Article環境科学年報25:143-146(2003)research repor

佐藤,  利幸

戸田,  任重

朴,  虎東

村越,  直美

樋上,  照男

鈴木,  啓助

Japanese

Shinshu University Institutional Repository

(科学研究費補助金「諏訪湖・天竜川水系の物質循環、水循環とマネーフローからの研究」中間報告)諏訪湖一天竜川流域における天然物質の循環過程の解析鈴木啓助・戸田任重・佐藤利幸・樋上照男・朴 虎東・村越直美信州大学理学部Cyclic Process of Natural Substances in the Drainage Basin of the Tenryu River Keisuke SUZUKI， Hideshige TODA， Toshiyuki SATO， PARK Ho-Dong， Naomi MURAKOSHI Faculty of Sciences， Shinshu University キーワード: 湿性沈着、森林源流域、窒素安定同位体、シリカシンク、アオコ毒素Key words: wet deposition， forested watershed， nitrogen stable isotope， silica sink， microcystin 1 .はじめに流域系における自然起源物質の入力は、水としての降水および自然起源化学物質の大気からの沈着である。これに、人為起源物質の大気からの沈着および農業などの人間活動によりもたらさる物質が負荷される.また、流域系における入力と出力の間では、水の流下の過程での岩石土壌とのイオン交換や土犠微生物による窒素化合物の変質、生物体の腐食などがある。本グループでは、これらの流域内での物質循環過程を、自然起源物質を主な研究対象として研究する。2.研究の進捗状況と研究成果2 -1.天竜川流域の降水一河川流出系における化学物質の循環過程の解析(担当:鈴木、倉元、横山)天竜川流域の流域界をなす、八ヶ岳山塊、木曽山脈、赤石山脈において、冬季に降雪採取および積雪の全層採取を行った。その結果、本地域では降雪中に含まれる化学物質中の海塩を起源とする割合は極めて少なく、黄砂が観測される際には降雪中のCa2¥SO/"等の成分が大きくなることが明らかとなった。また、南岸低気圧の通過の際にもたらされる本地域での降雪中の NO)・InssSO/"比は lを超え、関西や中京地域からの人為起源の大気汚染物質が降雪に取り込まれて沈着していることが考えられる。また、天竜川支流小黒川の森林源流域において水文調査を実施した。観測項目は河川流量、河川水温、気温、降水量であり、河川水と降水を定期的に採取し、その化学分析を行った。河川流出高の増減に伴う河川水質の変動が認められ、 HCO)"濃度と Ca2+濃度の月平均値は流出高が大きくなると増加し、 NO)-濃度の月平均値は流出高が大きくなると減少した。陰イオンでは冬季に比べて夏季に HCO)・が多く生成されるために、河川水中のイオン組成が季節の推移とともに大きく変化していた。河川流量は常に変化しており、低水時には蒸発散による流出高の日変動がみられた。その際には、河川の流出高は早朝に極大、昼に極小を持つ日変動を繰り返し、河川水中のイオン濃度は、流出高が摺加したときに濃度が高くなる変化を示した。流出高の降雨による一時的な摺加時には、 NO)-濃度の塘加にともなって、 pHの低下が観測された。この時、河川水中の陰イオン組成では NO)ーと CIーの割合が大きく増加した。融雪による流出高の増加時には、 NO)・濃度は初期には高くなったが、後半は低くなる変化を示した。また、流域内への化学物質の沈着量と流域からの流去最を算出し、対象流域における物質収支を求めた結果、陽イオンではすべてのイオンで流去量の方が沈着量を上回った。 K+は植物からの起源が考えられ、 Na'¥Mg2+、 Ca2+は、土壇や岩石を起源として流出していると考えられた。一方、陰イオンでは、 NO)ーは年間を通して沈着量の方が流去量よりも多く、 CIの物質収支はほぼ釣り合っていた。