昨今医学研究においても厳格な法令順守に加えて環境並びに動物愛護等への配慮が最大限求められる状況で、我々の研究グループは、実験動物を犠牲にすることなく生体内の環境を再現しうる実験系の構築を目的に2019年に3次元(3D)細胞培養を用いた研究手法に着手した。まず実験対象として眼球周囲に加えて全身(内臓および皮下)に分布し、生体におけるエネルギー代謝の中枢である脂肪組織に着目した。その結果、驚いたことに通常の2D細胞培養に比べて3D細胞培養によって脂肪代謝の生物活性が著しく向上することを突き止め、3D細胞培養はより生体環境を再現しうる可能性を示唆した。続いて3細胞培養を用いて眼科関連疾患である近視、緑内障、増殖硝子体網膜症、角膜疾患および結膜疾患の疾患モデルを構築し、各種薬剤の治療効果判定や病態解明に関連する研究成果を報告してきた。これら一連の研究過程で見出された3D細胞培養の有用性から本手法は、眼科領域のみならず全身疾患である癌や心疾患のモデリングにも応用できる可能性に着眼し、本学関連の複数の講座との共同研究を開始した。その結果予想どおり3D細胞培養を用い癌並びに心疾患のモデリングに成功し、本手法がこれらの病態解明にも有効である可能性を報告してきた。一方、当初の私の考えでは、3D細胞培養は通常の培養シャーレで行う2D細胞培養の変法でしかないとその有用性を疑問視していた。しかし今回これらの研究を通じて3D細胞培養は単に細胞の性質を評価する2D培養とは全く異なり、むしろ臓器培養に近い手法であることが分かってきた。従って3D細胞培養にはまだまだ解明されていない特性があるものの、本手法の利用は新たな病態解明や治療法開発につながる可能性を秘め、3D細胞培養は今後ますます医学領域研究において重要な手法の一つになると確信する。
最後に眼科学講座という医学領域の中では非常に狭い領域ではあるが、今回の学内複数講座との共同研究で学んだことは「サイエンスは医学領域で共通言語である」という事で、今後無限の可能性を秘めた若き札幌医大の研究者たちに垣根を越えた自由な研究で、世界に新たな情報発信をしてもらえることを切に願っている。departmental bulletin pape
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