群は条件 8であった．  図 38．収穫時期の生存率 測定日は 2020.07.16．n = 20． 生存率 ＝ 地上部が確認でき, かつ，根が張っている株数 / 定植した株数 × 100 灰あり：子根の切断面に草木灰をつけた群，灰なし：子根の切断面に草木灰をつけなかった群，根あり：子根のひげ根を残した群，根なし：子根のひげ根を除去した群 【考察】 第一章  第一節：健全株の割合は 8月までに大きく低下し，特に 6月中旬から 7月下旬にかけて顕著に低下した．また，夏季の 3 時点で子根を収穫したところ，収穫量と成分含量は 7 月上旬から下旬にかけての変化が僅かである一方，8月下旬に増加が顕著であることが明らかになった．さらに，同数の株を定植した場合の収穫量を算出し夏季の 3時点で比較したところ，7月上旬が最も多くなることが示された．したがって A. carmichaeliの枯死のリスクを抑えるためには 7月上旬の収穫が適していると考えられる．  第二節：子根の間引き処理を行った実験区の枯死率は対照群と同等であり，摘心処理を行った実験区の枯死率は対照群より低くなった．また，生育状況を調査した株を収穫して子根の重量を計測したところ，子根の間引きや摘心処理を１回実施した株で 20 g以上の子根の数と総重量が増加した．したがって，子根の間引きと摘心処理は植物に負荷を与えず，子根の肥大に効果があることが示唆された． 第二章  第一節：定植直前の生存率は PC，PP，GHで 84%～98%と総じて高く，多くの株が定植時まで育苗可能であることが示された．また，7 月収穫時の健全株の割合は育苗群の中で GH が最も高く Cと同等であり，株あたりの子根重量も GHで Cより増加したことから，育苗条件は GHが適していると考えられる．したがって，非加温のビニルハウスを使用した冬季の育苗が A. carmichaeliの収量増加に効果的であることが示された．  第二節：収穫した子根は洗浄してひげ根を除去した後，バーミキュライトを使用し，草木灰をつけず，ひげ根を除去して冷蔵保管することで，定植後の生育を妨げずに長期保管できることが示唆された．  【結論】 本研究では早期収穫を含む A. carmichaeliの新しい栽培法を開発した．早期収穫は高温多湿な環境で発生する枯死のリスクや，台風や強風による倒伏のリスクを軽減するために効果的な方法だと考えられる．附子生産を目的とした Aconitum属植物の国内栽培はこれまで北海道や東北地方等の比較的寒冷な場所に限られていたが，本研究で提案した早期収穫を実施することで，今回試験栽培を実施した石川県を含む東北地方以南に栽培地を広げられる可能性が示された．これらの成果は国内における A. carmichaeliの栽培適地拡大に貢献し，生薬附子の国内自給率向上に寄与する．   審査結果の要旨  日本では漢方薬原料の多くを輸入品に依存しており，漢方生薬「附子」についても国産品を増加させることが課題である。しかし原植物である Aconitum carmichaeli は，その特性上，日本では栽培可能な地域が北海道周辺と限定されている。A. carmichaeli の新たな栽培体系の開発は，温暖な地域での栽培を可能にするとともに国産品の増加に繋がる。  A. carmichaeli は温暖な地域で栽培すると盛夏に枯死が頻発する。そこで申請者は盛夏前に薬用部位である塊根の収穫期を設定するという「早期収穫法」の開発を試みた。すなわち短期間で塊根を肥大させるとともにアコニチン系アルカロイドを増加させるための「早期収穫」，苗である種芋の「保管」，そして早期に萌芽させる「冬季育苗」に分けて実施し，それぞれ解決することに成功した。特に「早期収穫」は，小さい塊根の「間引き」および地上部の成長抑制としての「摘心」という栽培処理を適切な条件下で実施することにより，少数の塊根を肥大させ，アルカロイドも対照群と同等量含有されることを示した。 以上，本研究成果は従来の A. carmichaeli の栽培体系を大きく変えるものであり，これにより栽培可能域の拡大が見込まれる。この成果は学術的な重要性に加え，国産附子の普及に向けた貢献も大きく，審査委員会は本論文が博士（薬学）に値すると判断した。 

漢方生薬「附子」原植物Aconitum carmichaeliの栽培に関する研究

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