【関連業績】鈴木啓助(2002):水素・酸素安定同位体を用いた流域水循環研究.信州大学環境科学年報， 24， 107・114.Suzuki， K. (2003): Chemical property of snow meltwater -143一in a snowy temperate area. Bulletin of Glaciological Research， 20， 15・20.2 -2.窒素分析による天竜川水系の窒素汚染源の特定と効率的な水質改善手法の策定(担当:戸田)諏訪湖への主要流入4河川の中では、流域に広大な農耕地が存在し、窒素濃度が高く、諏訪湖への窒素負荷も最大であるとみられている宮川において、降水時も含む定期観測(週 1回)を通年にわたり実施した。今回の観測l値から、流量と全窒索、全リン濃度との回帰式を求め、その回帰式を用いて宮川安国寺橋における 2002年 1年間の窒素、リン流下量を算出した。その結果、窒素流下量は 276tonN/yr、リンは 11.0tonP/yrとなった。期間としては 1年間の 1/6程度 (62日間)の増水時 (4m3/sec以上)に、窒素では 51%、リンでは 83%が流下している計算になる。降水時の栄養塩類の流出、特に懸濁態成分の流出が諏訪湖への栄養塩負荷に大きく寄与していることが判明した。【関連業績】戸田任重・中佐錦・平野弘蔵・上村由加里・沖野外輝夫・川島博之(2002):流域のつなぎ手としての物質循環.システム農学， 18，90・99.Toda， H.， Y. Mochizuki， T. Kawanishi， and H. Kawashima. (2002): Deni甘ification in shallow groundwater in a coastal agricultural釘eain Jap飢.Nutrient Cycling in Agroecosytems， 63， 167・173.Toda， H.， Y. Uemura， T. Okino， T. Kawanishi，飢dH. Kawashima (2002): Use of ni紅白genstable isotope ratio of periphyton for monitoring ni甘ogensources in a river system. Water Science and Technology， 46，431・435.戸田任重(2003):付着藻類の窒素安定同位体比から河川の汚染源を探る.水， 45，24・29.2 -3.天竜川支流におけるシダ植物の多様性と草本層の局所植物多様性の比較研究(担当:佐藤、永山、福原、中西・益永・高橋・常盤)(J)長野県中央部を中心に、なる水系各地域においてシダ植物の種密度調査 300地点 (そのうち 50地点では流水サンプルも)を行った。その結果、 1996年から 2002年で 857地点の資料が蓄積された。既存資料と蓄積資料を水平および垂直分布としてまとめた。メシダ属 15種のうち、低地型は長野県中南部、高地型は北西と南東部、ヘピノネゴザは 500か-144 ら 2000mもの幅広い垂直分布をもつことが示された(福原・中西・佐藤)。(2)高い局所植物多様性(l平方メートルあたり維管束植物が 25種以上)を示す地点が 15/300確認できた。この高い局所多様性を成立させる要因にひとつに、地表面の機地環境(貧栄養)が導く植物小型化が予想された。ツメクサ(ナデシコ科)、タデ科、イネ科が侵入する場合が多い(永山・佐藤)。これらをふまえ、(3) どんなサイズの空間が与えられると植物は小型化するかを実験的に確かめる試作ブロックを作成した。穴のサイズは径 5.1O.15.20mmの実験ブロックを作成した。これを応用して{緑の歩道」を設計する計画である(佐藤・益永・高橋・常盤)。【関連業績】生態科学における耐寒冷性:生物レベルの時空間スケールでの再考生物学データブック」 朝倉書庖 (2002) : 8112・8115.信州中央部におけるシダ植物の多様性と共存率.信州大学環境科学年報， 24，99・106.(2002) 草本植物の広がりと多様性ところかわれば生活かわる(第 3回)Jエルネット「オープンカレッジ」、高等教育情報化推進協議会生態学辞典:可塑性・着生植物・耐寒性・寄生植物の項目解説. (2003:印刷中)、共立出版.生命系のための雪氷環境、耐寒性 (Frostresist釦 ce)の再考.北方山草、 20: (2003:印刷中)山岳・里山がはぐくむ植物局所多様性.山岳叢書(I)信毎出版会 (2003:印刷中)2 -4.陸水域のシリカシンクに関する研究(担当:樋上)1) 2002年 8月-2003年 1月まで月 1回の割で、信濃川の千曲川と犀川のそれぞれ 3カ所、 (千曲川では上流より鼠橋、篠ノ井橋、落合橋、犀川では上流より犀川橋、大岡村、落合橋)計6カ所において定期的に採水し、ケイ酸およびリン酸の定量を行った。ケイ酸の分析は 0.2μmメンプランフィルターのろ過試料水とろ過済みフィルターについて行った。2)ろ過水についてはアンモニウムイオン (NH:)、ナトリウムイオン (Na+)、カリウムイオン (K+)、マグネシウムイオン (Mg2+) 、カルシウムイオン(Ca2つの陽イオン、塩化物イオン (CI・)、硝酸イオン (N03.) 、硫酸イオン (SO/.)の陰イオンの分析は紀本電子工業および滋賀県立大学に依頼して行った。3)鉱物起源のシリカおよび生物起源のシリカの分別的定量法(アルカリ摘出法およびシリカ・アルミナ相関法)の検討・開発を始めた。4)標準試料としての珪穏について淡水の珪藻の入手を検討中である。2 -5.天竜川上流域におけるヒゲナガカワトビケラ幼虫の食性および諏訪湖起源の餌資源への依存性(担当:朴‘中)11)富栄養湖である諏訪湖を水源とする天竜川の上流域において、ヒゲナガカワトピケラ幼虫の食性および諏訪湖起源の餌資源への依存性を、消化管内容物解析および安定同位体比分析の手法を用いて調査した。またそれらの現存量の季節変化を調査した。2001 年 10 月 20 日 ~2002 年 10 月 19 日の天竜川上流域におけるヒゲナガカワトピケラ幼虫の個体群密度および現存量はいずれも 5月に最大で2240inds .m.2、189g.m.2 にも達し、全国的にみてもヒゲナガカワトピケラ幼虫が非常に多く生息していることが明らかとなった。また多くの報告と同様、 4~5 月と 8~9 月に主に羽化期を迎える年 2 世代の生活史をもち、現存量は春先にかけて特に大きくなることがわかった。消化管内容物解析の結果、ヒゲナガカワトピケラ幼虫は 2002 年の 5~10 月の聞は諏訪湖起源の餌資源への依存性が高かった。 3月に関しては付着藻類への依存性が他の月に比べ高くなったが、これはこの時期水温が低いために、ヒゲナガカワトビケラ幼虫の摂食活動がまだ不規則であったこと、造網活動の低下に伴いヒゲナガカワトビケラ幼虫の摂食方法が変化したことが考えられた。一方、千曲川中流域のヒゲナガカワトピケラ幼虫は上流に富栄養化した諏訪湖を持つ天竜川のものとは異なり、河川の一次生産者である付着藻類に由来する餌資源を摂食していた。2001年 10月、 2002年 3月、 5月に関して諏訪湖藻類と河川の付着藻類へのヒゲナガカワトピケラ幼虫の依存度を、安定同位体比の分析結果から算出したところ、 2001年 10月と 2002年 5月は諏訪湖藻類への依存度が高かった。 3月は消化管内容物解析の結果と同様、他の月に比べて諏訪湖への依存度が低くなり、消化管内容物解析結果と同様、付着務類への依存性が他の月に比べ高くなった。本研究の結果、天竜川上流域のヒゲナガカワトピケラ幼虫にとって、諏訪湖藻類は河川の付着藻類よりも重要な餌資源、であることが明らかとなった。このことからヒゲナガカワトビケラ幼虫の高い現存量を支えているのは、上流からの豊富な諏訪湖藻類であることが示唆された。【関連業績】Yokoyama Atsushi and Park Ho-Dong (2002): Mechanism and Prediction for contamination of freshwater bivalve (Unionidae) with the cyanobacterial toxin， microcystin in the hypereutrophic Lake Suwa， Japan. Environ. Toxicol.， 17， 424・433.朴虎東 (2002):有毒アオコミクロシスチンの動態とその除去法.水， 44，20・32.Yokoyama Atsushi and Park Ho-Dong (2003): The depuration kinetics and persistent of cyanobacterial toxin， microcystin-LR， infreshwater bivalve Unio douglasiae. Environ. Toxicol.， 18， 61・67.2 -6.三峰川における砕屑物移動(担当:村越)中部山岳地域は山から出る土砂量が群を抜いて多く、ダムへの堆砂が問題となっている。三峰川では1989年(平成元年)から三峰川総合開発事業が進められ、美和ダム再開発事業では恒久堆砂対策として洪水バイパス(延長約 4.3km、流過能力 300m3/s)を建設して、 2005年(平成 17年度)から、流下してくるウォッシュロードを洪水とともにダム湖を迂回して下流に放流する予定である。このとき予想される高濃度の濁水流下にともなって河床環境が影響を受けるだろう。 t可床磯聞の空間は河床生物の棲息場所となっており、河床生態系にとって重要である。流水表面では十分に流速が大きく懸濁粒子は沈降しないときでも、底面付近は底面摩擦による流速低下がおこるので細粒な粒子が堆積可能となる。天然の河床の場合は河床機の凸凹によって底面付近の流速低下や渦流の効果が大きくなるので、細粒な粒子がさらに堆積しやすくなる。また、流路と砂磯堆、高水敷きや低水敷き、瀬と淵などの地形の違いによっても泥質な堆積物が発達する。さまざまな河床環境を構成する要素のなかでも基礎的要素である河床堆積物が高濃度濁水流下によってどのように影響を受けるか、現地調査と水路実験を進めている。[現地調査]地形・堆積物の調査。バイパス稼動後に高濃度の濁水が流下する高遠タ.ムより下流の区間-145一で、河床の堆積物の分布状況と粒度特性を把握。また高遠ダムの試験放水(最大計画流量 30m3/s) にともなって移動した河床礁のトラッピングによって、移動土砂の粒度を明らかにした。 2001年 1 月の高遠ダムの試験放水時に得られた流路内の移動土砂は平均粒径で最大3φ程度。マーキング礁の調査では cobble礁の移動が確認された。【水路実験]実験水路底に擦を敷き濁水を流下させて、磯間への泥の堆積量を決める要因を明らかにする。実験条件は、 1)流水中の懸濁物 濃度(500mg/I-15，000mgll :通水中一定濃度を保つ)が異なる、 2)流速 (0.22m/sec・0.64m/sec)が異なる、さらに、 3)通水時間が異なる(jhr・6hrs) 、4)通水中の懸濁物濃度を変化させるパターンで行った。その結果、際間への泥の堆積量は、1)濁水の懸濁物濃度、通水時間にほぼ比例して増加するが、 2)流速の大小にはほとんど関係が無い。また、 3)通水中の濃度のピークを遅らせるほど堆積量が増加すること、が明らかになった。【関連業績】村越直美・ 2000年度地球システム解析学実習履修生 (2002) 女鳥羽川の河床地形改変にともなった急激な側方侵食と土砂収支.信州大学理学部紀要，環境科学年報・信州大学- 25 (印刷中)村越直美・ 1999年度地球システム解析学実習履修生 (2002) 1999年大雨によって女鳥羽川河床に発達した深掘れ地形と砕屑物収支.信州大学理学部紀要， 37，ト9-146一

Cyclic Process of Natural Substances in the Drainage Basin of the Tenryu River

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諏訪湖一天竜川流域における天然物質の循環過程の解析

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